第736話、シャドウ・フリート仕様地上装備
ベアル研究所のある古城。二つの山間の真ん中あたりに建っているそれは、古びてはいるが中々大きな城で、守備隊を置けばかなりの防衛力を持つと思われる。
その周りの森には、帝国ゴーレムの『鉄鬼』が警戒配置についていて、不用意に近づくものを阻む。
そこへ、シャドウ・フリート航空隊が襲いかかった。ゴースト戦闘攻撃機が、対地ミサイルを発射。空からの攻撃に対処する方法をまったく命令されていない帝国ゴーレムは、棒立ちのままミサイルの直撃を受けて、爆砕される。
表にいる敵でもっとも厄介だろうゴーレムは、瞬く間に壊滅した。ゴーストはさらに古城の尖塔などにもミサイルや、機首のプラズマカノンを撃ち込み破壊。研究施設は地下なので、上の建築物はほどほど破壊。
TF-5ストームダガーの護衛のもと、帝国製飛行揚陸艇が古城近くへと高度を落とし、やがて着陸した。
守備隊の帝国兵や、今では小型ゴーレムに分類される『黒鉄』が迎撃に出てくるが、ゴーストやストームダガーの機銃やプラズマ砲の掃射で撃退されていった。特に胴体下面に可動式の垂直翼を持つゴーストは、戦闘ヘリがホバリングするように静止し、地上の敵を一層した。
地下への入り口が開けた。ここで俺たちの出番――ではなく、シェイプシフター兵の中隊がまず施設に突入し制圧をかける。
シャドウ・フリート仕様のシェイプシフター兵は、その兜がバケツ型、いわゆるグレートヘルムとなっている。
服は軽装の布製で一部金属で補強されているが、実のところ、この鎧もまたシェイプシフターの変化体であり、兜も含め、変幻自在に姿を変えるというシェイプシフターの能力を損なわないようになっている。
たとえ、姿は変わろうが中身は同じ。エルフの里で青エルフと戦い、強襲兵として敵艦に乗り込んだ個体と同じ能力を持つ熟練兵どもである。
そんなシェイプシフター兵が尖兵として研究所に突入。じゃあ、俺たちは何しに来たのかって話だが、SS兵たちが手に負えない敵がいた場合に対処するのと、施設の資料回収や交渉事が発生した際の交渉役などである。
「普通の施設なら、多分出番ないだろうけどな……」
俺が何の気なしに呟けば、いつもとはまた少し違う暗黒騎士姿のベルさんが皮肉げに返した。
「まあ、十中八九、出番あるだろうな」
魔法軍特殊開発団の施設である。すでに五回ほど、この手の施設を襲撃しているが、うち三回は、俺たちが出張っている。
「施設内で魔法はあまり使われない」
「と思ってるのは素人だぜ? ベテランは室内でも加減できるからな。……そうだろ、アーリィー嬢ちゃん」
「そうだね」
アーリィーが同意した。
彼女もシャドウ・フリート仕様の黒のライトスーツを身に着けている。顔隠しにも使う兜は、バケツ型ではなく、アーメットに似た曲線が使用されたデザインとなっている。目元のスリット部分も含めて、どこか角のない魔人機カリッグのようなメカの頭に見える。
「距離や範囲を考えれば、室内だって炎の魔法は使えるし」
「へえ、君にできる?」
「相手と場所によるかな。色んな状況が考えられるから、一概には言えないよ」
「それがわかってるってだけで大したもんだ」
俺がアーリィーを褒めると、彼女は照れながらも言った。
「ボクだって、日々、剣と魔法の訓練は欠かしていないんだ」
「とてもお強くなりましたからね、アーリィー様は」
と、近衛隊長のオリビアが話に加わった。彼女もまた、ライトスーツ+騎士用の軽装甲をまとっている。
「私たちはアーリィー様の護衛なのですが、正直、近衛が束になっても勝てません。お恥ずかしい限りですが」
「おだてても何もでないよ?」
「事実ですから」
アーリィーに対して、真顔で答えるオリビア。確かに、俺もアーリィーが腕を上げたと思っている。
そこへ通信機に注意を払っていたサキリスが振り返った。
「ご主人様、突撃隊から支援の要請ですわ。敵は異形の他、改造キメラを投入してきたようです」
じっと黙り込んでいたエリサが、顔を隠すマスクをつけ、マルカスや近衛たちも黒兜のフェイスガードを下ろした。
「出番だな」とベルさんが揚陸艇から降りた。俺もシャドウ・フリート仕様の兜を被り、地下研究所の入り口へと向かった。
・ ・ ・
研究所内の警備兵や武装した研究員は、シェイプシフター兵の敵ではなかった。
だがキメラウェポンの作品と思われる改造生物には苦戦を強いられていた。
トカゲ亜人のリザードマンという種族がいるが、それに似た人型種――ドラゴン頭は、さながらドラゴンマンとでもいうのか。身長は二メートルほどだが、その豪腕はすさまじく、壁に穴を開けるほどだった。
時々、頭を押さえる仕草は、苦痛にさいなまれているのか。複数の竜人たちが軋むような声をあげ、こちらに牙を剥く。
「エリサ?」
「残念だけど、あれはもう人としての意思や思考はないわね」
兜で顔は隠れているものの、その豊かな緑髪に、その肉感的ボディを収めたライトスーツがかなりぴっちりしているので、わかる人にはわかるその姿。
「楽にさせてあげなさい」
「可哀想だけど――」
ライトスーツをまとうアーリィーが加速して、竜人に突進する。手には青い光をまとう片手剣ディフェンダーブレード。
複数の守護の魔法が刻まれた魔法剣――もちろん俺作である。その切れ味は光剣に勝るとも劣らない。魔法が効かない相手も斬れるという欠点も解消された一品だ。
迫るアーリィーに竜人のジャブじみた拳が放たれる。その大柄に長い腕から鞭のようにしなる一撃は、アーリィーの頭部を狙う。当たれば、兜があっても無事では済まない拳。
だが彼女の頭部をかすりもせず、躱されたと同時に、ディフェンダーブレードの電光のごとき一振りによって腕を切り飛ばされた。
瞬きの間に竜人もどきの懐に潜り込んだアーリィーは、返す一撃で、あっさりと敵の首を跳ね飛ばした。ディフェンダーブレードの切れ味もさることながら、その刹那の剣筋は見事としかいいようがない。
……やばいな、剣の腕前は、もう俺より上なんじゃないかな?
続く竜人がアーリィーに飛びかかるが、彼女はライトスーツのジャンプで身軽にそのタックルを避けると、その背中に剣を突き立てつつ、左手で腰のホルスターの魔法拳銃を抜き、二発撃ち込んだ。
これまたディフェンダーシリーズのひとつ、ディフェンダーⅡ。拳銃サイズなので、片手で扱える武器だ。
危なげない。アーリィーの腕前は、初めて会った頃とは比べ物にならないほど熟達している。
と、俺も見ているばかりじゃいけないな。とか思っていたら、ベルさんはいつもの如く一撃で竜人を両断しているし、サキリスやエリサもライトスーツで強化された魔法で敵魔獣兵器を撃破していた。
「皆、頼もしいなぁ」
部下が敵を掃討した後を悠然と歩く悪の親玉よろしく、俺は押し上げられる前線に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます