第729話、ソードナイツ大隊


 帝国ゴーレム『鉄鬼』。昨年まで主力だった『黒鉄』に比べ、一回り大型の高さ5メートルほど。下級魔人機のカリッグより若干低いが、それでも以前の型に比べ、その脅威度は跳ね上がっている。


 しかし悲しいかな、武装は手にした金棒型ハンマーのみ。これに関しては、ゴーレムの思考能力、命令処理能力の限界が影響している。低性能を数で補っているわけだが、このあたりの思考能力の低さゆえ、有人型の魔人機の嵩増しとして見られる要因にもなっている。


 だが頭の問題を除けば、魔人機より構造が簡易で、量産しやすいというのは、何とも皮肉な話であるが。


 現に帝国軍A部隊には200の鉄鬼が配備されていて、野砲と航空攻撃で3分の1ほどが撃破されたものの、残りが王国軍に突進。38機の魔人機部隊と交戦に入った。最前衛で50体、後続に約80体と、数で王国軍を圧倒する。


 飛び道具を持たない鉄鬼に、強化型マギアライフルで先制するも、装甲が厚いゴーレムは当たり所によっては、しぶとさを発揮する。


 そのまま近接戦に持ち込まれ、鉄鬼はハンマー、ソードマンは電撃剣サンダーブレードや電撃槍で対抗する。鉄と鉄の激しい殴り合い、互いの装甲をへこませるほどの乱打となると、人が中に乗っている分、王国軍の魔人機が不利だ。


『おのれ……!』


 ジャルジーの専用魔人機『ゲシュテーバー』が、専用プラズマブレードによる斬撃で、鉄鬼を一刀両断に仕留めていく。

 両手を使う大型装備であるプラズマブレード、威力については申し分なし。だが少々取り回しに難があるゆえ、すべての機体に装備させるわけにはいかないのがネックだ。


『数の差は露骨だな!』


 前衛50のゴーレムはすでに半分倒したが、逆にこちらも十数機がやられていた。やはり魔人機兵の練度が足りなかったか。訓練期間が短すぎたか。ここで後続のゴーレムが加わったら、一気に流れが帝国に傾く。


『後ろの連中は任せろよ、兄弟』

『兄貴!』


 通信機から聞こえたジンの声。


 視界の端に、低空に侵入した揚陸巡洋艦『ペガサス』。その艦首のカーゴブロックから、ウィリディス軍の魔人機部隊が次々に飛び出した。


 機種は大きく分けて二種類。一タイプ目は、ウェルゼン。操縦に一定の魔力素養が必要な上位魔人機だ。

 そしてもう一タイプは、ソードマンの外装違い――より鋭角さを増したグリーン塗装の機体、グラディエーターである。

 背中にフレキシブルブースターを備え、ソードマンより高速戦闘を得意とする。中身は同じ素体だが、外装に付与されたブースター装備などで、ソードマンと性能に差がある。


 故に若干、グラディエーターのほうがソードマンより性能がいい。だがこれを、ジャルジーが恨めしく思ったりはしなかった。装甲面では変わらないというのもあるが、仮に王国軍でグラディエーター型の外装が配備されても、その高機動戦闘をこなせる搭乗員がいないという問題があったからだ。


 魔人機自体、配備されたばかりのもの。その戦い方について、ケーニゲン軍でも王都軍でもまだまだ習熟が必要で、基本形のソードマンを使うのがやっとという有様である。


 だが、ここで、王国軍よりも練度の高いウィリディス軍が参戦したことは大きな意味を持つ。

 ペガサスから30機の魔人機が発進したが、彼らに後続のゴーレム約80体を自信を持って任せることができたからだ。



  ・  ・  ・



 ウィリディス軍魔人機部隊、通称『ソードナイツ』大隊の主力はウェルゼンとグラディエーターである。

 ノーマル仕様の標準機が多数を占める中、ウィリディスの主要メンバーは上級のウェルゼンを用いている。


「さて、各機、作戦どおりに行動、敵を蹴散らせ」


 魔術師仕様のウェルゼンから俺が呼びかければ、ブースター光をきらめかせ、グラディエーター各機が猟犬の群れのごとく突進する。


 マッドハンターの第一中隊が右翼、オリビア・スタッバーンの第二中隊が左翼へと展開。なおマッドと、オリビア、それとリアナのグラディエーターは追加装甲をつけた武装強化型である。


『ジン、じゃあ、こっちは好きにやらせてもらうぞ』


 ベルさんの声。彼の機体は、ウェルゼンをベースにしつつも独自のシルエットを持っていた

 黒をメインに、銀の縁取り塗装のAS。大帝国の魔人機を思わす流線のシルエット。一際目立つのは両肩の巨大な大型盾と、尻尾型の武装。手にする巨大剣と合わせて、異形の暗黒騎士といった姿の機体だ。


 ブラックナイト――ベルさんの専用機である。同じく黒塗装の無人型グラディエーターを3機連れて、一気に加速。敵ゴーレム群に斬り込んだ。


 ベルさんの魔力を注ぎ込まれ、ASサイズの魔剣と化した大剣で、瞬く間に鉄鬼を5体ほど両断。

 さらにブラックナイトは両肩の大型盾の下、その先端部分を敵陣に向ける。裏側に内蔵されているマギアカノーネ、いやベルさんの極魔力で強化された魔砲が漆黒の魔力の渦を放射し、範囲内のゴーレムを飲み込み破壊した。


「いやはや、魔王様は今日も絶好調だな」


 少し呆れもする俺だが、ディーシーの声がコクピットに響いた。


『主も負けてられないな!』

「いや、そんな期待されてもね」


 DCロッドをコクピット内の専用ソケットに収めているのが、俺専用機の特徴だったりする。いちおう、俺が動かさなくても、ディーシーが機体や兵器の制御をこなすことができる仕様だ。


 まあ、やってみせるさ。俺も見物するために出てきたわけじゃないからね。


 機体の両肩のマギアポッドを起動させる。片方に二個ずつオーブ(加工された上位魔石)が仕込まれているそれは、言ってみれば魔法使いの杖のようなものだ。

 魔法を使うなら、魔人機だろうが、普通の杖だろうが一緒なんだよな。杖が触媒として魔力を強化するように、マギアポッドが魔力を増幅するのも同じ。


「そんなわけで、喰らえよ、サンダーブラスト!」


 ウェルゼンの両肩から拡散電撃弾を10発ほど放つ。手足を撃ち抜かれた鉄鬼が数機、その場に崩れ落ちる。新型ゴーレムにも十分過ぎるほど効いているな。俺の魔力を使ってるんだ、当然か。


 さて、そんな調子で魔力を使ってれば、俺がへばってしまうので、強化マギアライフルで個人の魔力消費を押さえつつ、鉄鬼を撃ち抜いていく。


『主よ、バニシング・レイでまとめて吹き飛ばさんのか?』

「これでも俺、ジン・アミウールだってのは敵には隠しているんだぜ」


 敵味方問わず、大勢見ている場では使わない。使わないように戦う、そのために色々兵器作って揃えてきたんだ。回りくどい手であるのは認める。が、また後ろから刺されるのはごめんだからな。


『むぅ……我も活躍したいな』


 ディーシーさんがご機嫌斜めのご様子。しょうがないな。


「じゃあ、ディーシー、お前の魔力をライフルに回してくれ。ゴーレムを一発で仕留めたい」


 当たり所が悪いと、二、三発耐えるからな鉄鬼は。


『了解した、主』


 さらに威力の増したマギアライフルで、敵を狙撃。はてさて、撃墜スコアは稼げるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る