第730話、会戦の終わり


 ウィリディス軍魔人機の参入で、敵ゴーレム群は次々に撃破されていった。


 サキリスの専用機、白銀の騎士めいた魔人機ウェルゼン・ヴァルキリーが、背中のフレキシブルウイングから流星のような光の尾を引きながら突進。保持するランス型マギアカノーネで至近から銃撃、そして刺突で、荒々しくも鮮やかな手並みを見せる。


 魔法重砲型ウェルゼンを駆るのはユナだ。背部の強化マギアカノーネ四門を、自らの魔力でブーストして発射。装甲など始めからなかったかのように、鉄鬼がその数をすり減らしていく。


 ラスィアは俺と同じく魔法装備ウェルゼンを操り、俺の僚機として援護と護衛を務めている。


 ウェルゼンは、乗り手の魔力の高さが性能に影響する。魔術師や魔法騎士は、専用機を持たせるだけの価値はあるのだ。


 左右に展開するマッドやオリビアらも、順調に敵を撃破している。マッドはこの手の兵器の扱いが専門ゆえ、彼の動かすグラディエーターは、一目みてエースパイロットであるのがわかる。最小かつ的確な動きでゴーレムを破壊している。


『ジン、こっちは敵カリッグ部隊を叩きに行くぞ』


 ベルさんが、アイゼンレーヴェ戦車大隊のほうへ向かう帝国軍魔人機部隊を攻撃すべく突撃する。……ふむ、鉄鬼部隊は、あとは残敵掃討レベルか。


「了解した。――サキリス、マッド、君らも敵魔人機の排除に回れ」

『サキリス、了解』

『了解、ソーサラー。第一中隊、続け!』


 ブラックナイト小隊に続き、サキリスのウェルゼン・ヴァルキリー、マッドハンターと彼に率いられたグラディエーター隊が移動する。

 さて――


「ユナ、ヴィスタ、オリビア、ゴーレムの掃討が済んだら、向かってきている敵歩兵の迎撃を任せる。適度に散らして、王国軍が突撃しやすいようにしてやれ」

『了解』


 返事を聞きつつ、俺は、その王国軍へと視線を向ける。

 ゴーレムの前衛部隊とぶつかっていたソードマン部隊だが……3分の1はまだ健在のようだ。


 ジャルジーのゲシュテーバーは、そのヒーローロボットめいた姿のおかげで目立つな。


 と、その傍らで片手にマギアライフル、もう片手にサンダーブレードを持って敵を倒しているのは、青いカラーリングのウェルゼン。

 エクリーンさんに、俺が提供した機体だ。基本装備だが、あれもエクリーンさん専用機である。


 うちで訓練していたけど、彼女もあれでウェルゼンを巧みに動かしている。さすが魔法騎士学校卒業生。魔力適性があるだけあって、やるもんだ。ジャルジーの背中は自分が守る、っていうのが見ていてわかる。


「援護はいるかな……?」

『その必要はないかと思います、ジン様』


 ラスィアの声。俺の機体のそばで敵を狙撃していた灰色カラーのウェルゼンの頭部がこちらに向く。


『ユナたちと共に、敵歩兵への攻撃に回ったほうがよろしいかと』


 冷静に戦況判断をしているダークエルフさん。俺の副官ポジだからね。その能力はある。


『ドーントレスよりソーサラー』


 通信で俺を呼ぶ声。『ドーントレス』は第一航空戦隊の旗艦であり、アーリィーからである。


『こちらの第二次攻撃隊が発艦。そちらに向かっているけど、その前にケーニゲン軍のグリフォン戦隊が到着するのが速いと思う。例のエクスブロードⅡ爆弾を搭載している機体だよ』

「ソーサラーよりドーントレス、了解」


 噂をすれば、戦場に接近する航空隊。ジャルジーのところに配備したドラケン戦闘機だ。コールサインはグリフォン。それらは、王国軍へ前進しつつある帝国歩兵部隊の上空に近づくと緩降下爆撃を開始した。


