第508話、未確認魔獣?
ウィリディスでの魔法甲冑演習は好評のうちに終了した。
演習による操縦者の技量アップ、機体反応の向上と新武装。三号甲冑シュタールを使う王都騎士団は十分な成果を得た。
王都での魔法甲冑部隊は増加する予定で、ジャルジーのケーニギン領向けの配備も急がれることになった。
その日、ウィリディス食堂で食事をしていると、紫髪のシェイプシフターメイド、ヴィオレットが俺のもとにやってきた。
「ご主人様、エルフの里より使者が、緊急の要件ということで訪ねてきております」
「エルフの里?」
何かあったのかな? まあ、あったんだろうな。でなきゃ緊急じゃないもんな。
「わかった」
ということで、俺は使者さんに会った。……アリンだった。
「やあ、アリン。久しぶりだ。女王陛下のお遣いかな?」
「ジン様!」
はい、切羽詰まっている顔です。……エルフって基本、冷静な人が多いのだが。
「すみません。お力をお貸しください!」
「また、青エルフが攻めてきた?」
エルフの里が、青色肌のダークエルフに襲われたのは記憶に新しい。ウェントゥスの航空隊を派遣し、さらにシェイプシフター部隊と共に、敵を全滅させたのだが。
「わかりません。ただ、森で非常事態が……」
「詳しく」
アリンの話はこうだ。ダークエルフの襲撃で破壊された集落の復旧、再建活動をしていたエルフの一集団から救援要請がきたという。
「魔獣の襲撃を受けた、というのですが……」
「へぇ、魔獣ね」
「よう、ベルさん」
黒猫の相棒が、俺たちのところにやってきた。
「何だ? 面白い話か?」
「エルフたちにとっては最悪の出来事みたいだ」
「おーう」
それを聞いて、俺の隣に座り込むベルさん。話は聞くつもりらしい。俺はアリンに『続けて』と促した。
「狼型の魔獣のようですが、どうにも今まで見たこともない魔獣のようなのです」
「狼だ? んなもん、エルフお得意の弓で射殺できるだろ?」
ベルさんが指摘すれば、アリンは表情を曇らせた。
「それが、こちらが遠距離から弓で狙うと、消えるらしいのです」
「消える?」
「そいつは本当に狼か?」
「狼型、としか」
アリンは首を横に振った。
「こちらが派遣した正規軍の討伐隊は、音信不通です。村で隠れているエルフからの念話では、おそらく魔獣に全滅させられたようだと……」
「村に生存者が?」
「はい、上手く、家の中に隠れられた者が何人か。ただ家によっては先の襲撃で破壊されたままのものもあって、そういうところに逃げた者は殺されてしまったようですが」
運のいい奴もいれば悪い奴もいたか。一応、エルフたちも自力で何とかしようとしたが、対処に失敗したと。悪戯に被害を出し続けるだけだと判断して、俺たちに助っ人を頼みにきた、と。
「そもそも、狼ってのは人を避ける生き物なんだがな」
ベルさんは首を捻った。
「家畜を襲うことはあるが、人に対しては子供や老人か、弱ってるヤツが対象だぜ?」
狼というのはそういうものだ。たまに好戦的なものもいるが、基本家畜は襲うが人間に対しては避ける傾向がある。だからグレイウルフなんかも、強さの割りに討伐した時の報酬額が高めに設定されている。人間と戦う狼が少ないからだ。
もちろん例外はいるし、数が多かったり、人肉を好む狼だと積極的に襲ってくることもある。
「狼に似ているらしいですが、それよりひと回り大きいらしいです。その魔獣は、エルフを視認すると、風のように消えて、次の瞬間、狙われたエルフが切り裂かれているとか……」
まるでジェヴォーダンの獣だな。昔、フランスのジェヴォーダン地方を荒らしまわった狼のような化物。人間ばかりを襲い、その正体は現代でもよくわかっていないというやつだ。
「村にいるエルフたちは、隠れた家から出ることもできなくなっています。逃げようとした者は、例外なく村を脱出できず殺されたと。……このままでは、生存者たちもいずれ餓死してしまう」
アリンが絶望にかられた顔をする。ベルさんが、俺を見た。
「なあ、ジン。オレは、その狼型の魔獣ってやつに、ひとつ心当たりがあるんだが……」
「奇遇だね、ベルさん。俺もだ」
攻撃の際に消える狼型の魔獣。……消えるってのが引っかかるが、ひょっとしたらそれは消えているのではなく、あまりに素早くて目で追えなかったのではないか。
「マントゥルのダンジョンにいた狼型の魔獣」
「ハイスピードウルフって仮付けしたヤツな」
ベルさんも頷いた。どうやら、俺と同じ考えだったようだ。
「てっきり、マントゥルの作った実験動物かと思ったんだがな」
「もしかしたら、野生の種だったかも。今回現れた狼型の魔獣をベースに改造したとかさ」
ま、今は出所はどうでもいいか。その復興しようとしたエルフ集落を荒らしている狼型の魔獣を退治するのが先だ。
「アリン。その狼型の魔獣はどれくらいいるかわかるか?」
一体か二体? それともたくさん?
「正確な数はわかりませんが、最低でも十はいるらしいです」
「ふむ……。こちらも部隊を送り込むか。いまさらだけど、アリン。その集落ってのは――」
「はい、カラン集落。……ヴィスタさんの故郷で、彼女もそちらに――」
「それを早く言いなさいって!」
マジかよ。ヴィスタが巻き込まれているって?
「まさか、もうやられてなんかないよな?」
「……わかりません。少なくとも、念話を送ってきたエルフは、彼女を見ていないと言っています」
最悪、狼型の魔獣にやられているかもしれないってことか。……冗談じゃないぞ、こいつは!
俺は、さっそくカラン集落救援のため、SS部隊を招集した。アーリィーやサキリス、マルカスらも来たが、俺は『人間』は連れて行くつもりはなかった。
「どうして? ボクたちも戦うよ?」
「相手が、ちとヤバそうだからな。気がついたら噛み殺されているような相手だからな。俺とベルさん、それとリアナは見ているから知っているが、正直、俺は君らには荷が重いと思っている。ということで、今回は留守番な」
「……」
そんな顔をしてもダメだよ、アーリィー。あ、リアナ、君は来てくれ。
ベルさんがニヤニヤして言った。
「ま、その狼型の魔獣の映像を撮って、あとで見せてもらえよ。それでどんだけヤバぇかわかるってもんさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます