第447話、炎の殺戮者


 女王の執務室を出た後、俺たちは早速行動に出た。


 まず、ヴィルヤの防衛強化だが、ユナとサキリスを残し、ウィリディスからポータルを繋いでバトルゴーレムの青藍と深紅、さらにスクワイアゴーレム三体とガードゴーレムを一〇体、シェイプシフター兵を二個小隊、運び込む。


 クリスタルイーターが侵入してきた際、彼女たちとゴーレム部隊は、現地守備隊と共闘する。水晶喰いどもがこなければ、結界が働いて安全ではあるが。


 そして俺、ベルさん、アーリィー、マルカスは魔法装甲車デゼルトに乗って、一度ヴィルヤを出る。


 敵がグリフォンを使うなら、こちらも航空兵力で対抗する。まあ、結界さえ守られれば、グリフォンとて入らないから、保険みたいなものだけど。こちらも結界は通れないだろうから、戦闘機は、世界樹の外だな。


 結界の外で、敵にウロウロされ続けても困るから、叩き落とせる戦力はあってもいいだろう。


 エルフたちに、戦闘機を見られるにしても、近くであまりジロジロと観察されたくないし。


 兵力は戦闘機2個中隊。正直、グリフォンがどれだけ来るかわからないから、これで少ないのか、それとも多いのか判断がつかない。まあ、足りないよりはいいんじゃないかな。


 さらにTH-1ワスプ戦闘ヘリを6機――うち3機は強襲兵輸送コンテナを搭載して、SS兵合計30名(1個小隊)を運ぶ。


 エルフ軍の主力を支援する際に、歩兵が必要になるかもしれないからな。あるいは、結界の外で立ち往生している連中の背後を強襲する使い方もできるかもしれない。


 というわけで、俺はエルフ街道をデゼルトで爆走中であった。専用席のベルさんが声を張り上げた。


「なんで、森の外へ行こうとするんだ!?」

「航空機用のポータルを作るためだよ!」


 戦闘機やコンテナ付きワスプを通すとなると、ポータルのサイズも大きくなる。


「ヴィルヤは結界があるからな。外から入らないが、中からも出れないんじゃ、意味ないでしょ!」


 一応、ヴィルヤの枝葉のドーム内の南側に航空機が通過できる隙間があるのだが、飛行しながらポータルくぐった先が屋内というのは、あまりよろしくないのだ。


 同様の理由で古代樹が群生する森の中も不可。滑走路にもなりそうなエルフ街道は開けているものの、さすがに道の真ん中にポータルを置くと、よそ者や動物が中に入っても困る。


 そんなわけで、古代樹の森の外へと向かっているのだ。



  ・  ・  ・



 古代樹の森の南に位置するエルフ集落のひとつ、アング。


 この村はツリーハウスでなく、よくある木造家屋が立ち並んでいた。そこではヴィルヤから派遣された兵たちがきて、青エルフの襲撃に備えて、住民の避難を誘導していた。


 だが遅かった。


 すぐそこまで、ダークエルフたちは迫っていたのである。


 ダークエルフ第一遊撃隊隊長、クルータンは、薄青肌に銀髪の男である。


 背は高く、しかしエルフにしてはふくよかな体格だ。尖った耳はエルフ特有のそれだが、その凶相とあいまって悪魔のように見える。


 実際、エルフに対してクルータンは悪魔だった。カラン集落では、老いも若きも、男も女も関係なく殺した。


 エルフ討つべし! 青肌のダークエルフを迫害した下等なエルフどもに、正義の鉄槌を下さん!


「隊長、見えました! エルフの集落」


 叫ぶように報告した。クルータンは唇の端を歪める。


「ようやく着いたか」


 ふてぶてしく言い放ったクルータンの目に、エルフの軍を表す、緑地に鹿の紋章が描かれた軍旗とその軍勢が見えた。


「おや、さすがに連中も守備隊を置いたか?」


 すでにエルフの里、近辺の集落の半分以上が陥落したのだ。間抜けなエルフでも、こちらの襲撃を知らせる時間はあったかもしれない。


「まあ、どうせ、皆殺しだけどな」


 クルータンは攻撃命令を下した。


「火攻めだ! 包囲して焼き討ちだ!」


 クルータンの目が爛々と輝く。


 木を燃やされるとエルフは発狂する。奴らには慌てふためいてもらおうか。


「突撃! ドンドン燃やそうぜぇ!」


 傍らにいた信号兵が角笛を鳴らした。その音を聞いたダークエルフたちは、ただちに矢に着火、アング集落に火矢を放った。

 と、村からも矢が飛んできて、ダークエルフ弓兵が何人か撃たれた。


「ふむ、奴らもこっちに気づいていたか」


 まあ、そうだよな、とクルータンは鼻で笑う。


「だが、こちらに抵抗できる戦士がどれだけいるんだっての!」


 アング村にとっては、まさに多勢に無勢だった。


 エルフの戦士たちはよく戦った。だがそこまでだった。


 アング村に雪崩れ込むダークエルフたち。逃げまどうエルフたちは掃討し、家屋は炎に囲まれた。


 エルフどもの断末魔が真に心地よく、ダークエルフたちは一方的に住民を狩っていった。


 クルータンは踵を返すと、森の中で待つ部下たちのもとへ戻った。そこにはダークエルフの他に、グリフォンが無数に待機していた。


「さて、愚かなくそエルフどもが焼き上がった! 次の仕事と取り掛かるぞ。ヴィルヤに向かい、残るエルフを皆殺しにするんだ!」

「オオッー!!」


 部下たちが腕を振り上げた。グリフォンも、それに刺激を受けたか羽根を動かし、咆哮した。


 さすがに百ものグリフォンともなると、手狭に感じる。しかもうるさい。


 しかし、クルータンは耳を押さえつつも、獰猛なる空の魔獣たちを満足げに見やると、自身の愛馬、いやグリフォンの背に飛び乗った。


「いざ行かん! ヴィルヤへ!」


 グリフォンと、それに騎乗するダークエルフ戦士たち。次々と森から空へと飛び上がる。


 狂気を胸に、死を運ぶ死者として。

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