第696話、開拓隊、出発


 新型の義肢とは、この時代の品ではない。つまるところテラ・フィデリティア――機械文明時代のものだ。


 古代機械文明は、現代より遥かに進んだ技術がある。俺の完全ヒールほどではないにしろ、日常生活に支障がないレベルのものだ。

 ちなみに、テラ・フィデリティア製義手に、シェイプシフター素材をつけた戦闘用のものを作成したら、ダークエルフの若い衆がこぞってそちらを選択した。


 変幻自在のシェイプシフター、その小型体を身体につけることについて、スライムのような黒い塊を不気味がると思ったのだが――


「黒きモノ……闇の眷属か」


 などと言われ、受け入れられてしまった。


 何でもダークエルフが信仰する闇の精霊の使いが、シェイプシフターのような黒きモノと呼ばれる存在らしく、その神の力だと思われたらしい。気持ち悪がられずに済んでよかったとしよう。


 さて、義肢をつけたダークエルフたちだが、程度の差はあれ、回復していった。

 森を駆け回ったり、狩りをしたり、戦闘をこなしたりと、シェイプシフター義肢をつけたグループも、それを使いこなしていた。しかも彼ら、彼女らは義肢を自らの戦技に取り込んだ。

 何せ生きている義肢である。硬化と命じれば、石のように固くなり、相手の攻撃を弾いたり、固めた拳での強烈な殴打を繰り出したりと、とてもしたたかだった。


 と、ここで時系列をやや戻す。


 鹵獲した大帝国艦2隻は、浮遊島アリエス軍港へ移動。ダークエルフたちは地上に下ろし、ノイ・アーベント近くに仮のキャンプを設営。移住候補であるアミナの森へと向かうための準備を行った。


 ポータルでニゲルの森にあるアコニト集落と繋ぎ、ダークエルフたちは一度、家財道具などを回収しに故郷へ戻った。


 俺はその間にサキリスとノイ・アーベントに行き、ダークエルフの民の件を伝えた。リーダー格の住人らを集めて、事情説明。異種族ということで、不安そうに質問してくる者もいたが、ノイ・アーベントに移住するわけではないと言えば、納得してくれた。


 まあ、今は移住しないと思うが、そのうちノイ・アーベントに住みたいと考える者もいるかもしれないけどね。


 さて、戻ってくるダークエルフたちのために、ウィリディスからも随行員と支援部隊を用意する。


 アミナの森開拓と探索部隊の編成。森までの移動はBVシステム車両のうち、高速輸送車形態であるフェルスを、ホバートレイン状態にして運ぶ。移動は戦車も行けるが、森の中には入れないかもしれない。


 シェイプシフター偵察兵をつけるとして、他にも何人か人員を出すべきだろう。……誰を行かせるか。


 とか考えていたら、ヴォード氏が挙手した。


「せっかくいるのに、ここまで何もしていないからな。手伝わせてくれ」


 歴戦の冒険者であり、王都ではギルドマスターでもある彼だ。リーダーとしても頼りになる。


「王都ギルドはいいんですか?」

「もともと数日は離れる予定だったんだ。問題ない」


 クローガたちなら上手くやる、と後任をきちんと信用しているようだった。ではヴォード氏の申し出、ありがたく受け取らせてもらおう。


「すみません。本当は俺が行きたかったのですが」

「他にもやることがあるのだろう? 気にするな」


 気が利く人っていいよね。ヴォード氏の他には、ダークエルフの同族であるラスィアさんにも同行してもらう。その友人であるユナと地元民であるサキリスも、アミナの森へ向かわせる。


 ユナはウィリディス製魔法具などの説明役に打ってつけだし、サキリスは元領主の娘だから、必要な情報を俺より提供できるだろう。


 そうこうしているうちに、ポータルからダークエルフの民が戻ってきた。


 正直にいえば、そのまま故郷に残りたいという者もいるのではないかと思っていたが、全員、こちらへ戻ってきたと言う。大帝国の脅威を肌で感じているせいだろうな。


 ただ、アコニトでは使えそうな道具はあまり拾えなかったそうだ。武器については、大帝国が接収していたものを取り返しているので、数は揃っている。


 手や足を失っている者には、シェイプシフター義肢を与えたが、まだ慣らしの段階で、無理をする時ではなかい。……だから、ウィリディス軍が支援するんだけどね。


 不足する物資をフェルス輸送車に積み込み、アミナの森開拓隊は、ノイ・アーベントを出発した。



  ・  ・  ・



 さて、俺は浮遊島アリエスの軍港へ向かった。

 鹵獲した大帝国のクルーザーⅡ型と輸送艦を、ウィリディス軍規格に改装するためである。


 アリエスドックに入港した無人の2隻は、旗艦コア、ディアマンテの監督のもと、シェイプシフター工作部による改装作業に入った。


「先日、ディーシーさんとあれこれ話し合ったおかげで、どこをどう改造すれば、最小労力で動かせるかわかりましたから」


 銀髪の女軍人姿の旗艦コアは、穏やかな口調で告げた。

 先に手に入れた高速クルーザー『キアルヴァル』。その前にルーガナ領でⅠ型クルーザーを手に入れているとはいえ、新型はかなり進化していたから、『キアルヴァル』でやってみた手法が取り入れられるという。


「見た目は大帝国艦ですが、中身は手を加えます。同じ性能では数の差で負けますから。こちらの制御コアで自動管理が可能なインフィニーエンジンへの載せ換え、武装も、無人砲塔型のプラズマカノンに換装します」


 エンジンや砲は、カプリコーンの生成装置にて、量産が進められている。テラ・フィデリティア正式装備に換えることで、速度と火力が大幅に強化される。


「艦内に制御コアを配置することで、人員不要の無人艦とします。そうすれば、乗組員用の設備に一切触れず、改修期間の短縮と工程を簡略化させます」

「うん。シャドウ・フリートは、ウィリディス航空艦隊以上に、自動制御を推し進める」


 シェイプシフター兵を乗せているウィリディス艦隊だが、帝国鹵獲艦隊は、陸戦部隊以外は、全部、艦の自動制御に任せるつもりだ。


「時間はかかりそうか?」

「現在の魔力供給量なら、3の月の半ばからの戦線投入には間に合うでしょう」


 ディアマンテは大帝国艦を見上げた。


「結構。……これで『キアルヴァル』含めてクルーザー2、輸送艦1が追加編入か。コルベットも欲しいな」

「では、スティール計画を実施されると?」


 ディアマンテの確認に、俺は頷いて答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る