第693話、ダークエルフたちの救出
大帝国クルーザーと輸送艦を制圧、
俺は、揚陸巡洋艦『ペガサス』の艦橋で、その報告を受けた。
敵艦に乗り込んだシェイプシフター強襲兵は、敵艦乗員を制圧。降伏した二〇名ほどを捕虜にした。
正直に言うと、こちらの秘密を守るために敵兵は全滅させるべきではある。だが、投降の意思を示した者を問答無用で殺すというのは気持ちのよいものではない。
また、ウィリディスの人間からも、あまりいい感情を抱かれないことは容易に想像できた。たとえば、アーリィーとかマルカスとか。一方で、ベルさんやリアナだったら容赦なくやっただろうなと思う。
俺自身、必要ならやるのだが、気が滅入るし、そもそも今回はゲストを乗せている。彼、彼女らの心象を悪くするのもよくない。……というより、ダークエルフたちが、捕虜に逆襲したりしないかのほうが心配かもしれないな。
そのダークエルフの民は、輸送艦クイグ・シェ号のカーゴブロックに押し込められていた。
シェイプシフター強襲兵たちは、ダークエルフたちが閉じ込められているコンテナ状の箱を解放せず、周囲の守りを固めた。
艦の制圧が終わったので、俺は、通訳であるラスィアさん、ズァラ、アミラちゃん、そしてヴォード氏と共に、ペガサスの艦首ブロックへ移動。ベルさんが退屈そうにぼやいた。
「あぁー、出番なかったな」
「しょうがないよ。今日は強襲兵たちのデビューで、その力を見てみたかったからさ」
ベルさんに先陣切らせたら、無双するのがわかっている。SS強襲兵たちの実力を計るためには、今回は自重してもらった。彼らが苦戦するようなら、ベルさんにも出番があったかもしれないんだけどね。仕方ないね。
俺たちは、敵艦に突き刺さった突撃型ポータルポッドと繋がっているポータルを使って輸送艦へと乗り込んだ。
艦内通路には、血の跡が壁や床に残っていた。死体が見当たらないのは、シェイプシフター強襲兵が片付けたか、彼らなりの方法で処分したのだろう。
「狭いな、ここは……」
ヴォード氏が窮屈そうに言う。天井に頭をぶつけるようなことはないものの、大男には、辛い環境かもしれない。すれ違う時は、お互い気を使う程度の幅しかない。
シェイプシフター強襲兵の軍曹が俺たちを輸送艦のカーゴブロックへと案内した。
「……あのコンテナの中か」
強襲兵が調べたところ、長さ12メートル、高さ、幅がともに3メートルの長方形の物体が一〇個ほど。うち中に人がいるのは五個だという。
「じゃあ、捕らわれている人たちを解放しよう。ラスィアさんとズァラは手分けして、外は安全だということと、我々が敵ではないことを伝えてくれ」
「わかりました」
「わかった」
二人のダークエルフは頷いた。少女ダークエルフのアミラちゃんが俺を見上げる。
「あたしは……?」
「……そうだね、ズァラと一緒に行ってくれるかい?」
「わかった!」
十歳くらいのダークエルフの少女って、結構貴重だと思うんだ。素直でよろしい。
俺は、手持ち無沙汰なヴォード氏とベルさんを見た。
「ラスィアさんたちがダークエルフたちを説得している間に、他の荷物を検めましょうか」
この輸送区画に詰まれているコンテナ状の箱の半分は、生き物の反応はなしだと言う。はてさて、いったい何を運んでいるのやら。
……ま、大方、ダークエルフの里から奪った戦利品だろうけどな。金目のものとか、武器になりそうなものとか、そういった類の。
・ ・ ・
コンテナの中にいたダークエルフたちは救出された。解放する前にラスィアさんたちが声をかけたおかげで、中にいた囚人たちが暴れたりすることもなく、混乱もなく終わった。
ただ、怪我人や、コンテナに閉じ込められ放置されていたため衰弱した者も多く、俺はただちに飲み物と軽い食事を手配し、ダークエルフたちに配布した。
ポータルのおかげでスープや水が迅速に行き渡り、またエリサやシェイプシフター衛生兵らの救護もあり、症状の改善が見られた。
「ほんと、お前たちは、至れり尽くせりだな」
ヴォード氏は感心を隠そうともしなかった。ラスィアさんが我々と同族の間を取り持ってくれたから、スムーズに作業は進んだ。もし彼女たちが間に入っていなければ、人間に誘拐されたことを根に持って、救助の手を拒み、場合によっては衝突もあり得ただろう。
さて、救助されたダークエルフは130人ほど。それが広いとはいえないコンテナに閉じ込められていたのだから、その息苦しさとストレスの度合いは計り知れない。
で、残るコンテナの中身だが、うち三つは、俺の睨んだとおり、ダークエルフたちの希少な武具や金銀など、金目のものが集められていた。持ち主たちがそばにいるので、「お宝だ、わーい」なんて口が裂けても言えない。
残る二つの中身だが――
「……」
「酷いことをする」
ベルさんも俺も、ヴォード氏も言葉に詰まった。比較的、体力の残っていたダークエルフたちもそのコンテナの中身を見て、ある者は絶叫し、またある者は泣き崩れた。
コンテナの中にはダークエルフの死体が吊されていた。首や足首に縄がかかり、まるで屠殺した家畜を吊すが如く、ぎっしりと詰まれていた。
中から漏れてきた冷気が、足を冷やす。ご丁寧に死体が腐らないように冷凍していたのだろう。冷蔵庫、いや冷凍庫を大帝国は実用化しているんだな……。
ヴォード氏が憤る。
「大帝国の奴ら、いったい何だというのだ、これは!?」
亜人を誘拐しているのが、魔法軍特殊開発団だからな。
「青肌エルフがエルフの民を虐殺したのは怨恨だった」
ベルさんが面白くなさそうに鼻をならす。
「だがこいつは……」
「おそらく、何らかの実験材料とするつもりだろう」
俺も胸の奥にこみ上げる滾るような鈍痛に耐える。
「死体を冷凍保存して運ぶのも、おそらくその一環だな」
何故、魔法軍特殊開発団が亜人を集めているかは、まだ調査中で実態が掴めていない。だがキメラウエポンのような悪しき研究をやっていた連中のこと、ろくでもないのは間違いない。
ヴォード氏は口をへの字に曲げた。
「このようなことをする連中には、落とし前をつけないと腹の虫が治まらん!」
ダークエルフたちが、死んだ同胞の遺体を下ろしている。数日前まで生きていた仲間たちの悲惨な姿に、悲しみと憎悪の感情、そして声が木霊した。
「ジンさん」
沈痛な表情のラスィアさんがやってきた。背の高いダークエルフを連れて。……彼は右腕がなかった。
「こちら、族長のルカー様です」
「ジン・トキトモ侯爵、初めてお目にかかる。まずは、我らの救助のために駆けつけてくれたことに礼を言う」
四〇代男性に見えるルカー族長。ダークエルフもエルフ同様、外見から年齢を推測するのは難しいから、実はかなりのお歳かもしれない。
その彼が、まずは頭を下げて礼を言った。
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