第935話、セア・エーアール
折れた世界樹の地下遺跡に、大帝国の遺跡発掘部隊が迫っていた。
親衛隊のⅡ型改クルーザー三隻、魔法文明型ヘビークルーザー一隻、魔法文明型フリゲート六隻である。
旗艦であるⅡ型改クルーザーには、親衛隊のサフィール将軍が座乗していた。
銀髪の美貌の女将軍は、魔法文明の通信装置にて、交信中だった。
「グレーニャ・エル、貴様のセア・エーアールの力、見せてもらうぞ」
『あぁ、任された分はキチンと始末してやるよ、大帝国人』
通信機からは、皮肉たっぷりな女の声が返ってきた。相手が大帝国の将軍でもまったく遠慮がない。
「部下たちが聞いている。言葉をわきまえろ、グレーニャ・エル」
『すまんね、大帝国人。あたしはおたくらの言う魔法文明人だからね。言葉がよくわからんのだよ』
嘘をつけ――サフィール将軍の眉がピクリと動くが、当然ながらエルにはそんなことはわからない。
『まあ、あたしが使えるかどうかは、おたくの目で判断してくれ。大帝国の将軍様』
あっはは、と哄笑が響いた。わかってやっているからたちが悪い。
『ところで、あたしらの末裔の大帝国人。おたくは出ないのかい?』
「この艦隊に敵が手を伸ばしてきたら、出番もあるかもしれないな」
『あぁ、そりゃないな。あたしがやっちまうからね』
それじゃ――とエルは真面目ぶった。
『グレーニャ・エル、セア・エーアール、出る!』
艦隊唯一のヘビークルーザーから、一機の魔神機が発艦した。
セア・エーアール――風の魔神機。緑と白のカラーリング。背中に四枚の翼型飛行ユニットを積んだ飛行型S級魔神機である。
セア・シリーズ、通称『女神型』とも呼ばれる機体は、女性らしいシルエットを持ち、ロボット兵器ながら胸部の盛り上がりは女性のそれを連想させる。腰回りの形状や細めの足など、魔法文明時代の信仰もたぶんに影響している。
セア・エーアールの飛行する後ろ姿は、さながら妖精のようだ。
そのエーアールに続くように、同じく四枚羽根の機体――A級魔人機のセア・フルトゥナが八機、ヘビークルーザーから飛び立つ。
セア・フルトゥナは、エーアールをベースにした量産型だ。魔力適性が必要な機体だが、魔神機に比べれば、一般の魔術師レベルでも扱える代物だ。
風属性の武器と能力を持った機体は、エーアールによく似ている。だが翼は少し小さく、他のパーツも簡素。腰部の装甲がスカートのように見え、エーアールに従う侍女のようでもあった。色もオリーブドラブとやや地味だ。
「さて、魔神機とその量産型の実力はいかなるものか……」
サフィール将軍は独りごちた。
遺跡周辺には、謎の戦闘艦隊――おそらくファントムアンガーか反乱者艦隊に関係する手勢と思われる連中が展開している。
以前、ゲルリャ遺跡で青い艦隊に煮え湯を飲まされたサフィール将軍だ。だが今回は、前回のようにいかない。
――いざとなれば、ヒュドールがあるしな。
サフィール将軍は、旗艦に載せてきた青き魔神機を思い出し、フッと笑みをこぼした。
・ ・ ・
その少し前、アーリィーたちは遺跡地下で、回収作業の傍ら、魔神機に実際に試乗していた。
危険があるといけないので、と言ってサキリスが真っ先に志願し、黒い魔神機のほうに乗ってみた。
魔力がないと動かないということだったが、サキリスはあっさり動かした。魔人機のパイロットであり、実戦もくぐり抜けている彼女としては、この手の人型ロボット兵器を扱うのはさほど難しくなかったらしい。
『ただ、手で動かすより、頭でイメージした通りに動くといいますか……魔人機に比べて、滑らかに動かせました』
