第473話、サキュバスとは
サキュバス。夢魔とも言われ、女性型の悪魔である。
男を誘惑して、精気とかを搾り取ると言われる。サキュバスは女性型しかおらず、男性型はインキュバスという。
俺のいた世界では、ゲームや漫画の影響で若い世代ほど知っている率が高くなる有名な悪魔、もしくは淫魔である。
ヴェリラルド王国の王都にサキュバスがね。へぇ……。
俺の頭によぎるものがあった。あの人が確か……。それとは別にうちのメイドが何かしてないだろうな、と思った。まったく無関係だろうけど。
ヴォード氏を見送った後、屋敷を進む俺はリビングで休憩。スライムソファーに座る俺の隣にアーリィーがやってくる。
「ねえ、ジン。サキュバスってどんな悪魔?」
「夜中に男のベッドにやってきて、エッチなことをする女の悪魔」
「エッチなこと……? 悪魔が?」
「ああ、男の精を奪う。サキュバスに馬乗りされて、行為を続けていると、男は次第に衰弱して、最悪死ぬ」
死ぬ、と聞いて、アーリィーが青ざめる。
「でも悪魔なんだよね?」
「とても魅力的な姿で現れるからだ。例えば、その男が理想とする女性の姿でやってくる。しかも真夜中で寝ぼけている間や寝ている間に仕掛けてくるから、悪魔と気づかずにやってしまうわけだ」
「ジンは、サキュバスに会ったことはあるの?」
「うーん、理想の女性という形で言うなら、君と言うサキュバスには会ったかな」
俺はアーリィーを抱きかかえるように手を伸ばし、太ももの上に馬乗りにさせた。
「君がサキュバスだったら、たぶん俺は逆らえない」
「もう、ジンったら……」
くすぐったそうに苦笑するアーリィー。
でもまあ、実際、サキュバスの誘惑を振り払うのは難しいだろうな……。俺はぼんやり思った。
・ ・ ・
翌日のアクティス魔法騎士学校で、ひとつの騒ぎが起きた。
生徒のひとりが体調不良を訴え、医務室に収容されたのだ。何故か、俺が呼び出された。
クラスの担当教官であるラソン教官と共に、俺とベルさんは学校の医務室へと赴いた。
「二年の生徒なんだがね。……ちょっと狂乱状態なんだ」
困った顔で言うラソン教官。二年のクラスを受け持つ教官と医務室担当官も同様だ。
問題の生徒はベッドに拘束されていた。ジタバタともがき、目を血走らせ、『グリグ! グリグをくれッ!!』と嗄らした声を上げ続けていた。
「……なんで、俺とベルさんを呼んだんです? 教官殿」
俺が問うと、ラソン教官は肩をすくめた。
「冒険者でもある君なら、知っているかも、と思ってね」
「……」
「ガルガンタ系薬物を過剰摂取して、中毒を起こした症状に見える」
医療室担当官は言った。
「ガルガンタ?」
「禁止薬物だよ。快感を与える一方、心と身体を蝕んで廃人にしてしまう薬だ。国から禁止物に指定されている」
「ではそのガルガンタを、この生徒が?」
「その可能性はあるが……。先ほどからこの生徒が口にしている『グリグ』とは何だ?」
医務室担当官が言えば、ラソン教官たちは首を横に振った。
あれ? 冒険者ギルドでは知られていたようだけど、こっちにはその情報がない?
「昨日、冒険者ギルドのギルマスから聞いたんですが、グリグというのは薬物らしいですよ。最近、それ絡みの事件が王都で起きているとか」
「薬物か! だとするとそのグリグというのは、ガルガンタと同じく危険薬物では……!」
担当官が声をあげた。
「この生徒の部屋と荷物を調べるべきでは?」
俺は教官たちを見回した。
「そのグリグとやらがあるなら押収すべきです。あと他の生徒たちに、そういう危険薬物が出回っていることを報せるべきかと」
「ああ、知らずに使って、他にも倒れる奴が出たら事だもんな」
ベルさんが同意した。ラソン教官は頷いた。
「うむ、情報をありがとうジン君。さすがは現役冒険者だ! ――私は学校長に伝えてくる。君たちはこの生徒の部屋を」
「わかりました」
教官たちが医務室から足早に出て行った。残ったのは俺とベルさん、そしてベッドでのたうつ生徒とそれを見守る医務室担当官。
「どうするべきだと思う? ベルさん」
「オレに聞くなよ」
とりあえず、睡眠魔法で生徒を眠らせる。薬物中毒ってのは治癒魔法でどうにかなるものなのかねぇ……?
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