第684話、高速クルーザー『キアルヴァル』


 カレン女王には、ノイ・アーベントの食堂で料理を振る舞った。久しぶりのウィリディス料理だと歓喜された。


 その後、大帝国が攻めてきた時のウィリディス軍との連携などの大まかな協議を行い、女王はポータルでエルフの里へと戻っていった。


 ダークエルフ、いや、青エルフの集落を大帝国が侵攻し、そこの住人たちを連れ去ったという。俺はスフェラと共に、SS諜報部の情報の見直しを行った。


 すると確かに、亜人や獣人集落の襲撃と誘拐という、小規模作戦がいくつか実施されていて、その移動に空中艦が使用されていたのが判明した。


 大帝国は人間以外の種族に差別的であるのが有名である。ただ、襲撃し全滅させた、ならまだわかるのだが、生け捕りにして連れ去るというのが、少し引っかかった。


 何より、この亜人種族誘拐作戦の出所が、大帝国陸軍本部ではなく、魔法軍特殊開発団からとなっているのが、その予想を後押しした。


 特殊開発団――アンバンサー系兵器の改造である魔器を製作、その他魔法研究を行っている部署だ。


 もう名前だけで嫌な予感しかしなかった。ここで俺の思考によぎったのは、半サキュバスであり、仲間であるエリサ・ファンネージュのこと。彼女を改造したキメラウェポン計画。……亜人たちはこの実験の素材にされているのではないか?


「スフェラ」

「はい、あるじ様」

「このさらわれた亜人たちがどこに連れ去られているのか、その拠点を速やかに割り出すように諜報部に命じてくれ。場合によっては、即行動の可能性もある」

「承知しました」


 浮遊島アリエスで遭遇した異形も、特殊開発団の代物の可能性が高い。連中がまた化け物を作るのは見過ごせない。



  ・  ・  ・



 ディーシーが、アリエス浮遊島で残骸となっていた大帝国の高速クルーザーを回収した。


 高速クルーザー――その艦名は『キアルヴァル』と言う。艦首に艦名が表記されたプレートがあったのだ。


 艦体は結構な部分が残っていたが、内部は自爆装置によって徹底的に破壊されており、おかげで本来キアルヴァルが搭載していた火器類も、通常の手段では再現しようがないほど吹き飛んでいた。


「当然、再利用するよな、主?」


 ディーシーは言った。もちろん、大帝国のフネは欲しかったからね。


 艦を動くようにうちの技術で改造、再生を進めるとして、その失われた武装についても、こちらで用意することになった。


 俺は、ディーシー、そしてディアマンテと、『キアルヴァル』に積む武装について、話し合う。SS諜報部が入手している、大帝国の空中艦の武装の資料を眺め、俺は発言する。


「大帝国の主力クルーザーの主砲は15センチ砲だ」


 光弾系ではなく、実体弾を撃ち出す砲だ。大帝国は魔減率の問題を解決できなかったらしく、魔法系ではなく火薬を使って撃ち出す武器を使っている。……他の国々が魔法にこだわっている間に、火薬関連の技術を発展させたのは、異世界人の影響だろう。


「艦内に余裕がありますし」


 ディアマンテが宙に指を動かせば、何もないはずの空間にホログラフィック状の画像が現れた。


「アンバル級の主砲である、15.2センチ――6インチプラズマカノンを載せられます。エネルギータンク込みの砲塔式で……そうですね、艦首側に最低2基、最大4基」

「艦尾側は……難しいか?」

「機関室が艦体の中央から後部に集中していますから、構造上、巡洋艦クラスの砲は困難です。5インチ――12.7センチの高角砲レベルなら何とか」

「うーん、速度重視の設計で後部に余裕がないか。……ディーシー?」

「いいのではないか」


 ディーシーも頷いた。ディアマンテが微笑する。


「エンジンもテラ・フィデリティアのインフィニーエンジンに換装しましょう。それだけで、大帝国の空中艦より優速です。またプラズマカノンは、敵艦の砲の射程より長いですから、アウトレンジから一方的に攻撃することが可能です」

「要は、戦い方次第ということだな。よいか、主よ?」

「じゃあ、その方向で進めようか」


 キアルヴァルの装備について討議し、何を載せるか決めていった。

 また、操艦に必要な構造を改めて、シップコアないしコピーコアで制御できるように、手を加える。


 テラ・フィデリティアの技術をつぎ込んだ結果、オリジナルよりも強力な艦に仕上がった。我らがダンジョンコアさんも、機械文明技術を手足の如く使いこなせるほど熟達していて、ディアマンテとの連携も完璧だった。


 さて、高速クルーザーのエンジンを、テラ・フィデリティア製の魔力エンジンに換装。武装も、アンバル級クルーザーと同様の15.2センチプラズマカノンを新造した。


高速クルーザー:キアルヴァル(ウィリディス改装後)

・全長165メートル

武装:15.2センチ単装プラズマカノン×3(艦首側)

   12.7センチ単装プラズマカノン×4(側面)

   12.7センチ連装プラズマカノン×2(後部)

   光線対空砲×16


 大帝国高速クルーザーをテラ・フィディリティア規格のものを新たに搭載した結果、速度ならびに武装が大幅に強化された。


 元の艦は人力だったが、シップコアとコピーコアによる自動化に成功、大幅な人員削減を可能とした。その辺りは、アンバル級をはじめ、シップコア搭載艦が、自動で動くのを目の当たりにしているから、心配していない。


 かくて、シャドウ・フリート(仮)艦隊の暫定旗艦に『キアルヴァル』がなったのである。


 気になったのは、以前回収したクルーザーに比べて、半年しか経っていないのに、その作りがかなり精巧さを増していることだ。本当、戦争ってのは技術の発展を平時とは比べものにならないほどの速度で進化させるのだ。


 まあ悪いことばかりではない。新式を解析できたおかげで、今の大帝国艦を鹵獲した時、どこをどう弄ればいいのか、その具体的な形が見えた。


 オペレーション・スティールにおいて、強奪目標ながら難題だった敵艦の奪取。艦を制圧し、機械類を操作するために多数のシェイプシフター兵を動員しなくては、と考えていたのだが、それも楽になりそうだ。


 こうなると、作戦も現実味を帯びてくるもので、SS諜報部には近く攻撃目標を選定させておこう。


 そうそう、これまで考えていた強襲ポータルポッドを使った敵艦突撃案も進めておく。方法は一つだけでなく、複数用意しておくものだ。

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