第929話、魔法文明時代の人型兵器
「魔人機一個中隊が全滅?」
アリエス浮遊島で、連合国へ供給する兵器や武器のリストを確認していた俺に、SS諜報部のスフェラが報告した。
「はい、主様。ウーラムゴリサ王国西部国境の砦が、敵人型兵器の襲撃を受けまして、ファントムアンガーの一個魔人機中隊が救援に駆けつけたのですが――」
「返り討ちにあった、と」
うちの魔人機部隊を全滅させるとか、いったい何だ?
「人型兵器と言っていたが、魔人機? それともゴーレムか?」
「魔法文明時代の兵器であるのは変わらないのですが……」
黒髪の魔女姿のシェイプシフターは、写真を俺に提出した。
交戦したファントムアンガー機の記録だろう。モノアイ――いや、目が三つかな。三本の角があって、どこか甲冑武者のようにも見える。
「
「……言われてみれば、魔人機に造りが似ているな」
そもそも魔人機というのが、古代文明の、つまり魔法文明の兵器が元になっているということだ。最近、魔法文明遺跡で、その時代の兵器を多く獲得したようだから、魔法文明依存はさらに深まったのかもしれない。
「まだ、情報収集の最中なのですが――」
スフェラは別の資料を出した。
「今回、国境で確認された魔神機は、ドゥエル・ファウスト。魔神機の中でも物理武装重視型の機体です」
……なになに、魔神機には、汎用型と武器型、魔法型などの複数のタイプが存在するとな?
さらに魔神機は十二機が存在したとされ、魔神機をベースにした量産型の魔人機もあると……。大帝国の使っている魔人機は、それのさらなる量産型らしい。
「さしずめ、魔神機がS級、オリジナル魔人機がA級、大帝国製がB級といったところかな」
「その類別、いただきました。今後、そのようにカテゴライズいたします」
お、おう――。俺をよそに、頭を下げるスフェラだった。
「ともあれ、そのスーパーマシンが、連合国戦線に現れたと」
そしてうちの魔人機を撃退した、より強力な兵器……。どの部分で凌駕しているんだろう。
資料を読み進める。……へぇ。
「操縦するには高い魔力の素養が必要なのか。魔人機の時点でそれだったが、魔神機はさらに素養がいる、と」
パイロットの魔力を用いて機体を操縦する点は共通。ただし、スペシャルな機体には、パイロットにもスペシャルを求める、ということらしい。
「はい。特に魔神機、S級を扱うには特別な才能が必要なようです。A級魔人機でも、大帝国では基本的に魔術師が扱っているようです」
「だがB級魔人機は、その限りではない」
大帝国さんが作る魔人機にそこまでの素養を求めないようになっているのは、主にパイロットの問題もあったからだろう。この魔力適性云々が正しいなら、B級はうちのシェイプシフターでも扱えるが、魔人機以上は操れないことになる。何故か魔法的素養がないんだよな、シェイプシフターたちって。
魔力適性といえば、例の世界樹遺跡から発見された少女とか。あれ自分で大量の魔力を生み出せるから、魔神機を扱う特別な才能、適性ってやつに合致しないだろうか?
「さらに悪い報告なのですが――」
スフェラが続けた。
「帝国はA級魔人機を扱う操縦士の確保に成功しました。これまではB級で支えていた戦線が、これからは上位機種も一定数投入されるようです」
「……ダークエルフか」
魔力の素養が人間より高いエルフ種族。それらを製造する装置なり施設を大帝国は遺跡から手に入れた。
先日撃滅した帝国第一空中艦隊の魔法文明艦艇のクルーも、ダークエルフでまかなっていた。当然ながら、魔力適性を必要とする魔神機・魔人機にも、これらダークエルフを用いてもおかしくはない。
「連合国戦線に
その連合国では、すでに魔人機やその簡易型ファイターの実戦投入に向けて、搭乗員の育成にかかっていた。ファントムアンガーのマッドハンターらの教導のもと、対大帝国戦に向けて、着々と準備を進めていたのだが……。
B級魔人機やゴーレムを相手にするなら互角以上にやれる。だがA級魔人機やそれ以上となると厳しい。
早々に対策を立てないと、連合国をたきつけての大帝国打倒の戦略が破綻しかねない。
「同種の兵器をこっちも持つことができれば、早いんだがな……」
敵さんから奪うか?
「――魔神機といえば、もうひとつ報告がございます」
「うん?」
「我がSS部隊が捜索していた世界樹遺跡ですが、例の魔力消失空間が消失してから、新たな発見がありました」
遺跡から少女が発見された以外にも、変化があったと聞いている。
「リダラ・シリーズのベースであるS級魔神機が二機、確認されました。魔力消失空間がなくなって以後、搭乗員なしで自己再生を開始したとのことです」
「勝手に自分で再生しているだって?」
なにそれ、すげっ、というか怖っ。
だがこれはチャンスではないか? あの遺跡から、その魔神機を回収すれば、有効な手段を講じる助けになるかもしれない。
魔力適性が必要だというが、魔術師である俺に動かせるだろうか。ユナや、魔力の泉スキルを持つサキリスやアーリィーでももしかしたら……。
ま、ベルさんなら、たぶん動かせるんじゃないかな?
「魔神機は手に入れたいな。A級の魔人機は……」
「大帝国で使っているドゥエルタイプもA級です」
そうか、ドゥエルタイプはもう手に入れているんだよな。カリッグやドリトール型がB級魔人機という扱いになるようだ。
「他の世界樹遺跡に、魔法文明の艦艇や兵器ともども、見つかる可能性は高いと思われます」
スフェラが頷いた。
「しかし、大帝国も、それを狙って動いております」
SS諜報部曰く、ディグラートル皇帝陛下は、当分は戦線の維持を図りつつ、世界樹遺跡を積極的に狙っていくとのことだった。
人員面の確保もできるなら、こうした魔法文明遺跡は手軽に戦力アップを図れるからな。
むろん、こちらもそれを見逃すわけにもいかない。むしろ、こちらや連合国の戦力アップのために活用するのだ。
「早速だが、そのS級魔神機を確保するために、出かけようと思う」
回収するだけなら、魔人機やファイターを重機代わりに使えばいいが、実際に動かせるものなら、動かしてみたい。
メンツは、俺、ベルさんに、魔力適性が高いアーリィー、サキリス、エリー……彼女はいまウィリディスでの勉強の真っ最中だからそれに専念させてあげないとな。ユナ、あとダークエルフのラスィアも連れていこう。
それで現地までなのだが――
「アドヴェンチャー号の試運転も兼ねて、それで行こうと思う。スフェラ、前に言っていたサポートクルーの件だが……」
「ご安心ください。すでに手配済みです」
万事抜かりないようだ。
俺は同行するメンバーに召集をかけつつ、アドヴェンチャー号――小型快速浮遊艇を動かすことに思いを馳せた。
いやぁ、楽しみだ。
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