第724話、銃弾が降り注ぐ日


 本日は晴天なり。ただし所によって銃弾と砲弾の雨が降る局地的なゲリラ攻撃に注意されたし。


 ドラゴンアイ偵察機が撮影する映像で、司令部にいながら、俺たちは戦況を見守っていた。ベルさんなどは、さながら映画を鑑賞するかのように、ウィリディスの菓子を食っている。


 まず攻撃をかけたのは、シズネ艇ガンシップだ。プラズマカノン主砲、副砲、75ミリ榴弾砲が火を噴き、地上をのんびり行進している帝国兵のもとに着弾した。


 爆発が列の真ん中に起きて、人間が紙でできているかのように吹き飛ぶ。遠方から見ていると、人間ではなく人形のように見えなくもない。


 魔人機など高さ5メートル半はある巨体も、プラモデルの玩具みたいに軽く潰れ、バラバラになる。……昔、ビンに爆竹入れて吹っ飛ばしたとかいうアホがいたが、あんな感じなんだろうか、と的外れなことが頭をよぎった。


 緩やかに左旋回を続けながら、シズネ艇ガンシップは大帝国軍C部隊に砲弾を叩き込む。


 さらにそこへ、ポイニクス・ガンシップ2機が到着。高度1500メートル。シズネ艇と同様に左旋回を行いつつ、獲物を狙う猛禽のごとく、地上を見据える。


 シズネ艇と違い、左側に集中した搭載火器――75ミリ榴弾砲1門と30ミリ重機関砲2門が、阿鼻叫喚といった状態の敵地上部隊を狙う。


 銃弾の嵐と砲弾が、追加投入される。まるで鍋の中身をかきまわす棒のように、ぐるぐると敵の上空で左旋回を続ける。


 ちなみに左旋回なのは、操縦席が左側にあり、パイロットが地上を確認しやすいのと、武装が左側に集中しているからだ。右旋回をしても、地上の敵は攻撃できない。左右非対称。


 火に油を注ぐ勢いで、C部隊の混沌は大きくなる。

 攻撃を受ける部隊が拡大したことで、列は乱れ、分散しはじめている。しかし広大なズィーゲン平原は、高低差がある場所もあるが、空から見ればほぼ平坦。隠れる場所もなく、シズネ艇、ポイニクス・ガンシップは容赦なく帝国兵に砲弾と銃弾を送り込んだ。


「まさに、一方的ですね……」


 戦況をモニターしていたラスィアが俺の傍らで呟いた。


「数百メートル上空の高度の敵を攻撃する手段がないからな。ガンシップはそれよりさらに高いところを飛んでいる。帝国兵は逃げるくらいしかできないよ」


 空中艦を手に入れ、連合国兵を一方的に撃ちまくった大帝国が、まさにお返しを食らっている。ここでミサイルでもあれば、ガンシップに反撃もできるんだろうが。


 最近、大帝国軍にも銃兵が編成されたというが、あれでは届かない。魔人機の飛び道具も駄目、魔法も駄目。Ⅱ型砲戦車は、仰角がとれないため高射砲として使えない。


 アウトレンジからチクチクと、まさに調理されるがまま、大帝国軍C部隊は犠牲者を増大させていく。


「……敵が、かなりばらけてきたな」


 ベルさんが指摘する。ガンシップ戦隊は、蟻の列を踏み潰す巨人のごとく敵を死体に変えていっているが、2隻と2機のみ。当然、攻撃が及ばない部隊も存在する。


 だが所詮は、撃たれる順番が遅くなるとか後回しになった程度でしかない。そしてそれをスピード解決すべく、後続部隊が到着した。


 ワスプⅠ戦闘ヘリ部隊が戦場に駆けつけた。スタブウィングに搭載されたロケット弾やミサイルが、魔人機や砲戦車の残党を遠距離から吹き飛ばす。そして恐るべき大型蜂の針が、帝国兵に向けられる。


 専用ガンポッド――30ミリガトリング砲が、人体にとって恐るべき破壊力を発揮した。凄まじい連射によって放たれた死の銃弾は、鋼鉄製のシールドを穿ち、プレートアーマーごと、人間を分断してしまう凶器と化した。そう、切りつけるとか貫通するとかではなく、真っ二つなのである。


