第953話、ちょっと転移の杖で出かけることにした
フル砂漠。きめ細かな砂が幾重にも波打つ砂丘を形成し、存外でこぼこしているように見える大地。
その上空を大帝国の空中艦隊が進む。
特設輸送艦4、旧型コルベット2、コサンタ級ヘビークルーザー3、ミラール級フリゲート6の小艦隊だ。
世界樹遺跡の探索、発掘を目的とする部隊だ。
明け方の空。地平線に昇る太陽が、砂丘に黒い影を無数に投げかける。
その時、不意に大帝国艦隊が騒がしくなる。ミラール級フリゲートから直掩の円盤戦闘機ラロスが緊急射出された。
その数24機。航空機の機首に円盤型の推進ユニットを持つラロス戦闘機が移動する先には――ウィリディスの戦闘機群。
その先陣を務めるのは、マルカス・ヴァリエール率いるトロヴァオン戦闘攻撃機中隊。さらにファルケ戦闘機中隊と、イールⅡ攻撃機が後続する。
「敵迎撃機! 空対空ミサイル、スタンバイ」
マルカスは機体制御コア『ナビ』の捉えた敵機に、先制攻撃を仕掛ける。12機のトロヴァオンによるロックオンをリンクにより確認。
「トロヴァオン・リーダーより各機、ミサイル発射!」
AAMⅡがトロヴァオンより放たれる。薄らと噴射の煙を引き、超高速で飛ぶ空対空ミサイルは、回避機動を取り出したラロス戦闘機に次々に命中。その円盤部を引き裂いて四散させた。
『撃墜8』
「残りを片付けろ!」
早朝の空を切り裂く航空戦が繰り広げられる。
ラロス戦闘機の黄色い魔法砲の光がきらめき、トロヴァオン、そしてファルケ戦闘機はプラズマカノンで応戦する。
交差する青と黄。互いにすれ違い、相手の背後に食らいつかんと
直撃を受けて粉微塵となる機体。ミサイルを振り切れず爆発するラロス戦闘機。エンジンに被弾し爆散するファルケ戦闘機。双方ともに高速力がウリの機体ゆえ、乱戦はむしろあまり得意とは言えない。
そんな戦闘機同士の空中戦を避け、イールⅡ攻撃機中隊が、帝国艦隊に迫る。フリゲートが主砲である魔法砲を撃つ。攻撃機隊は、その射撃をかいくぐり、大型対艦ミサイル攻撃を開始する。
まず各機一発ずつ。遅れて、さらに一発を投下。
コサンタ級ヘビークルーザーから、さらにラロス戦闘機が追加で18機、射出された。
だがその間にもミサイルがそれぞれの標的に迫り……防御障壁によって阻まれた。帝国コルベットやクルーザーを一撃で轟沈せしめた大型ミサイルを防いだのだ。
だが、その一撃は障壁の魔力を一時的に奪い去る。その隙をついて、遅れて放たれたもう一群の大型ミサイルが飛来した。障壁を抜けて、艦体に直撃。真っ赤な火花とドス黒い煙が噴き上がった。
三隻のフリゲートが一撃で轟沈した。二隻が大破し、コサンタ級重巡も側面の盾型構造体に被弾した。だが側面防御に優れたコサンタ級は、対艦ミサイルの一撃に耐えた。
離脱を図るイールⅡ攻撃機に、第二波のラロス戦闘機が襲い掛かる。が、すでに第一波をあらかた掃除したマルカスのトロヴァオン中隊が、そうはさせじとAAMⅡによる牽制からの突撃をかけた。
「三……機目!」
すれ違いざまに、プラズマ弾を連続して叩き込んだマルカス機。胴体に直撃を受けたラロス戦闘機がスピンしながら墜落する。
撃墜スコア更新――
「トロヴァオン5、敵機が二機、ケツについてる!」
味方機の窮地。そこへ一機のトロヴァオンが現れる。
『お任せを。5、合図で右へ旋回、今!』
トロヴァオン8――中隊でも古参のパイロットであるジェイスが、敵機を後ろから手早く撃墜した。
――あの人、さらりと二機を落としやがった!
