第957話、ヘプタ島中央都市
円形の建物が連なるその町は、中世世界というより、古代に存在した超文明っぽさがあった。いや、実際そうなのだが、どこか近未来SFの空気を感じさせつつも、赤レンガや木材を使った家々は古めかしさもあった。
……でも俺、知ってるよ。そんなナリはしていても、地下とか軍事施設は、しっかり金属たっぷり使った未来的なものだって。アポリト浮遊島に付属する世界樹島の地下施設がそうだったからね。
スティグメ隊長率いる調査隊は、町へと入る。すると待ち構えていたのは吸血鬼ども。……肌こそ紫だが、ズタズタだったり血のついた服とか見ると、ソンビだよなぁ。
「ひょっとして、あの吸血鬼。元ここの住人だったりする?」
『かもしれんな、主よ』
パワードスーツ・ディーシーが俺の傍らで応じた。
迎え撃つアポリト軍調査隊。大剣使いのブル、双剣のペラルゴスなど前衛組が、吸血鬼らと交戦する。腕や足を切られても、しぶとく動く吸血鬼。獣の如くガムシャラに向かってくる様は、それだけで脅威だ。
ディティスら後衛組が魔法で、雑魚を減らしつつ前衛を支援する。俺もストレージから
広場に群がってくる敵の排除とか、完全にゾンビ映画か、某バイオでハザードなやつみたいだ。
「頭を吹っ飛ばせば倒せるってのが、ますますゾンビだぜ」
「変わった杖だね」
アニーという調査隊メンバーである女騎士が言った。俺の格好が変と言った娘だ。彼女は盾持ちで後衛組のガードが役割である。
「いいだろ? 疲れないんだぜ」
高所から飛んできそうな吸血鬼の頭を魔弾で吹っ飛ばす。魔法銃は内蔵魔石を使うから魔法が使えない人間でも使える。俺が使っているのは単に魔力節約のためだけど。
パワードスーツ・ディーシーはアイ・ボール型遠隔攻撃ユニットを複数展開して、範囲に入ってくる敵の数を減らしている。
おかげで前衛組の負担がかなり軽減されている。……しかし、噛まれたら感染する相手に近接戦を挑むとか、勇気あるなぁ。
広場の敵を掃討。先に進むと、調査隊の別部隊と合流した。どうやら四個の分隊でそれぞれ行動していたようで、各担当地域を調べ終えて、集合場所に集まったようだ。
その中でスティグメ隊長は、調査隊の中でも最上位指揮官だった。彼は各分隊からの報告を聞き、戦死者が九名出たことを知った。
「そうか、全員無事には済まないと思っていたが……高くついたな」
その上で、島はほぼ吸血鬼の手に落ちた。浮遊島の住人は全滅だろうと結論づけられたようだ。
そして案の定、俺とディーシーのことを質問した騎士もいて、隊長は『放浪の魔術師』と答えた。……うん、それがもっともらしくあるな。
「では、迎えを呼んで、島から退去しよう」
スティグメ隊長のひと声に全員が頷いた時、それは降りかかった。
『おや、もうお帰りですかー』
エコーがかった男の声。人を馬鹿にしたようなその声に一同が顔を上げれば、そこには浮遊している吸血鬼が一体。
『せっかく仲間を増やしたのに、潰してくれちゃったあなた方にこのまま帰られてしまうと、帳尻が合わなくなるんですよー』
などとわけのわからないことを言っているこの吸血鬼。身なりが整っていて、どこか貴族然とした風格を漂わせている。それまでの獣じみた連中とは格が違うのは一目瞭然だ。……こいつが吸血鬼どもの親玉ってやつかね。
『そんなわけで、あなた方はここで死ぬか、我らの仲間になるかの二択となります。なお選択権は、あなた方にはありませーん!』
その瞬間、周囲で魔力が発生、召喚陣じみたものから、異形のモンスターが数体出現した。
吸血鬼同様の紫の肌、しかし歪に肥大化した肉体は、体を肉片で構成したフレッシュゴーレムにも似ていた。要するにアンデッド系ゴーレムのお仲間っぽいということだ。身長は二メートルを優に超えている。
「まあ、それで戦闘だよな……」
案の定、戦いになった。俺もここで死んだり、吸血鬼のお仲間になるのは嫌だな。
後衛の魔法が異形モンスターに炸裂。しかし表面をわずかに焦がした程度で、大したダメージが入っていないようだった。
そしてその巨体を持って、調査隊に突進。長く太い腕が振り回され、直撃を受けた騎士が吹き飛び、あるいは引き裂かれて血を飛散させた。
「ディーシー!」
『応!』
パワードスーツ・ディーシーが魔法を使った。異形モンスターの足元から鉄杭が飛び出し、串刺しにする。
だが、体を貫かれても、吸血鬼と同じくまだ動く!
『しぶとい奴め!』
杭が爆発して、異形モンスターを内側から破裂させる。
俺もライトニングバレットを諦め、バニッシュの魔法を異形モンスターに叩きつける。が、一発で沈まない! タフな野郎だ。
その間、調査隊の騎士たちもモンスターと戦っていたが、犠牲者が続出した。
「クソがァ!」
「ペラルゴス!」
双剣使いの騎士が、その胴を鎧ごと貫かれた。
「よくも!」
盾騎士のアニーが、仲間をやったモンスターに突進する。スティグメ隊長が声を荒げた。
「駄目だ、アニー! 後衛を空けるな!」
その危惧は現実のものとなる。まるで狙っていたかのように、あの貴族じみた吸血鬼が空から舞い降りた。
「そうですよ、後ろがガラ空きなのはいただけませんねぇ」
後衛の魔術騎士ふたりの首が瞬時に飛ばされた。さらに音もなく、ディティスの背後に回ると、その首筋に噛みついた!
「ああっ……あー――」
ディティスが白目を剥き、その肌が一気に紫に染まった。あっという間の出来事だった。頭部に近いぶん、感染が早かったか。
野郎――!
俺は取って返すが、アニーもまた引き返し、吸血鬼とディティスの元へ。
「ディティス!」
しかし吸血鬼化したディティスは、そのままアニーに飛びかかった。逃げるように向かってきた元同僚に、とっさに反応できなかったアニーは押し倒され、首もとを噛みつかれた。
「あっはっは! 無様ですねぇ――」
高笑いを響かせる吸血鬼。――お前は俺を怒らせた!
「さあ、残りも片付けて――」
「黙れ」
そのすかした吸血鬼の顔面にバニッシュを撃ち込んだ。刹那の出来事だった。頭が吹き飛んだその吸血鬼の体は立ったまま動かなくなる。
「許せ、ディティス……」
脳まで侵食されたら救いようがない。いかに俺でも脳までは再生してやることができない。
バニッシュで浄化。教えてやるって約束だったのに……!
せめてアニーを治療して――しかし、女騎士は俺が治癒魔法をかける寸前に事切れた。首を裂かれて、感染云々の前に死んだのだ。
「ド畜生め!」
そこから先のことは、ぼんやりとしか覚えていない。俺は、ディーシー曰く『暴君』の如く、場を駆けて異形モンスターを引き裂き、打ち倒し、滅したという。
そして生存者の怪我を治し、感染した者が吸血鬼化する前に浄化魔法で治療したのだそうだ。
調査隊を収容しにきたミラール級フリゲートに乗り、俺たち生存者はヘプタ浮遊島から撤収した。
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