 それがミシンで縫うかのようになぎ払われれば、数十人の屈強な男たちがものの数秒で血と肉片に変わる。30ミリ弾が大地を耕し、そこに人間だったものが肥料のごとく混ざる。


 これに加え、ワスプⅠは機首に20ミリ機関砲を搭載している。これらの攻撃も加わり、1万もの大帝国兵に生き残る術はなかった。


 そもそもガンポッドだけでも1000発の弾を携行している。それが12機のワスプⅠが搭載していて、ほかのガンシップ戦隊の銃弾や砲弾もある。全滅させるに十分の弾を、ガンシップ戦隊は持ってきているのだ。


 だから、地上を行くアイゼンレーヴェ大隊が到着した頃には、C部隊は壊滅、そのわずかな生き残りも潰走していた。

 艦隊戦に続き、またしてもワンサイドな展開。しかし、こうでなくては困る。そのために準備してきたのは、ギリギリの戦いをするためではないのだから。


 時代差チート? それで結構。戦争はお遊びではない。いちいち敵に見せ場なんて用意してやらんよ、スポーツじゃあるまいし。


 一万近くの敵兵が死んだ。勝たねば、屍をさらすのはこっちだ。だから遠慮も容赦もしない。

 そして、その屍の数はさらに増える。昨夜もすでに万単位の敵が命を落としたが、今日もそれは続く。命の大安売り。店の在庫を空っぽにするが如く、大帝国侵攻軍には閉店してもらう。



  ・  ・  ・



 大帝国軍C部隊が壊滅したが、大帝国軍B部隊およそ2万は変わらず進軍を続けていた。


 帝国は、騎兵を使った偵察部隊が、王国軍主力が布陣しているのを発見。報告を受けた主力軍は行軍隊形を解いた。


 主力歩兵部隊を三列の横陣に、両側面に1500ずつの騎兵を配置した。最前列には戦車と魔人機部隊を壁のように並べ、その後ろに1万のオーク兵。中列に帝国歩兵1万。最後尾に司令部含めた3000が並んだ。


 ジャルジー公爵率いる王国軍は、歩兵4000を横列に展開。予備1000を後方に置き、右翼に野砲と機関銃陣地、左翼に騎兵500を配置。準備万端で大帝国軍を迎え撃った。


 大軍ゆえ、配置完了に少々時間がかかっている大帝国軍だが、ジャルジーはそれが完了するまで待つつもりはなかった。


「ドラケン戦隊、敵軍を爆撃せよ!」


 ジャルジーの命令を受けた航空拠点ベース・レイドから、TF-2ドラケン戦闘機、30機が爆装して飛び立った。


 ウィリディス戦闘機の中で、比較的小型軽量の有人機であるが、運動性に優れ、操作性もよく、ケーニゲン領の即席パイロットたちにも扱いやすい機体だ。

 王国軍の主力戦闘機として配備されたが、今回は爆撃任務を帯びての出撃だ。そのブツは、ウィリディス製エクスブロードⅡ爆弾である。


 ドラケン戦闘機は無事全機、戦場へと到達した。戦隊指揮官ムンター飛行隊長は、自らTF-2ドラケンを駆り、平原にひしめく大帝国軍を見下ろした。


「おーおー、大軍ながら整列すると、壮観な眺めだな!」


 三つ首の黒い竜の赤い旗――敵の軍と、味方の軍を間違えないように注意。――圧倒的に自軍が少なくて、間違えようがないのだが、確認を怠ってはいけないと、教官だったウィリディス軍のリアナ・フォスターは口を酸っぱくしていた。


『空を飛んでいると馬鹿になる』


 独特の言い回しをした少女の姿をした鬼教官。要するに地上にいる時以上に注意力を高め、些細なことでも思い込みではなく確かめろということだ。

 敵の軍旗はもちろん、王国軍の青い旗、さらにその紋章もきっちり確認して彼我の位置を確認。


「それじゃあ、おっ始めるか!」


 ムンターは、通信機を押し当てた。


「アードラー1より、各機。突撃せよ!」

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