第469話、パワードスーツを作ろう
魔法甲冑についてをまとめる。
エルフの職人ガエアは、同甲冑をあくまで高速移動能力を持たせたプレートアーマーと考えていた。
一方のジャルジーは、ただの突撃重騎士としてではなく、もう一段階上の、武術大会で暴れまわったマッドハンターのような戦闘力を持った兵器として魔法甲冑を求めた。
それが一号型魔法甲冑に対する両者の反応の違いだ。
うちの軍事顧問であるリアナは、ジャルジーが求めているものを指摘した。
一段上の戦闘兵器――つまり、重騎士でさえ単独では圧倒的不利な魔獣と互角以上に渡り合える性能を求めている、と。
要するに――
「オーガと一騎討ちできるようにしたい、ということだな」
「そういうことでしたか……」
ガエアは顎に手を当て考える。
「承知しました。必要な能力を割り出し、素材や構成を考え直してみます」
「よろしく頼む」
意思の疎通って大事だね、ほんと。
結果的にガエアの仕事を増やしてしまったようで、少々複雑な気分だ。
「何か悪いな、ほんと」
「いえ、ジン師匠。公爵閣下が何を求めている理解できたので、難しくはありますが、挑戦していきたいと思います」
オーガ相手とは我ながら大きなことを言ったな。だいたい高さが2メートルから3メートルほどの巨躯を持ち、その腕力は木すらなぎ倒す。一般的なプレートアーマーですら一撃で潰すような相手を想定とか、うーん……。いっそ近接戦は捨てたほうがよくないか、とも思った。
「しかし、魔人機の道はほど遠いな」
俺が率直な感想を言えば、ジャルジーは頷いた。
「そうなんだ。いきなり、あれと同じものを作れ、というのは無理がある。……そういえば、ルーガナ領の前の領主が、魔人機を手に入れていた」
……反乱軍鎮圧の茶番劇をしようとしたら、手違いで返り討ちにあったんだっけか、公爵様は。
「大帝国に繋がっていたやつな」
「あれが残っていれば見本にできたんだが」
「悪いな、動いていたのは壊しちまった」
「兄貴が……。ああ、そうだったな。反乱軍を鎮圧したのは、アーリィーと兄貴たちだった」
やや首を傾げつつ、ジャルジーは言った。……アーリィーに関して記憶を操作したせいで、彼の中でしっくりきていないのかもしれない。
しかし、どうしたものか。ウェントゥス地下基地や、カプリコーン軍港にいけば、魔人機があるんだよな。そろそろ、ヴェリラルド王国の王族らに、その存在を教えるべきだろうか? 彼らを巻き込んで、国に魔人機を製造……できるかなぁ。
魔法甲冑工房の体たらくを見ると、どうもまだ早い気がしないでもない。あ、そういえば――
「王都の地下から発掘された、白い魔人機はどうなったんだ? ヴェリラルド王国にとって国宝級の、伝説の巨人とか何とか」
俺たちが見つけたけど、王国に没収されたやつがあった。
「あれな。解析は進められているが、何故か動かせん」
ジャルジーは即答した。どうやら魔人機開発に関係して、白い魔人機のこともきちんと調べて、その頭に入っているようだ。
「正直、手本とするにはわからないことだらけだ。そもそも動かないのであれば、仕組みの推測すらできん」
それはそれは……。大帝国の魔人機をもとに、俺たちは独自に作り上げたけど、伝説の魔人機さんは、それらとは大きく異なるもののようだ。
「何なら、うちで調べようか?」
「そうだな。兄貴のところは機械兵器もあるし、魔法方面も兄貴ほどのスペシャリストもいないだろう。親父殿に相談しておこう」
ジャルジーはあっさりと言った。
「昨今の大帝国の動きを見れば、我々にも魔人機は必要となるだろうからな」
……すまんなジャルジー。魔人機ならもうあるんだ。
その辺りのことも含めて、仲間たちに相談しておこう。
・ ・ ・
ウィリディスに戻り、さっそく相談となるわけだが、その前にリアナが提案してきた。
パワードスーツないし、人型の機械歩兵が必要と訴えた。
「というより、わたしは元の世界ではそちらが専門でした」
狙撃ができて、戦闘機も操れて、ロボット兵器のパイロットだった、と。……いやはや君、スペック高すぎないかね。特殊部隊ってのは敵地潜入して何でもやるようなところだったのかねぇ。
17歳という普通に軍人としてありえない年頃。強化人間だからと、幼少の頃から軍で作られた存在らしいリアナではあるが――どう考えてもよろしくない環境だったんだろうとお察しする。
魔人機はあると言ったら、魔力のない人間でも使えるものが必要と力説された。
結果、俺、ベルさん、アーリィー、マルカスは、リアナの人型兵器必要論を聞くことになった。
「最大の理由を挙げれば、工場視察でジャルジー公に説明したとおり、オーガや大型魔獣に対した際の交戦能力の向上にある」
航空機の支援が望めない状況下で、歩兵が持つ武器で対抗できない場合に備えるのである。ぽん、とアーリィーが手を叩いた。
「確かに、オーガとかが出てきた時に、毎回戦闘機を呼ぶわけにもいかないよね」
「室内だったら、いくらトロヴァオンでも掩護できないもんなぁ」
マルカスも同意した。リアナは、とうとうと続けた。
「一人で持ち運べない重装備を単独で持ち運び、運用できるメリットがある」
「重いものを運べるというのは認める」
俺は、機械人形のように微動だにしない少女軍曹を見た。
「だが、重火器の使用というのであれば、人型でなくても戦車やその他車両でもいいのではないかな?」
重機関銃や携帯弾数が少ないミサイルランチャーを運ぶより、戦車砲をもった戦車なら火力も上ではないか。
「お言葉ですが団長。人型兵器は、車両などが進入できない地形への進出が可能です。また車両では対応できない起伏が激しい地形での位置取りが可能になる点も見逃せません」
もっともではあるが、それは人型兵器の大きさや重量にもよるから、現状何とも言えないな。
「いいじゃないか、ジンよ」
黒猫姿のベルさんが首を捻った。
「人型の兵器って、要するにゴーレムみたいなもんだろ? そりゃ場所は選ぶけど、使えると思うぜ?」
「まあ、そうだな」
青藍などのバトルゴーレムもそれなりに活躍してくれている。戦場にいると自然と頭数に入れているしな。
作るのは俺なんだろうけど……。バトルゴーレムの有人機仕様として作ってみるか。
それに、大帝国では、魔人機を使う前にゴーレムの大量投入した戦術をやっていたな。対抗する意味でも無駄にはならないだろう。
「わかった。パワードスーツを作ってみよう」
もちろん、要検討ではあるのだが。
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