第910話、飛来、魔法文明戦闘機


 キャスリング基地で、報告を受けた俺は行き先を変更してポータルで、探索チームの護衛部隊へと移動した。


 そこで魔力消失空間が消滅して魔力が急速に循環しつつあるのを確認していたら、帰投中のワンダラー号に、大帝国所属機と思われる魔法文明戦闘機の反応を捉えた。


 どうも大帝国さんも、この世界樹遺跡の調査をしようとしていたようだ。


 だが魔力消失空間を前に、足踏みしていたのだろう。それが解かれたので侵入してきた、というところか。


 ただちに、『ビンディケーター』からTF-5ストームダガー戦闘機を二個小隊、出撃させる。


 俺も愛機であるTF-3トロヴァオンを引っ張り出して、自ら操縦桿を握る。いつからいたかわからないが、ベルさんもちゃっかり同行した。


『敵の新型と戦えると聞いて』


 というベルさん。


『性能試験にちょうどいいだろ?』

「まあ、ベルさんはそれでいいんだろうけどさ。こっちは、ワンダラー号を救助して敵機を追い払うんだからね。……イエロー・リーダー、わかったな?」

『了解、ウィザード』


 イエロー・リーダー――ストームダガーのSS中隊長が答えた。ちなみに『ビンディケーター』艦載機隊の機体には、黄色のストライプが入っている。


 ワンダラー号を追尾していた敵性航空機のうち、四機がこちらへの迎撃コースをとった。参考画像で見ていたが、こいつらカラーが金ピカなんだが……。


 とりあえず、まだ半分はワンダラーを狙うのか。四機で十機を抑えられると思ってるのかね。


「ベルさん、向かってくる連中を任せる。俺はワンダラーのカバーに回る」

『了解、ウィザード1。イエロー、1個小隊、オレ様に続け!』


 ベルさん機が真っ正面から敵機へと挑んでいく。自身の魔力でブーストしているのだろう、後続機を引き離してるぞ。


 そして双方の間に光が瞬いた。搭載する武器を使用したのだろう。編隊がすれ違うより前に敵機が一機、爆発四散した。そこから双方、巴戦に移行する。


 さて、こちらは――と、ワンダラー号に肉薄した敵機が、黄色の光線を発射した。防御シールドがワンダラー号の周囲に発生して、敵弾を逸らす。つまり、命中コースだったわけだ。


 ワンダラー号の上部銃座のマギア砲が反撃。対空砲火を展開する。そして船体自体も回避運動で右へ左へと動く。……ああも動かれると銃座の命中率も悪いだろうが、牽制にはなるかな。


「ワンダラー号、こちらウィザード1、援護する」


 俺はトロヴァオンで、ワンダラー号の左前方、上から接近。プラズマ砲、スタンバイ。照準線が敵機を捉え、操縦桿のトリガーを引いた。


 トロヴァオンのプラズマ砲が唸る。連続して放たれた青い光弾が敵一機に吸い込まれ、爆散した。後続するストームダガーもプラズマ砲を撃ち、さらに一機を吹き飛ばす。


 ヒット&アウェイ。振り返れば、残った二機はワンダラー号の追尾を続けている。何ともしつこい奴らだ。


 俺は機体を旋回させると、そのまま敵機の後方へ回り込む。


 円盤部についている推進口二基、間に方向舵のような板が各三枚見える。機体上部に二枚、斜めに小さな垂直尾翼らしいものがあるが、方向転換は推進口のほうのようだ。


 シンプルな形状だが、割と図体が大きいから、さほど苦労せずに照準内に捉えて射撃。敵機はそのエンジンを吹き飛ばされ、錐もみで地面に激突した。


 そこでようやく最後の一機が回避行動に移ったが、イエロー・リーダー機が追いすがる。


「イエロー・リーダー、ミサイルを使え。敵機の反応がみたい」

『了解、ウィザード』


 ストームダガーが空対空ミサイルを発射。逃げる敵円盤戦闘機。……さあ、どうする? ミサイル対策は装備しているのか? フレアとかデコイとか――

 敵機がミサイルの直撃を受けて粉々に吹き飛んだ。


「……」


 敵パイロットが対応をまずったか、実弾系誘導弾の対応策を装備していないのか。ちょっと判断に困る。

 機体に搭載されているナビが、戦闘記録を録っているから、あとで解析しよう。


「ウィザード1、敵を排除した。ベルさん、そっちは?」

『こっちも片づけたぜ』


 ベルさんが答えた。


『だがこっちは、イエロー7がやられた』

「撃墜されたのか?」


 あらまあ。あちらは空中格闘戦闘をやっていたからな。敵機に背後につかれたか。


「ウィザードより各機。ワンダラーの護衛につけ。母艦に帰投する」


 俺は続いて、ワンダラー号を呼び出す。リーレの元気な声が返ってきた。


『助かったよ、ジン。またひとつ借りができたな』

「どういたしまして」

『でもあんたが来るとは思ってなかった』

「魔力消失空間が消えたと聞いてね。ちょっと様子を見るつもりが、追尾されていると聞いて馳せ参じたってわけだ。そっちは怪我はないか?」

『ああ、こっちは無事さ。で、世界樹遺跡で、女の子を保護したんだけどよ、そっちで診てもらえね?』

「それは構わないが……どんな様子だい?」

『さあね、何か装置ん中で眠ってて、たぶん意識が戻ってないからわからない』


 装置の中――何とも意味深だね、そりゃ。


 ひょっとして、古代文明時代の生き残りだったりしてな……。機械文明時代のアンバンサーも、コールドスリープで生き残っていた。もしかしたら、その少女とやらも……。


 やがて、軽空母『ビンディケーター』が見えてきた。護衛のゴーレム・エスコートと共に、こちらを迎えに移動していたようだ。


 魔力消失空間がなくなったから、前進してこれたのだ。


 なお、大帝国の第二波はなかった。しかし、あの廃墟遺跡の調査に、戦力を増強して乗り込んでくるだろう。


 今のところ、見つけた少女以外に、取られて困るものは遺跡に残ってはいないが……。何か仕掛けをしておくべきだろうか?



  ・  ・  ・



 護衛部隊と合流。艦内のポータルを使って、アリエス浮遊島へと飛んだ。


 キャスリング地下基地は警戒しているとはいえ、ディグラートル皇帝が転移魔法で現れる可能性があるので、危険を避けるためだ。


 ノイ・アーベントから、エリサを呼んで、ディアマンテの補助コアと共に遺跡から回収した少女を診断してもらう。


 意識があるなら、すぐに素性を含めて確認もできただろうが、眠り続けている以上、俺にできることはない。

 クレニエール東領の防衛の件もある。後は任せて、俺とベルさんは次の戦地に向かった。


 城塞艦『ヴェネラブル』で現地に向かおうとしていたのだが、留守のあいだに先行させたから、第一遊撃隊の機動巡洋艦『ユニコーン』で現地へ向かう。


 アリエス浮遊島の空域近く、遊撃隊用ポータルがある。ただ今、東領には第三遊撃隊が展開していて、その旗艦である機動巡洋艦『キマイラ』が移動ポータルを使える。


『ユニコーン』の艦橋、人工コア兼シップコアのサフィロが、『キマイラ』に連絡を入れ、移動ポータルの接続が完了したと報告した。


「では、移動開始」


 機動巡洋艦『ユニコーン』以下、重巡1、護衛艦4が、大ポータルに突入した。

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