第444話、再会と会談
エルフの魔術師ヴォル、そしてアリンの案内で光の精霊宮の奥へ。
てっきり女王の間に通されるかと思ったのだが、着いた先は意外にも女王の執務室だった。
警備の騎士が守る扉をくぐり、俺、ベルさんと仲間たちが中に入る。
大きな窓からヴィルヤの景色が見える室内。白く輝く木の執務机の向こうに、エルフの里を治める女王がいた。
その名はカレン。薄い緑色のローブを纏うは、美しく床に届くほどの長い金色の髪にエメラルド色の瞳を持つ絶世の美女。女性に年齢を尋ねるのはマナー違反だから聞かないが、ウン百年は生きていると思う。
「ようこそ、ジン殿、そしてベル様」
カレン女王陛下は透き通るような声で、優しく俺たちを迎えてくれた。ひざまずく間もなく、応接用のソファーに座るように促される。
「歓迎痛み入ります、女王陛下」
「こちらこそ。わたくしの呼びかけに応じてくださり、感謝いたします、ジン殿。そしてベル様」
「様って言われるのはむず痒いな、エルフの女王」
ソファーに飛び乗った黒猫。しかしその声はいつにも増して威厳たっぷりだった。
「さん付けでいい。そっちのが気に入っている」
扉近くで控えていたアリンなどは、ベルさんの言い分に驚いていたが、当のカレン女王は朗らかな笑みで答えた。
「わかりました、ベルさん」
一女王に面と向かってそう言えるのは、ベルさんが魔王だから、なのだろうな……。俺は知っているが、他の面々は面食らうだろう。
仲間たちの紹介を兼ねて、俺は女王にアーリィーを紹介した。――ヴェリラルド王家のお姫様で、俺の嫁です。
「はじめまして、女王陛下」
アーリィーは淑女の礼をとった。スカートではないが、仕草はそれである。信じられるかい? 少し前まで王子様だったんだぜ。
ユナ、マルカス、サキリスをひとりずつ紹介。俺、ベルさん、アーリィーはソファーに座ったが、残りの三名は座るのを辞退し、俺たちの後ろに控えた。
紹介の間、給仕が飲み物を用意してくれた。……おそろしく味の濃いお茶だった。何て名前なんだろ、これ。
「和やかに会話ができればよかったのですが、お二人をお呼びした件について、早速話し合いたいと思います」
温厚な女王陛下の表情が曇った。
「アリンからは聞いていますね? わたくしが先読みの力で、エルフの里の滅亡を見たことを」
「外部の力が介入することで、予言を覆そうとする。ええ、聞きました」
俺は頷いた。
「里に滅亡をもたらすのは、青い肌のダークエルフ……」
「カランの集落が襲われたこと、まことに痛ましいことですが――」
カレン女王は目を伏せた。
「彼らの仕業というのであれば、滅亡の未来も現実味が増します。まだ攻撃は続くでしょう。里の各集落に使いを出し、警戒と防衛の準備を命じてあります」
「女王陛下」
控えていた魔術師のヴォルが口を開いた。
「発言をお許しいただきたい」
「どうぞ」
「敵がダークエルフだとわかりましたが、はたして奴らに里を全滅させることができるのでしょうか? 他の集落は危険ではありますが、ヴィルヤには結界がございますし、奴らとて簡単に手出しはできますまい」
「では、わたくしの先読みの力が間違っている、と……?」
「いえ、そうは申しませんが……」
ヴォルは恐縮して頭を垂れる。俺は言った。
「つまり、予言を信じるなら、青肌エルフはヴィルヤの結界を破る方法を持っている、と」
「そんな馬鹿な……」
ヴォルとアリンは顔を見合わせる。カレン女王はすっと目を見開いた。
「信じたくはありませんが、そう考えるのが妥当でしょう。過信は禁物です」
その時、扉がノックされた。女王が返事をすると、扉が開き、文官らしいエルフが駆け込んできた。
「お取り込み中、失礼します女王陛下。外縁の集落が二つ、ダークエルフの襲撃を受けた模様です。敵の襲撃を逃れた者たちが、ヴィルヤに逃げて参りました」
・ ・ ・
襲われた二つの集落から逃げてきた者たちによれば、敵は青色肌のダークエルフの戦闘集団だったと言う。
その襲撃で集落のエルフたちが殺されるか捕まったらしい。命からがら逃げられたエルフたちの表情は一様に重苦しく、思い詰めていた。
生き別れた家族の安否か、はたまた死の恐怖か。
なんともおぞましく、ショッキングな話である。カラン集落が青色エルフによる皆殺しを受けたことをみれば、彼らが捕虜としたエルフを処刑するのに何の躊躇いもないだろう。
少なくとも交渉が通用する相手ではない。青色エルフは畜生の集まりである。
「徹底抗戦しかありますまい」
光の精霊宮の会議室では、女王と重鎮たちが集まり、青色エルフへの対策が協議されていた。
「奴らは我らの絶滅を目的にしている。ここは断固戦い、むしろ奴らを根絶やしにしなければ、悲劇は繰り返されるであろう!」
重鎮らの意見は一致をみた。
「森の他の集落にも危機が迫っております。全員、ヴィルヤに退避させるべきですな」
「左様。このままでは各個に
「伝令を。すぐに里にエルフを集めるのだ」
そうだそうだ、とこちらも意見がまとまる。
しかし――と、ひとりのエルフは言った。
「ここヴィルヤも、戦場になってしまうな。……万が一、守りが破られるようなことは――」
「縁起でもないことを申されるな!」
隣に座る重臣が言う。
「ヴィルヤの結界は、ダークエルフどもにも破ることはできない」
「しかしここに籠城するとして、その後は? こちらに援軍はないぞ」
「エルフの集落はここだけではない。遠方にはなるが同胞に救援を頼むこともできよう」
「……使者を送るなら、早いほうがよくありませんか?」
「そうだな」
会議は進んだが、重苦しかった。新たな敵の襲来と、そのあまりに残忍なやり口は、以前あったオーク軍団の襲来を、彼らに思い起こさせた。
あの時も、同胞に犠牲者が多く出た。里の危機であった。
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