第500話、対決、人狩り部隊
「追い詰めたぞ、異世界人!」
大帝国特殊任務群、リベレイターを率いるディリー・ペッカーは声を張り上げた。
三十代半ば。自身も魔術師であるペッカーは細身であるが、その独特の髪型のせいで目立つ人物だった。
リーレと
浅黒い肌にベレー帽の女がリーレ。髪の長い、しとやかそうな少女が橿原トモミだ。大帝国領を移動していたことで、その存在を掴み、リベレイターに出動命令が出た。
この二人は、その戦闘力が高いことで特に危険視されていた。ゆえに、優先的に捕獲ないし始末をつけなくてならない。
「これが最後の通告だ。降伏しろ!」
「うっせ、キノコ野郎!」
リーレが間髪いれずに、ペッカー――その独特の髪型をなじった。頭のシルエットがキノコに見えるのだから、割と的を射ている。
「はは、この状況で威勢だけはいいな、リーレ。もはや貴様たちに挽回の機会などない。どうせ運命は決まっているのだから、無駄な抵抗はやめろ」
「あたしは、これでも不死身なんだぜ? お前らにあたしが殺せるかよ?」
「貴様はそうでも、カシハラトモミは不死身でないだろう。そっちを始末した後、貴様を蜂の巣にして本土へ連れ帰ってやる。なに、どうせ死なんのだから遠慮はいらんだろう」
「クソが!」
リーレが吐き捨てる。包囲する魔術師たちが一斉に呪文を放つ構えをとる。いかに魔法に長けるリーレといえど、すべてを防ぐことができるかどうか。
ペッカーは、静かに腕を振り上げる。振り下ろされた時が、最期だ――そうほくそ笑んだペッカーだったが、思いがけない方向から呻き声が聞こえた。
「うおっ――」
「あ――」
何事かと視線をやれば、魔術師たちが見えない何かに殴られたようによろめき、頭から血を噴きながら次々に倒れていく。
わけがわからず、ペッカーは目を見開いた。
「何事だ……!?」
・ ・ ・
背中を向ける敵など、案山子も同じだ。
以前、リアナが言っていた言葉が、俺の脳裏に甦る。
うっすらと雪が残る丘の上から、DMR-M2マークスマンライフル――風魔法による消音装置付きを、文字通り連続射撃するリアナは、装弾数20発を手早く撃ちきり、20人の敵兵の殺害した。
さすが優良射撃手であるマークスマンでもあるリアナ。全部ヘッドショット。敵じゃなくてよかったよ、本当に。
ひょっとして俺たちが行かなくても、彼女ひとりで全滅させられるのでは。
と、さすがにそこまで都合よくはいかなかった。大帝国の連中も、遅まきながら、動きを見せていた。まだリアナの位置を掴んでいないようだが、方向は特定しつつあるようで、その向きが変わりつつある。
もっとも、そのあいだに何人かが血祭りにあげられていたが。
ポータルポッドを投下、そのポータルを使って地上に降りた俺、ベルさん、リアナ、マルカス、サキリス、SS兵ら。ちなみに、マルカスはヴィジランティ装備、逆にリアナは銃を使用するための通常武装だ。
比較的近くにポッドを落としたのだが、敵の反応は鈍かった。リーレたちのほうに集中していたためだろう。一応、様子見に三人の敵兵が来たが、それらを瞬殺した俺たちは、早速行動を開始。
リアナに遠距離からの射撃を命じ、敵を減らしつつ、俺たちが、リーレと橿原を保護するという段取りだ。
さて、狙撃で数が減っている敵部隊だが、その動きは大きく二つに分かれた。新手に対応しようとする者たちと、リーレと橿原に向かおうとする者たちだ。
とりあえず、彼女らの正面にいる連中が邪魔だな。
「マルカス、重機関銃でリーレらの後ろの敵を攻撃しろ! 俺は前の奴らを一掃する。サキリスは、彼女たちのもとへ急行!」
『了解!』
「承知しましたわ!」
マルカスの操るヴィジランティがその場に止まると携帯するTHMG-1重機関銃を構え、引き金を引いた。
朝の空気を裂き、よく響いた銃声は注目を集めるに充分だった。リーレたちを追撃しようとした魔術師たちのそばに着弾する20ミリ弾。派手に土と雪を巻き上げたそれが、地面を縫うように走り、直撃した魔術師の身体を上下に引き裂いた。
航空機用の12.7ミリ弾だって、人体を引きちぎる威力があるのだ。それより大きい20ミリ弾を胴体に喰らえば、生き残るほうが奇跡だ。
断頭台の一撃にも似た凶弾が、魔術師らを狩る。魔法障壁で一撃を耐えた魔術師もいたが、二発、三発と連続して被弾すれば防ぎきれず、雪上にその肉片を散らせた。
マルカス機が後ろの敵を叩いている間に、俺はエアブーツの加速で、一挙に距離を詰めていた。俺の視界に入った敵兵が数人――クロスボウを構え、魔術師らも杖を持ち上げる。全部で13人か。
「遅い! エアブラスト!」
風の刃が吹き荒れ、敵兵たちを切り裂く。魔術師は、とっさに障壁を展開し難を逃れる。なかなか反応がいい。錬度の高い部隊かもしれないな。残り7人。
「だが、そんな正面だけを守る障壁でいいのかな?」
アーススパイク! 魔術師たちの足元の魔力を動員、岩の刃が下から突き上げ、敵を串刺しにした。
前面の敵は排除。ちらと視線をやれば、背中に翼を生やしたサキリスが、リーレと橿原のもとに駆けつけていた。負傷した橿原に治癒魔法を試みている。俺もそっちへ行くぞ。
「よう、ジン」
俺に気づいたリーレが不敵な笑みを浮かべた。相変わらずの様子だが――
「リーレ、お前、眼帯はどうした?」
「ああ? あー、そういや、どこやったかな。わかんね」
あっけらかんと言い放つ。
「昨日から追い掛け回されてたからな。もう無茶苦茶だよ。つか、ジン、お前らこそ、ここで何してるんだ?」
「なに、ちょっと大帝国へ行ってきた帰りさ」
俺は、橿原とサキリスのもとへ着き、膝をつく。
「傷の具合は?」
「よくありません、ご主人様」
サキリスが悲壮感を漂わせる。
「衰弱が激しく、治癒魔法を試みましたが、むしろ命を縮めてしまいそうです!」
「つまり、もう魔法じゃヤバイってことだな……」
そういう時のための非常薬。ストレージから、エルフの泉から汲んだ精霊の秘薬。
「これの半分を傷口に。残りは飲ませろ」
「はい!」
俺から秘薬を受け取ったサキリスは、橿原の背中に青く澄んだ薬をかけた。リーレが珍しく不安な表情を浮かべる。
「助かるのか?」
「まだ生きているならな。この秘薬で回復するよ」
「よかった……」
心の底からホッとしたのか、リーレはその場に座り込んだ。さすがの彼女もここでドッと疲労感が押し寄せてきたらしい。
本当、この場に俺たちが居合わせなかったら、異世界仲間が死んでるところだった。
周囲に気を配れば、すでに機関銃の銃声は聞こえず、敵の姿はなかった。
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