第841話、デファンサ城防衛戦
デファンサ城は、大帝国のMMB-5によって生成された魔獣群の攻撃を受けていた。四足の蜘蛛のようにも見える魔獣が、グンタイアリの群れよろしく突き進む。
ファントム・アンガーの空母機動部隊から飛び立った航空部隊が空爆を加えて、魔獣戦力を消耗させていた。その圧倒的な破壊力は、多くの生成魔獣を粉砕し、焼き払ったが、ただひたすら突進することしか知らない魔獣は、撤退することを知らない。
城下町を囲む外壁に、わらわらと爆撃をくぐり抜けた個体が取り付こうと肉薄する。外壁の弓兵、魔術師が迎撃を開始する。
しかし四足魔獣は矢が刺さろうとも、まったく意に介さない。魔術師の電撃や炎といった投射魔法も、一撃ではなかなか倒れず、数発命中させてようやく仕留める。だが向かってくる敵の数に対して、魔術師が少なすぎた。
四足魔獣はいよいよ外壁に取り付くと、その尖った足を壁に突き刺した。それで止まったのが数秒。どうも破壊できないものと判断すると、壁をよじ登りはじめた。
外壁の歩廊にいた守備隊兵は、十メートルの壁を数秒で登ってきた魔獣の速さに驚き、あっという間に目の前にやってきた敵に次々と襲われた。体当たりを受けて、外壁から落下する者、噛みつきを食らう者、槍のように鋭い足先で貫かれる者と、阿鼻叫喚の光景が広がった。
魔獣群は、門を経由せず、外壁を乗り越えることで城下町に侵入を果たした。結果、門に兵士を多く割いていた守備隊は、後手に回ることになる。
そして町に入ってしまえば、ファントム・アンガー航空隊は攻撃ができなかった。今さらながら町の東側から、敵のいない西側へと逃げ出す住民らが避難を開始したからだ。
デファンサ城からその光景を見ていたエリザベート・クレマユーは表情を険しくさせた。
人間の軍隊とはまるで違う敵の行動。町を攻略するために包囲するというのが定番だが、帝国の魔獣群にそのようなセオリーはない。町の門に集中することなく、ただ押し寄せた東側の壁を登って侵入する。
しかし包囲されていないから、町の西の門を開けて住民を外へ逃がすことができる。だが本来、魔獣などが超えられないように町の外壁は高く作られている。それがこうもあっさり突破されてしまうとは、まったく予想外だった。
四足魔獣は、迎え撃つ守備隊兵をあっさり殺害し、逃げまとう住民に追いつくと、その背中に足を突き立てたり、唾の塊のような液体を吐き出す。遠くにいても悲鳴が城にまで響いてくる。
町中を走る道に沿って、四足魔獣どもが中央へと進んでくるのが見える。
遠い。――だが、届く!
城を囲む城壁にいたエリザベートは杖を掲げる。ジン・アミウールが、彼女のためだけに作ってくれた魔法杖『ルークス・ソーリエ』。その魔力を蓄えたオーブが
「吠えろ電竜。魔なる獣を焼き尽くせ! トルエノ!」
雷の魔法が
おおっ、と近くでエリザベートの魔法を見ていた騎士や兵が歓声を上げた。だがエリザベートの心は晴れない。こんなものは焼け石に水だとわかっているからだ。
「報告! ファントム・アンガーの鋼鉄鎧が救援! 鋼鉄鎧は味方!」
伝令が叫びながら走り回る。鋼鉄鎧――エリザベートが視線を辿ると、確かに見慣れないゴーレムのようなものが南側の外壁を飛び越え(!)、デファンサ城城下町へと侵入してくるのが見えた。
ゴーレムのようなもの。しかしその動きは非常に軽やかで、あまつさえ、その跳ねるような跳躍は、とても鈍重ばゴーレムとは思えない。
鋼鉄鎧と言ったか? エリザベートは、それを注視する。
大帝国の魔人機やゴーレムとはまた違うそれらは城下町を進み、四足魔獣へ攻撃を開始した。
・ ・ ・
デファンサの城下町にやってきたファントム・アンガー陸戦隊は、ソニックセイバーズを含めたパワードスーツ部隊だった。城下町での戦闘を考慮すれば、魔人機では動き難いためだ。