マルカスも舌を巻く腕前である。
制空権はウィリディス側に傾いている。しかし大帝国艦隊は重巡以下、輸送艦が健在だ。一個中隊のイール攻撃機が仕掛けて、まだ艦隊が残っているというのは、不思議なものだとマルカスは思った。これまでのようにはいかないのが、魔法文明艦艇ということなのだろう。
「第二撃はいけるか……?」
イールⅡ攻撃機部隊が、再び反転機動を描く。大型対艦ミサイルはないが、中型対艦ミサイルはまだ数発抱えている。敵重巡とて、側面以外から攻めれば沈めるチャンスはあるのだ。――よし。
「トロヴァオン・リーダーより各機、攻撃機隊を援護しろ」
ウィリディス航空隊は、大帝国艦隊に再度の攻撃を掛ける。
フル砂漠上空の戦いは、ポータル転移した第三艦隊航空隊により、大帝国艦隊全滅という結果に終わった。
・ ・ ・
ベルさんが呼んだ航空隊により、一号浮遊島遺跡に接近していた大帝国艦隊を撃滅した。
彼は再度の帝国軍の増援に備え、ウィリディス艦隊から分遣隊を出したほうがいいかもしれないと提案した。
SS諜報部に、大帝国の動きを注視させるが、四号浮遊島にも敵が調査・発掘艦隊を出したと報告が入っている。
四号浮遊島については、回収できるものが少なかったこともあって、敵が来る前に撤退は可能だ。だがこちらの一号浮遊島遺跡は、きちんと戦力を用意しておく必要がある。
四号島から第二遊撃隊を回すと共に、ウィリディス艦隊から土佐級戦艦を二隻くらい、護衛の駆逐隊と、就役した新型巡洋戦艦であるレナウン級を出そう。
レナウン級は、連合国の注文を受け配備するために量産していた簡易戦艦をベースに、ウィリディス仕様に改造した艦だ。
ファントムアンガーに『レナウン』『レパルス』『レジスタンス』の三隻を投入するつもりだった。これも魔法文明ヘビークルーザーに対抗する艦艇が不足しているせいではある。あの重巡、硬いからね。
連合国がまだ動けない以上、そちらへの配備が少し遅れても問題ないだろう。
さて、派遣戦力の相談が済んだところで、俺は、ディグラートル皇帝を転移の杖で飛ばした経緯をベルさんに説明。自分も飛んでみると伝えた。
「おいおい、大丈夫なのかよ、それ」
「そのはずだ」
駄目なら、あの皇帝が無傷では帰ってこなかっただろうよ。俺がそう言ったら、ベルさんは唸る。
「でも行き先はわからないんだろう?」
「ディグラートルは、故郷だと言った」
生まれは帝都らしいが、しばらくは大帝国西部のドワンで育ったと諜報部が調べ上げている。……と考えるなら、そっちに行くのではないかな、とも思うのだが。
「というかな、あまりに思わせぶりなことばかり言うから、すっごく気になっているんだよ」
考え事をしている時とかにそれが浮かんできて、集中できないというか。
「真面目にやんなきゃいけない時まで、それで乱されるのは勘弁だ。さっさと行って解決したい」
「行って解決するとは限らんぜ?」
「だが行かなきゃそれもわからんでしょ」
俺は転移の杖をベルさんに手渡した。
「設定は変えないでくれよ。……一応、すぐに帰ってくるつもりだけど、状況次第では少し向こうにいるかもしれない。そんなわけで、ディーシーを連れて行く」
ドワンのどこかだとして、そこは大帝国本国だ。用心は必要である。ダンジョンコアであり、杖の形になれるディーシーはお供に最適だろう。
「あと、シェイプシフターを1ダース程度も。……そんなわけで、後はよろしくな、ベルさん」
「あいよ。行ってこい」
ベルさんが転移の杖を向けた。俺はDCロッドを手に、外行きの冒険者装備で固めている。
そして、光に包まれ――俺はこの世界から消えた。
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