 腹に抱えたエクスブロードⅡ爆弾は、その重量や大きさゆえ、余分なものを積んでいない。つまりは誘導装置すらないので、航空機のほうである程度制御してやる必要がある。


 とはいえ、対歩兵に限れば、その効果範囲から、密集している場所に適当に落とせば十分に威力を発揮する。

 凄まじいまでの火球が幾つも生まれ、帝国兵をまとめて業火に包む。王国軍歩兵とぶつかるから、より密集して陣形を固めたのが裏目に出た格好だ。


 こういうのはジャンケンに似ている。パーを出せば、グーには勝てるがチョキに負ける。正面の敵に対して良好な陣形をとっても、別の敵に対しては急所をさらしてしまう陣形となってしまうこともあるのだ。


 エクスブロードⅡ爆弾は多数の敵兵をまとめて始末する。数では王国軍の4倍はいた帝国軍だが、特大の爆発魔法の立て続けに受ければ、櫛の歯が欠けるように減っていった。


 明らかに大帝国軍は混乱していた。王国軍との正面衝突の前に、爆撃でその戦力をズタズタにされてしまったからだ。


 大いに頼っている戦車部隊は壊滅、ゴーレムはスクラップとなり、魔人機部隊も魔王様と愉快な仲間たちによって撃破されてしまった。

 いよいよ仕上げの時。そして好機をジャルジーは見逃さなかった。


『歩兵部隊、突撃を開始せよ!』


 結果的に、ここまで温存することになった王国軍歩兵部隊4000が戦場に突入した。恐慌をきたしている大帝国軍は、爆撃によって部隊が半壊、もしくは分断された結果、満足な反撃も行えず、崩れるように敗走を開始した。


 こういう時、勢いのある勢力がより強く見えるものだ。戦力をかき集めれば、まだ王国軍より勝っていただろう帝国軍が、ばらけている時点で勝機はなかったのかもしれない。密集すれば大魔法じみた爆撃の餌食になると想像するなら、反撃の手段もなかった。


 王国軍歩兵の槍や剣が、帝国兵を貫き、屍を増やしていく。悲鳴、絶叫、怒号。武器のぶつかる音が響き渡り、大地が血に染まる。命乞いをする者、道連れとばかりに果敢に反撃し討ち取られる者。互いに接近し密着すれば、昔ながらの剣の戦いが繰り広げられる。


『押せ! このまま国境まで敵兵を追い散らせ!!』


 ゲシュテーバーを駆るジャルジーが檄を飛ばせば、残り弾薬が少なくなった野砲や戦車も果敢に追い打ちをかけて、味方歩兵を援護した。

 俺たちウィリディス軍魔人機部隊もゴーレムとカリッグ部隊を撃破。ズィーゲン平原における大会戦、その決着がつくのだった。



  ・  ・  ・



「勝利だ! 我々は勝ったのだ!」


 王国軍総指揮官であるジャルジーが右手を突き上げれば、彼を見守る兵士たちの勝ちどきの声がズィーゲンの地平線にまで響いた。


 国境を越えて、ヴェリラルド王国北方に侵入した大帝国陸軍4万6000の兵は、その大半を失い、壊滅した。逃走した兵もそれなりにいたが、それでも全体の10分の1も残らなかっただろう。


 大陸制覇を目論む精強なる大帝国軍が、西方諸国の一国に完膚なきまでに叩かれたのだ。


 大勝利である。


 王国軍も少なからず損害が出たが、再起不能な傷ではなく、まだまだその戦闘力を有している。

 事実、北方の一軍だけで立ち向かった今会戦。国王が招集をかければ、西部、東部、南部の諸侯の軍勢が王国軍を形成する兵力となるだろう。


 もっとも――ジャルジーは荒野と化した戦場を見やり思う。高度に近代化されてなければ、いかに兵がいても大帝国相手には不足なのだが。それゆえ、今回はウィリディス軍と北方軍のみで戦ったのである。


 頼もしきは、英雄魔術師の率いるウィリディス軍か。

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