第945話、軍艦回収作業
滅び去った文明の遺跡――という割りにはほどよく綺麗なのは、どういうことなのか?
いや、汚いよりはいいんだけどさ。
北の氷大陸の地下構造体内部は、まるで時が止まっていたかのように、当時の姿を保っているように俺の目には映った。
ただし、人や生き物の気配はまるでなかったが。
折れた世界樹遺跡は、アレティとのその装置を除いて朽ちていて、時間の流れを感じさせた。
だがこの遺跡内は、若干の埃っぽさはあるが、すぐにでも使えそうな雰囲気を漂わせている。
「端末は生きていましたからね」
ダスカ氏はそうコメントした。
転移陣が無数にある部屋は、とても大きかった。転移陣自体も大きく、車両ごとの転移可能だった。ここから目当ての軍港施設へ飛ぶわけだが。
アレティは告げた。
「キーカードで、各種アクセス権限はフリーにしました。以後は、端末に所定の魔力を注げばカードがなくても、転移陣による転移は可能になっています」
「了解だ。アーリィー、アレティたちは制御施設を押さえてくれ。俺と回収部隊は、ドックに行って、使えそうな船があればポータルで移動させる」
一同は了承の頷きを返した。
「何かあれば、通信機を使えよ。作業にかかれ」
気をつけて、と言うアーリィーに笑みを返すと、俺はシェイプシフター部隊と軍港施設へ向かうため、浮遊バイクとデゼルトⅡに乗ったまま転送。
そしてすぐ到着。目の前には広大なる巨大な艦艇格納エリア。……折れた世界樹遺跡では朽ちた艦艇ばかりだったが、ここには濃緑色の塗装がされたヘビークルーザー、そしてフリゲートが上下複数列で並べられていた。それぞれ天井から伸びているアームで固定されている。
「改めて見ると、壮観だな」
俺は、SS兵に周辺警戒と探索を命じると、ウルペース浮遊バイクで、発進ゲート方向へと走らせた。クルーザーサイズのポータルを開いて、アリエス浮遊島へ送るためだ。
全長が200メートルだっけか。側面にシールド状の構造物があるその艦艇は、至るところに三角の意匠が見てとれる。魔法文明、特に天上人は三角を意識してデザインしているように見受けられる。
そんなクルーザーを横目に、俺は視線を走らせる。やはり人の気配はなく、動くものもない。
腐りもせず、朽ちることなく、しかし生き物はなく、そこにある。これも世界樹の力なのか。
目的の場所に到着。俺はバイクを止めて、今は閉じられているゲートを背に、大ポータルを形成する。これをアリエス浮遊島空域に展開した大ポータルに繋ぐ。
ここまでが第一段階。俺は一度、ポータルをくぐってアリエス浮遊島へ。そこには艦艇を運び出すための浮遊ボート部隊が待機していた。
以前、ヴェルガー伯爵にノルテ海艦隊の艦艇を引き渡した際、ポータルを通過させた時に使用した浮遊石を搭載した小型ボートだ。今回の運び出し作戦のために、急遽増産した代物である。
俺はこれらを引き連れて、大ポータルを通って戻る。それぞれのボートを魔法文明艦艇に接舷させる。磁力ロック――ガチャンと大きな音を立てて、浮遊ボートが取り付いていく。
『マスター、こちらドックの管制室を制圧しました』
SS兵の報告が届いた。
「了解した。待機しろ。……アーリィー、聞こえるか?」
制御施設へ向かったアーリィーたちを魔力通信機で呼び出す。
『こちらアーリィー。聞こえるよ、ジン』
よいお声が返ってきた。特に問題はなさそうだな。
「ドックの制圧は完了。制御室は?」
『うん、こちらは制御室にいる。今、アレティが制御システムを操作してる。……完了』
「よし。こちらは浮遊ボートの接続も済んでいる。艦艇を固定しているアームを外したい」
『アレティ』
『了解。……そちらの管制室でロックを解除できるようにしました』
通信機からアレティが告げた。よしよし上出来だ。