と、サキリスはコメントした。起動させた時、ふっと魔力を持っていかれた感覚があったらしいが、動かしている時は特に感じなかったと言う。
次に、ユナが搭乗した。起動時の魔力を吸い取られる感覚は、彼女も感じたが、操縦して五分ほどして、気分が悪くなったために降りた。
簡単な診断をしたラスィアによれば、魔力をひどく消耗している症状に似ているらしい。実際、ユナも魔力欠乏時のそれだと言った。
この差は何だろう、とアーリィーは思った。ユナも弱いながらも魔力の泉スキルを持っている。魔力が自然に回復する体質でも、魔神機をある程度動かすレベルが存在するということか。
そこへ敵襲の報告が飛び込む。遺跡を狙う大帝国の艦隊らしい。
表には第二護衛戦隊がいるが、果たしてそれで防げるか。魔法文明時代の兵器を投入し始めた大帝国である。これまでのように一方的に終わる、などと楽観はできない。
「搬送作業を急いで!」
アーリィーは指示を出した。黒いほうはすでに動かしているが、白い魔神機はもうすぐ土砂から足が抜ける状態だ。
魔神機は帝国も狙ってくるだろうから、状況がどうあれ急いで運び出す必要があった。
・ ・ ・
「ほうほう、敵戦闘機か」
セア・エーアールのコクピットで、グレーニャ・エルは唇を笑みの形に歪めた。
専用の白と緑の操縦用スーツは、帝国魔法軍が古代魔法文明のそれを研究して開発したもの。体にピッタリフィットする上、魔力の流れを阻害しないそれは、魔神機の操縦の邪魔をしない。
セア・エーアールの魔力センサーが、敵性航空機を捉える。
「ふふん、十六機か」
真っ直ぐ、グレーニャ率いる部隊に向かってくる。
「それじゃご挨拶といこうかねっ……!」
魔力投入――魔法兵装、解除。セア・エーアール、その両肩アーマーについている円形パーツが緑に発光する。モニターに移る敵機の交点を射線を表すリング内に入れて――
「これでも喰らいな、エアリアルバスタァァー!!!」
セア・エーアールの両肩から、竜巻のような風撃が放射された。
それは意思を持つように真っ直ぐと巨大な渦を巻きながら飛び、接近中の戦闘機――TF-5ストームダガーを絡め取った。
吹き荒れる嵐。全てを切り裂く風の刃が紛れ、範囲内の戦闘機を切り裂いた。
「……九、十、十一。まあまあだね」
グレーニャ・エルは笑った。
「四機、敵機を片付けな。残る四機は、さっさと地上の遺跡に侵入!」
『ハッ』
魔力通信機からは、女性の声。そのパイロットたちは、グレーニャ・エルの意向で、魔法文明人に忠実な青ダークエルフの女性操縦者たちである。
現代の帝国にも魔術師がいて、魔人機の操縦ができる者もいるが、グレーニャは自分の部下はダークエルフで固めた。
「さて、あたしは、敵の艦隊とやらに一発を入れてくるとするかね……」
セア・フルトゥナが四機ずつ、二隊に分かれる。一隊は敵性航空機の排除――と言った矢先に、一機がグレーニャ・エルのセア・エーアールに迫ってきた。
「うっざいな!」
腰アーマーからエア・ビットを射出。グレーニャ・エルのイメージを受けた飛行攻撃端末は切断用ブレードを展開して、敵機に迫り、三方向から斬撃を仕掛けた。
容易く敵機を撃墜。鼻をならすと、グレーニャ・エルはセア・エーアールを加速させ、敵浮遊艦隊へと飛んだ。
その姿、疾風の如し。あっという間に、艦隊上方へと到達する。
「クルーザーが1、いや2か? 空母っぽいのが1。護衛艦が8か」
さあて、どれからやろうかね――グレーニャ・エルは舌舐めずりをした。
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