第490話、不死鳥の名を与えられしモノ
浮遊石。この青い物体は、魔力を通して命令を与えると、浮かび上がる代物だ。
それだけ聞くと、浮遊魔法と対して変わらない。だがこの巨大な魔石のような石が凄いのは、接触しているものを魔力を消費させることなく浮かばせる力を持つことと、飛行するために必要な抵抗を限りなくなくす効果があることだ。
それを航空機に載せたらどうなるのか?
効果は劇的だ。
あるとなしとでは、同じ出力のエンジンを載せてもスピードがまるで変わる。機体の重量と空気抵抗がほぼ無視された結果だろう。
ぶっちゃけ、ウェントゥスの空中艦艇や航空機には、この浮遊石が積まれている。そして大帝国の空中艦艇も。
さて、今回作ろうとする大型機は、観測機器を満載した長距離偵察機である。
その設計は、基本的に機械文明――テラ・フィデリティアの航空機を参考に再設計された。正直、浮遊石を載せるならどんな形でも問題ないが、いちおう形としては飛行機の体裁を整えておく。
構造計算や細部の作りなどは、テラ・フィデリティアの旗艦コアであるディアマンテが補正してくれるので、俺は外面と必要な能力、そして配置を行った。
画を描くのは得意でね。もっとも浮遊石にとってみれば形はどうでもいいらしいから、例えば巨大ウサギみたいな形でも飛ぶのだけど。
ウィリディス第三格納庫内で、魔力生成されたパーツが次々に生み出され、それを人工コアが組み上げていく。
まるで機械化された自動車工場でパーツをはめ込んでいくさまに似ている。違うのはメカニカルなアームはなく、パーツが勝手に浮いて、それぞれ収まるべき場所へはまり、接続されていくというところだ。
いかにも魔法、ファンタジーチック!
ダスカ氏は折り畳みの椅子に座り、その様子を見ながら苦笑していた。
「本当に、ダンジョンコアの力というのは凄まじいものがありますね」
誰もが欲しがるはずだ、と老魔術師は言うのである。ユナは首を横に振った。
「確かに欲しくはありますが、あそこまでコアの力を引き出すのは、お師匠でなければ不可能です」
「確かに。仮に私がダンジョンコアや人工コアを所有したとしても、こんなの思いつくはずがない!」
コクリとユナは頷いた。二人の視線を感じながら、俺は作業を続ける。ホログラフ状のパネルを操作するだけだけどな。
偵察機としながらも、同時に輸送機としての機能を持たせる。せっかくの大型機だ。色々使えるようにしようという考えだ。
一応、大帝国は空を飛ぶ兵器を持っているから、高高度で敵と遭遇しても対処できるようにしなければいけない。最低限の武装を施すが、基本は速度で振り切る形にしたい。あとは防御性能も。
防御装置、いわゆる
機体はかなり大型化した。長期での空中任務に備えてトイレや簡易キッチンも装備したためだ。
速度を制限すればほぼ無限の航続距離があるとはいえ、中の人間はそうはいかない。高高度での飛行に備え、与圧処置、外装や装備の凍結対策も行う。この辺りは、テラ・フィデリティア技術をそのまま応用。航空軍の名は伊達ではない。
長さと幅は40メートル越えの大型機である。
偵察特化なら、もう少し小さくできただろうけど、高高度から地上を撮影、観測したり、索敵用の機器や地図作成のための機材など色々載せることを考えると、余裕はあったほうがいい。
機体の外側が組み上がると次は内装に手をつける。待機していたSS整備員が、俺の指示に従い、魔力伝達線の配置や各種装備、機材を載せていく。
「ジン君」
ダスカ氏が俺を呼んだ。
「この航空機には、どんな名前をつけたんですか?」
「ポイニクス」
不死鳥、いわゆるフェニックスである。ポイニクスは確かギリシャ語だったと思う。
名前について、ちょっと思うところがあって、これまでのTF戦闘機シリーズも、頭文字が異なるものを選んでいたりする。
TF-1ファルケはF、TF-2ドラケンはD、TF-3トロヴァオンはT。略号で書いた時に分かりやすくするため、という考えで、今回の汎用偵察機もポイニクスでPとした。
フェニックスでもいいかな、と思ったんだけど、ファルケとちょっと響きが近いからなと敬遠した。
なお、不死鳥は、国によってPかFになる。フェニックスもPだが、Fで始まる国がいくつかあったと思う。
閑話休題。
カプリコーン軍港下のプチ世界樹の影響と、ウィリディスの豊富な魔力資源によって、大型の偵察機は、日を跨ぐことなく完成した。昔の個人魔力でコツコツやってたら、何日かかったかわかったものではない。
TR-1ポイニクス。
長距離偵察ならびに観測任務を行う専用の機体は、動作テストを行った後、搭載した機材の試験を行いながら実際に飛行する予定だ。
それが順調にいけば、近いうちにディグラートル大帝国本国、その帝都を直接偵察する!
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