第722話、撃滅、第五空中艦隊
雲海を突き抜け、巡洋戦艦ディアマンテが浮上した。その艦首上方には、大帝国空中艦隊旗艦の戦艦と、クルーザー8、コルベット9が護衛についている。
「敵旗艦、照準内」
「撃ち方はじめ!」
俺の号令に、『ディアマンテ』の35.6センチ連装プラズマカノンが立て続けに咆えた。
艦首側四基の主砲の一斉射は、敵旗艦を捉え、その下面艦首の30センチ砲を砕き、艦体を爆発させた。……さすが一番装甲が厚い下面部。一発は耐えるか。
『ディアマンテ』は、次の主砲斉射を行うと共に、艦上面の多連装ミサイルランチャーからミサイルの束を放つ。
また、随伴する重巡洋艦『シュテルケ』が20.3センチプラズマカノンを放ち、航空巡洋艦『ディフェンダー』が連装プラズマカノン砲を前方の敵に集中させつつ、ミサイルを発射。
ウィリディス艦艇からの多数のミサイルとプラズマ弾は、次々に護衛のクルーザー、コルベットに突き刺さり、その艦体をへし折り、粉砕していく。
雲海浮上からおよそ1分。『ディアマンテ』の集中砲火を浴びて、大帝国戦艦は艦のいたるところから火を噴き、機関が誘爆を起こし爆散。その護衛艦隊も、クモの糸のように張り巡らされたミサイル群から逃れられず、全滅した。
「閣下」と旗艦コアのディアマンテが俺に振り返った
「目標A群、消滅しました。残敵は、第二戦隊と航空隊が掃討しつつあります」
うん、と俺は頷く。先ほどまで真っ赤に燃え上がっていた空は、もとの漆黒のそれに戻っていた。
「ディアマンテ、艦隊の損害は?」
「今のところ、被害報告はありません」
銀髪の軍人姿のディアマンテは事務的に報告した。まあ、テラ・フィデリティア艦には防御シールドが搭載されているから、生半可な攻撃は効かないんだけどね。
「パーフェクトゲーム、かな?」
「はい、司令」
ディアマンテは同意した。文明のレベル差があり過ぎる。古代機械文明の艦を前にすれば、大帝国艦艇は玩具も同然ということだろう。
敵戦艦の一番装甲の厚い部分に攻撃して、その耐久力も見れたし、航空隊の対艦攻撃や、それぞれの働きとそのデータも取れた。収穫はあった。……おっと、収穫と言えば。
「敵の補給艦隊はどうなった?」
「確認します」
ディアマンテが、第四戦隊――旗艦の『ペガサス』のシップコアに問い合わせをする。宙を見つめること数秒。
「返信あり。敵護衛艦は航空隊が排除。補給艦は5隻を制圧、3隻で戦闘継続中。残る7隻は撃沈しました」
「
全部で8隻。まだ3隻で艦内戦闘が行われているようだが、ヴァイパーの猛毒、SS強襲兵なら直に制圧できるだろう。
「閣下、『アンバル』より入電。索敵範囲内に敵艦の反応なし」
「これで終了かな?」
「広域索敵のポイニクスからも、航行する敵艦は認められずと報告がきました。ただ、地上に落下した敵艦が二十数隻。再び航行できるとは思えませんが、生存者はおそらく――」
「地上部隊に連絡。帝国兵が変な気を起こさないように制圧作業をやらせろ」
残存する兵がどれくらいいるかはわからないが、集まって、それなりの数になれば厄介である。
「
「抵抗する場合は。投降してきたら捕虜にする」
「食料を手配する必要がありますね」
「手に入れた補給艦の物資を使えばいいさ」
「……これを見越しての、補給艦拿捕ですか?」
まさか。それはついで、だ。鹵獲した敵物資の使い道は色々あるというのは、こういうことだ。
「全航空隊に帰投命令。作戦第一段階は終了だ」
俺は宣言と共に、司令官席で伸びをする。座りっぱなしで、固まった筋肉をほぐす。
「はい、閣下。――戦闘配置、解除。各艦は警戒配置に」
ディアマンテが作戦参加艦に通達する。さて、俺は、空母『ドーントレス』で指揮をとるアーリィーや、『アンバル』のダスカ氏に労いの交信をしたら、エマン王とジャルジーに大帝国空中艦隊の排除を知らせるか。
・ ・ ・
第一航空戦隊、旗艦『ドーントレス』。
古代機械文明時代、アンバンサー戦争の中期より、大型正規空母の不足を補うべく開発、建造された高速空母である。
カプリコーン軍港にて回収され、再生、ウィリディス軍に使用されている。
全長230メートルの艦体は、空母としてはそこまで大きいと言えないが、その艦載機は60機前後。二層の格納庫、その通路に無理矢理押し込んで70機ほど。飛行甲板も使って並べることで、90機を運ぶことができる。
飛行甲板を挟んで艦体の右側に艦橋があり、アーリィーは一航戦(第一航空戦隊)司令として、作戦に従事した。そして今、帰還する航空隊を艦橋から見守っていた。
「やっぱり全員戻ってくるというのはいいことだよね」
「はい、司令官」
女軍人姿のシップコア、ドーントレスが、アーリィーの傍らで頷いた。
マルカス率いるトロヴァオン隊、ベルさんのドラケン隊、TF-1ファルケ隊、TF-4ゴースト隊、4中隊計51機が今回の作戦に投入された。
トロヴァオン隊以外は、シェイプシフターパイロットや、ゴーレムコアなのだが、帝国艦との交戦で撃墜されることがなく、アーリィーは安堵していた。
王国東部のアンバンサー紛争では、機体は撃墜され、近衛パイロットの戦死者も出している。大帝国が空中を飛行する敵をまったく想定していなかったから犠牲はでなかったが、敵に優れた対空砲があれば、こうはいかない。
「いつもこうだといいだけどね……」
「まったくですね、司令官」
ドーントレスは、甲板に降りるトロヴァオンを見やる。
「ディアマンテ旗艦殿の記録を見ましたが、アンバンサー戦争では、艦載機が全機無事に帰投できたことがなかったとか」
「……」
「艦載機のない空母ほど、寂しいものはないと聞きました。私もそう考えます」
「うん……。そうだね」
アーリィーは、空っぽになった格納庫を思い出して、身震いした。出撃したから機体がなかっただけだが、これがもし撃墜されて帰ってこなかった結果だとしたら……。
マルカスやベルさん、近衛のパイロットたち。当たり前のようにいる彼らが、いなくなる日。……考えたくない。
全員無事だから、と素直に喜べなかった。本当は喜ばしいことなのに。ただ母艦で待つだけなのに、心がすり減っていくような気分。
戦死者が出たら、もっと辛い――アンバンサーとの紛争で経験したこと。
トロヴァオンに続き、ドラケン戦闘機隊が着艦に移る。一航戦の僚艦である空母『アウローラ』『アルコ・イリス』にはファルケ隊、ゴースト隊が順次、降下している。
「でも、まだ始まったばかりなんだよね」
明日以降、本格的な地上戦が始まれば、多くの血が流れる。王国軍の兵士たち、ジャルジーや、フレック騎士長といった顔を知っている人たちも、無事に帰ってくるという保証はないのだから。
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