第748話、艦載機トリオ


 赤の艦隊の軽空母『リヴェンジ』『マローダー』から発艦した攻撃隊は、大帝国空中艦隊へ突撃した。


 艦隊からのスキャンの他、偵察機ドラゴンアイの観測記録と映像が『リヴェンジ』艦上の俺に届く。

 大帝国空中艦隊の反応は、例によって鈍かった。


「あいつらは、横や下は警戒しているが、上は見ていないんじゃないか?」


 思わず呆れの言葉が出れば、ダークエルフの副官さんが微笑した。


「自分たちより上に『敵』がいるなど、微塵も考えないのでしょう」

「……魔力索敵装置、行き渡ってないんだな」

「ジン様が、帝国の魔力索敵装置の製造工場を潰しましたからね」


 亜人種族の脳を使って魔力レーダーを作ろう、という敵の計画は潰した。


「だが、帝国は電波を利用したレーダーを開発しているらしい」


 SS諜報部の情報だ。先の亜人を生体部品にした品が、一からやり直しとなり、代わりのものを、ということで異世界人の知識から、電波探信儀レーダーを作ろうとしているらしい。

 たた、きちんとしたものを作るとなると、こちらも相応の技術と部品が必要になるので、前線に配備されるのは、かなり先の話だが。


「そのレーダーの開発も妨害しますか?」

「すぐには潰さない」


 俺は小さく笑った。


「できれば、生体レーダーを作らない方向に進んでもらいたいからね。多少、嫌がらせをするつもりだが、電波式レーダーにしばらく注力してもらうよ」


 レーダーへの対抗策がないわけではないし。

 そこへ、エメロードが声をあげた。


「司令、第一次攻撃隊、まもなく、敵艦隊への攻撃位置に着きます」



  ・  ・  ・



 ストームダガー戦闘機は制空隊として警戒する中、タロン隊、イール隊が、帝国艦隊を視界に捉える。

 巡洋艦5隻、コルベット8隻は、二列の単縦陣を組んで航行していた。


 帝国艦隊は気づいていないのか。あるいは気づいていても対応できないのか。彼らは初めて自分たちより高度を飛ぶ存在を目の当たりにして困惑しているのかもしれない。


『タロン隊はコルベット、イール隊は巡洋艦を攻撃せよ』


 事前に指示された目標を攻撃するべく、位置に着く攻撃隊。


 飛行する魚の骨ことイール攻撃機が、敵クルーザーに狙いを定める。まず5機のイールが、両脇に抱える格好の二発の大型対艦ミサイルを投下。切り離されたミサイルはロケットの炎を噴射、煙を引いて飛ぶ。

 装甲に守られた敵艦を貫き、撃沈するために作られたASM-3大型対艦ミサイルは重々しくも一直線に標的へと突進する。


 ミサイルを切り離したイールは、可動ブースターを使い、さっさと方向転換。離脱行動に移る。

 イールは、航空機としての飛行性能ではウィリディス機でも最低の部類に入る。汎用機であるTH-2は、ローター類はないが、いちおうヘリという扱いで、しかもどちらかと言えば積荷を運ぶ輸送任務が主だったりする。


 そのイールを攻撃機として利用しているのは、その輸送能力と、帝国空中艦の対空迎撃能力が貧弱だからである。まともに対空射撃をしてくる相手なら、機動性も速度もそれほどなく、被弾面積が小さいという利点はあるが、装甲自体は並程度のイールを攻撃機に使ったりはしない。


 ともあれ、艦艇をも殺す強烈な毒針よろしく放たれた大型ミサイルは、帝国艦隊に迫る。そして彼らも、高速で接近するそれに気づいた。一列に進んでいた隊形が崩れ、回避機動に移る帝国クルーザーだが、すでに手遅れである。


 側面の装甲を貫通したASM-3ミサイルが帝国艦内部でその恐るべき破壊力を発揮。機関室が吹き飛び、内部の居住区やその他諸々を引き裂き、クルーザーは船体がへし折れるように真っ二つになった。


 各二発の大型対艦ミサイルの直撃を受けた5隻の帝国クルーザーは、あっという間に爆沈、残骸をまき散らした。


 イール隊の攻撃のあとは、タロン隊である。


 より身軽なタロン艦爆隊は、プロペラのない単発のレシプロ航空機のようなシルエットをしている。逆ガル・ウィングの特徴的な外観は、どこか鳥のようにも見えた。


 搭載してきたASM-1対艦ミサイルを帝国コルベットに向けて発射する。ASM-3より小さく、威力も劣るが、速度は速い。空中艦の中では小回りが利くコルベットといえど、逃げ切れるものではなかった。


 エンジンに、艦橋にとミサイルを喰らったコルベットが火の手を上げる。何とか避けようと機動した艦もあったが、距離を詰めてきたタロンが的確に巨大プロペラの回るエンジンにミサイルを命中させて、その航行能力を奪った。



  ・  ・  ・



 何ともあっけないものだ。

 現代兵器であるミサイルが強すぎるな。この世界では随一の技術を持っているはずの大帝国の空中艦が手も足も出ない。


 終わってみれば、タロン隊は搭載ミサイルウェポンの8割を消費したが、イール隊は5割を使わずに持ち帰った。


 索敵装置に対空兵装の欠如。これらがあれば、まともに反撃できて、赤の艦隊航空隊といえど損害を覚悟しなくてはいけなかっただろう。


 俺は、帰還する艦載機隊を眺めて思う。こういう楽な戦いばかりだといいのだが。


 とはいえ、まだ帝国第三空中艦隊の一部隊を叩いただけ。主力を叩くのはこれからだが、敵艦まで艦載機を送り出してミサイルを叩き込むだけの簡単なお仕事になりそうだ。


 我がウィリディス軍の構成員の大半が、疲れ知らずのシェイプシフター兵やゴーレムコア。とはいえ、適度にメンテや休息は必要だろう。ただ人間の休息とはインターバルが異なるから、出撃サイクルが短いのは利点ではある。


 これでは皆も退屈ではあるまいか? しかし好き嫌いを言えるほど戦争とは簡単なものではない。むしろ損害が出ないだけ、もっと喜ぶべきことなのだ。

 大人になると、やらなくてはならない仕事を消化する日々が延々と続くもの。しかし、これは、連合国の――とくに民間人を帝国の爆撃から守り、救う行為である。贅沢は言えない。


 空では実感が沸きにくいが、地上戦となれば、血と臓物を撒き散らし、死に、腐り、凄惨な光景が広がる地獄となるのだ。


 気が緩みそうになるのを抑え、もっと真剣にならねば。連合国の民は守った一方、大帝国の兵隊は死んだのだ。

 そう、人は死んでいるのだ。どんな戦場でも。そしてこれからもそれは続く。


 戦争が終わるまで、この大陸は死者の血を吸い上げ、俺は死体を量産する仕事をこなさねばならない。


「司令。艦載機、全機収容完了しました」


 エメロードの報告に俺は首肯する。


「整備と補給をさせろ。次の敵を叩きに行くぞ」

「はい、司令」


 空中がだいたい片付いたら、地上の敵だ。連合国の軍がまともに戦えるように。

 連中にも、自分の国は自分で守ってもらわないとね……。

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