「ドック管制室、聞こえたな?」
『はい、閣下。先頭艦より、順次ロックを解除します』
SS兵が言い終わると共に、またも大きな音がして、クルーザーやフリゲートを支えていたアームが外れ出した。浮遊ボートがくっついている艦は、重力に従って落下することもなく浮かんでいる。
ボートが動き出すと、そのまま魔法文明艦もゆっくりと大ポータルへと動き出す。あれだけ巨大な艦ながら、動かしているのはボートに乗っているSS兵二人だけなんだぜ……。
さて、俺は次の艦艇用ドックへ移動する。ここにはクルーザーとフリゲート。アレティの話の通りなら、他にも魔法文明用の戦艦と空母があるらしいからね。
・ ・ ・
魔法文明の戦艦を発見した。
全長はおよそ250メートルで、ウィリディスのドレッドノート級とほぼ同じ。しかし艦中央から左右に広がる三角の推進ユニットがあるせいで、全幅はかなりのものになる。
水上艦の印象の濃い某宇宙戦艦より、某宇宙世紀のネオなんちゃら系の艦が近いか。
例によって三角の意匠が多い。上から見れば全体のシルエットが騎兵槍のようでもあった。主砲は、連装式の魔法砲が前から、艦首下方に一基、上方に二基、艦尾上方に一基で、計四基八門。砲身が短めなのが、魔法文明艦艇の魔法砲の特徴だが、アレティに聞いたところでは、その主砲口径は30センチと戦艦としては小さかった。
火力だけなら、俺が連合国向けに作っていた簡易D級と同等である。
そしてこの戦艦ドックには十四隻の戦艦が存在した。……アレティの言っていた各島の定数だと戦艦は十八隻だったはずだが。……崩壊前に出撃でもしていたのかな。うーん。
まあ、回収できるものはしてしまおう。他に空母が四隻。三角と四角の組み合わせたようなシルエットは空母というより、異星人の宇宙船か巨大な異形な鳥のようでもある。
SS兵と浮遊ボートを使ってこれらも運び出す。ヴェリラルド王国向けの他、連合国などに提供する戦力がガッポリ。これには俺もニッコリ。
続いては魔人機の格納区画。先行して偵察したSS兵によると、ここにあるのはリダラシリーズのAランク魔人機だという。
えーと、アレティの情報によると――
『青いリダラがゴルム、紫のコルクラ、緑がグラスですね』
SS兵が、並べられている魔人機を眺めながら報告した。
見た目は細部を除けば、ほぼ同じ。じゃあただの色違いかというとそうでもないらしい。
天上人たちの軍において、このA級リダラは、エルフ系パイロット用だ。青が青肌ダークエルフ、紫が褐色ダークエルフ、緑が白エルフという扱いだ。
基本的に青が上位、紫が標準、緑が防御性能以外は抑えられている。緑が低性能なのは、要するに白エルフを前衛の盾として押し出すためらしい。露骨な種族差別……。
「取りあえず、これも持って帰るぞ」
ポータルをアリエス浮遊島格納庫へ。待機していたフェルス輸送車、簡易ASファイター部隊がやってきて、魔人機の搬送作業を行う。
シェイプシフター兵は魔人機を動かせないからね。その代わり、ウィリディス軍で魔法が使える面々を集めた臨時編成の回収部隊を編成した。ダークエルフや魔術師などは、初めて魔人機に乗ったとしても、歩かせるくらいはできる。
「ジン隊長!」
おっと、元エツィオーグのベール君がいた。第五魔人機大隊のドラグーン乗りである飛行魔術師の少年も狩り出されたわけである。手を振ったら、ベール君は張り切って作業にとりかかっていた。……可愛げがあるよね。
さて、俺は次の場所へ移動だ。回収するものは山ほどあるからな。地上じゃ大帝国さんが、世界樹へたどり着こうと頑張っているから、あまりゆっくりもしていられないんだ。
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