リアナたちセイバーズは、TPS-4ウンディーネ改を使用している。だがその頭部形状は、ウィリディス機と異なるアヴァルク・ヘッドを模したデザインのものとなっている。カラーは黒で変わらないが、ワンポイントのように赤い爪跡のような模様がついていて、どこか生物感があった。
「セイバー4は、高所にポジション。各機を支援」
『了解』
「セイバー2、3は近接戦闘。市街戦になる。誤射に注意」
了解――ライザたちの声を聞きながら、リアナは漆黒のウンディーネを駆る。町中を高速で突き進む。
今回、セイバーズ以外のアヴァルク・ヘッドのパワードスーツは、TPS-1ヴァジランティである。
住民らが逃げる後ろに四足魔獣。ウンディーネはブースターを噴かして急接近すると、低い軌道でジャンプ。そのまま重量に物を言わせた飛び蹴りを喰らわせ、四足魔獣を踏み潰し、体液をまき散らさせた。
さらに後続していた敵にマギアカービンライフルを撃ち込み、住民の避難を援護する。
城下町の東側一帯でパワードスーツ部隊が敵と交戦を開始。都市に入り込んだ魔獣を駆逐していく。
リリーのセイバー4が、デファンサ城の城壁にその機体を着地させると石の床にへこみができて、削れた石材の欠片が落下した。驚く守備兵をよそに、スナイパーライフルを構えるウンディーネ・スナイパー。風向き、風速を確認。町の至る所にあるペナントのおかげで、測るのは容易い。
ライフルのスコープの拡大により、遠方の標的を視認。射線が通れば、即発砲。リアナから狙撃技術を徹底的に叩き込まれたリリー・シェイプシフターが、引き金を引くたびに四足魔獣は潰れ、死骸をさらす。パワードスーツ用狙撃ライフルのため、標的を貫通して地面もえぐってしまう。いわゆるオーバーキルではある。
対して、ライザ、リサといった近接組はマギアカービンの他、バイブロナイフで魔獣に近づき、一閃で仕留めていく。
ヴァジランティ・アヴァルクヘッドも盾と近接用のハンマーや大剣で四足魔獣を一体ずつ駆除する。パワードスーツ用射撃武器は、市街で使うには要注意であり、建物があってもその壁を貫通する恐れがあった。敵しかいないならまだしも、味方の流れ弾でやられるのは洒落にならない。
四足魔獣も脚や溶解液で反撃したが、概ねパワードスーツ部隊が性能で凌駕、撃退していった。
一方、外壁の外では小型四脚戦車、インセクトが、四足魔獣らの右側面に到達する。ナースホルンケーファーを小型化したようなフォルムは、軽快そのもので脚も速い。デファンサに到着するまでにパワードスーツ部隊を運んできた軽戦車部隊は、軽装甲魔獣掃討用の二十ミリ機関銃を唸らせながら、四足魔獣を次々にミンチへと変えていく。
かつてミシンに例えられたこともある機関銃に比べれば速射性は少し落ちるものの、一発当たりの威力は高く、形成された弾幕は集団ごと四足魔獣を血祭りに上げた。
そしてトドメとばかりに、ファントム・アンガーの航空隊が
今回は、さらにイールⅡ攻撃機にガンシップ装備を搭載した機体も混じっていて、空への攻撃手段を持たない四足魔獣たちは、大地に染みを作るだけの的へと変貌させるのであった。
四万を数えた魔獣群は、航空隊による反復攻撃とその後の地上部隊の掃射により壊滅した。
だが撤退を知らない魔獣は最後まで手間をかけた。外壁の外で後続をかなり撃破したものの、それでも入り込んだ個体が、守備隊やパワードスーツ部隊に少なからず損害を与えたのだ。
ともあれ、デファンサを巡る戦いは、主力に続き、前衛魔獣群も撃滅された。大帝国東方方面軍の完全敗北という形で終結したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます