第959話、飛行クジラ戦


 飛行クジラの群れが、雲海を超えてアポリト軍空中艦隊に迫る。

 アポリト艦隊は、戦艦1、重巡5、フリゲート5。対して敵クジラは大小合わせて50は超えていた。


 俺はミラール級フリゲート『カルコス』号の後部デッキから、ブルやレオスと共に戦況を見守る。


 アポリト艦隊は艦首の主砲を右舷側に指向して、大型飛行クジラに艦砲射撃を見舞う。直掩の戦闘機や飛行型魔人機がクルーザーやフリゲートから飛び立ち、接近する小型飛行クジラを迎え撃つ。


 クジラは、赤い曲がる光線を一回につき八発発射する。

 その攻撃は側面装甲板を備えた重巡は耐える。だが、ミラール級フリゲートはシールドを削られ、二射、三射と食らって爆沈する。


「うーん、戦況はあまりよろしくないような……」


 カルコス号は調査隊を乗せているためか、艦隊でも重巡の後ろを進んでいるが、他のフリゲートはクジラ群に突撃し、次々に沈んでいった。


 大型飛行クジラは、全長150メートルくらいか。小型はおおよそ40メートルから70メートルほど。


 戦闘機や魔人機――リダラタイプが小型クジラに挑むが、こちらも圧倒しているとは言い難い。


「アポリトから援軍は来ねえのか!」


 ブルが荒々しく手すりを叩いた。レオスも渋い顔になる。


「これはマズイかもしれない」


 ……などと現地の方々がおっしゃっていますが。

 冗談じゃないぞこれは。俺はこんなところでやられるつもりはないぞ――!


 ということで、手遅れになる前に手を打とう。高高度戦闘用の大気コントロール、障壁展開。


「あのクジラを倒してくればいいんだな?」

「それができれば苦労はないぜ!」


 ブルが吼えた。


「クジラは空の上で、おれたちゃ手の出しようが……って、おおい、ジン! 何するつもりだ!?」

「ちょっと行ってくる」


 手すりを踏み台に、フリゲートからお空へ。浮遊から飛行魔法へ。俺は空を飛んだ。風が吹き荒れるが、肌を貫く寒さも風圧も障壁にて大幅緩和。


 何だか懐かしいな。ワイバーンの大群相手に、空中戦をやったことがあったっけ。ストレージから取り出したのは、英雄魔術師時代に愛用した大地の大竜から作った魔法杖と、雷の大竜から作った魔法杖。いわゆる二刀流。


 まずは一発。雷の魔法杖から、サンダーボルト! 放たれた強烈な電撃が、戦闘機の背後に回り込もうとする小型クジラを撃ち抜き、哀れ四散させた。


「ジン・アミウールの名は伊達じゃないんだぜ」


 曲射光線がよぎる。だがクジラから見て、俺が小さ過ぎて、まったく当たらない。直撃コースだったとしても、魔法障壁で防ぐがね……!


 俺は小型飛行クジラに接近、その上に飛び移った。真っ黒なボディ、つるつるした表面だが、明らかに動物の類いだ。こんなのが空を飛んで、しかも光線を放つとか、変な改造でもされたんじゃないのかね。


「ま、沈めるけどね」


 大地の魔法杖をクジラに向ける。魔力の塊を敵の体内に送り込み、俺は次のクジラへとジャンプ離脱。


 送り込まれた魔力が爆裂魔法に変換、体の中からわき起こったエクスプロージョンが血と肉片を辺りにまき散らす。


 二体目――三体目! 


 サンダーボルトで、カルコス号に近づく小型クジラを薙ぎ払う。


「さあて、次はどいつだ、っと!」


 真上から小型クジラが口を開けて迫っていた。大きさだけなら三十メートル強。それが大口を開ければ、人間なんて軽く丸呑みだろう。

 俺は空中機動で、ひらりと突進を回避。すれ違いざまに、別のクジラに魔弾を撃ち込みつつ、エクスプロージョンを俺を食おうとしたクジラに転送する。


「はい、これで五体目!」


 と、そこで俺の目に思いがけないものが映った。


 小型飛行クジラにプラズマ弾を浴びせて吹き飛ばしたそれ――トロヴァオン戦闘攻撃機だ!


 何で!? 魔法文明時代に、俺の作った戦闘機が飛んでいるんだよ!? 俺ではない。……ま、まさか、誰か転移の杖でこっちへ来たとか?


『残念、我だよ、主』

「ディーシーか!?」

『主の目にも、トロヴァオンに見えるなら我の再現力も相当なものだな!』


 にしし、と笑うディーシーの顔が脳裏に浮かんだ。


 なんてこった。ダンジョンコアさんは戦闘機をガーディアンモンスターよろしく魔力で作りやがった!

 まあ、パワードスーツ型のアレを出したことを思えば、できなくはないか。


『どうする主。お望みなら、今の我なら一個中隊くらいは出せるぞ?』


 ディーシーさん、マジぱねぇです。でも、果たして出してもいいのかな、とも思う。

 ただでさえ、アポリト軍からしたら正体不明の戦闘機が出てきたのだ。一機だけでも問題なのに、複数出したら、それこそどこの軍隊だって大騒ぎになるのではないか。

 あるいは、逆に複数出しても、終わったらどこぞへ飛び去れば、知らぬ存ぜぬで誤魔化せたりしないかな……?

 考えたが、結論を出す前に戦況に変化が起きた。


 アポリト軍空中艦隊の援軍が到着したのだ。戦艦戦隊が、大型飛行クジラを駆逐したところで、残存クジラたちは戦域より離脱した。

 俺はフリゲート『カルコス』号に戻り、ディーシーもトロヴァオンを解除することで姿を消させた。


「ジン! 無事か!?」


 戻ったら戻ったで騒ぎになった。クジラ相手に空中戦をやらかしたことで、飛行の魔法やクジラを倒した魔法について質問攻めにされた。

 ま、仕方ないね。ここはひとつ、放浪の魔術師が冒険譚をでっち上げることにしよう。



  ・  ・  ・



 それから一時間後、アポリト軍空中艦隊は、その本拠地である大浮遊島アポリトに到着した。

 アレティから聞いた島が、フリゲートの甲板から俺の目にも映った。

 八本の世界樹が囲む超巨大な島が、お空に浮かんでいる。空飛ぶ要塞、威圧感もハンパないそれがそこにあった。


「……空の城だ」


 思わず声に出ていた。するとブルが「ガハハ」と笑った。


「凄いだろう! これがおれたちの島アポリトだ!」

「ジンはアポリトは初めてなのか」


 レオスが言ったので、頷いておく。


「ああ、世界樹だけでも巨大なのに、それが小さく見えるってどんだけだよ……」


 この世界にきて、やりたい事その一、生でアポリト浮遊島を見る――達成。


 さてさて、元の時代に帰るまで、どこまでこの世界に干渉して、後世に影響を与えることになるか。……でも天上人文明って、滅びちゃうんだよなぁ。

 それを考えると、ちょっと傍らの友人たちに気まずさを感じる俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る