第420話、ダンジョンの罠
俺たちは再び、巨大ゴリラ・ゴーレムが待ち構える部屋に戻った。やつは例の動力装置っぽいものの前にいて、俺たちを確認すると重々しい足音をフロアに響かせた。
「アーリィー、手筈どおりだ。チャージショット。ただし後ろにはそらすなよ!」
「うん!」
新型魔法銃ディフェンダーから、迸る光の一撃。ガーズィらSS兵も魔法銃を巨大ゴーレムに撃ちこんだが、予想通りというべきか、すべて装甲に弾かれた。
「効果なし!」
ガードゴーレムもそうだったが、電撃弾が効かないから電気も通さないのだろうな。バインド系でも電撃はおそらく無効。
巨大ゴーレムが距離を詰めてくる。マルカスがゴクリと唾を飲み込んだ。本来味方の盾として前衛を務める彼だが、あのゴーレムの鉄腕を防ぐのは自殺行為である。
「アーリィー、ディフェンダーはもういい。ユナ、サキリスと共に、拘束魔法!」
「はい、お師匠!」
「お任せくださいませ!」
魔力の鎖による巨大ゴーレムへの拘束。それらが腕や胴、足に絡まるが、その歩みをわずかながら遅くする程度だった。やはり、パワーが違う。
「ボクも掩護するよ!」
アーリィーが拘束系魔法を使って、ユナたちに加勢する。巨大ゴーレムの動きがさらに遅くなるが……止まらない。
だが、充分だ。俺はスフェラを一瞥した。
「準備は?」
「すでに展開済みです」
「では、始めろ」
俺の合図に、スフェラは手にした杖を振った。すると巨大ゴーレムのまわりに展開していた水溜りのような形をしたシェイプシフターたちが、一斉にゴーレムに飛び掛った。
巨大ゴーレムの視界から上手く逃れていた黒いスライムたちは、巨大ゴーレムの足、膝、股関節にガム状になってくっついた。そして身体の一部を装甲の隙間にもぐりこませるとその魔力の流れ、身体を動かす神経に相当する部位を浸食、切断にかかった。
するとどうなったか?
ゴリラ型ゴーレムは関節から動かなくなり、そのまま床に激突する勢いで突っ伏した。その間にシェイプシフターたちは腰や腕に取りつき、侵入を果たすとやはりその魔力の流れを内側から分断させていった。
動けなくなったゴーレムを見やり、ベルさんが息をついた。
「案外、あっけなかったな」
「ゴーレムの身体の動きを支えているのは魔力だ。それを断ち切れば大きさなんて関係ない」
無力なゴーレムを尻目に、俺はフロアを横断し、奥にある装置じみた柱へと歩む。ベルさんとマルカスもついてくる。
「ここではおれは何もできなかった」
どこか悔しげな様子のマルカス。するとベルさんが笑った。
「気にするなよ。それを言ったら、オレ様も今回は何もしてないぞ」
相性が悪かったんだ。仕方ないよ。
さて――俺は、その柱を見上げる。強い魔力を感じる。この柱の中に、ダンジョンコアがあるのかもしれない。何やら魔力が中で動いているらしく、軽くブーンという駆動音が耳についた。
「で、こいつは何だ?」
そう言いながら、ベルさんが首を振った。
「おい、ジン、気をつけろ。この柱、防御魔法が発動してるぞ」
「……ちゃんと防御していたわけか」
ゴリラゴーレムとの戦闘で流れ弾が当たって――なんて事態はこのダンジョンを作った人間は想定済みだったわけだ。俺の取り越し苦労だったということだな。
ともあれ、この防御魔法は厄介だな。確か、ストレージにマントゥルのところで回収した槍が――
『シンニュウシャノ、ハイジョ、失敗……』
ゴーレムのときと同じ機械的音声が響いた。さっきの声は、こっちからだったか?
『ジバク装置、作動。ジバクマデ、ノコリ1分――』
「じばく……って自爆だと!?」
おいおい、なんだそれ。ボス倒したらダンジョン崩壊ってやつですか? そういうのはお宝とかに触れてからじゃないのか? ……とか言ってる場合じゃないな。
「ジン!」
アーリィーが叫び、サキリスも声を張り上げた。
「ここが崩れるのですか!?」
「吹き飛ぶの間違いだろう!」
「逃げないと!」
「1分で? 間に合うわけ――ああ、そうか」
俺は、ポータルを使うことを思い出した。これならこのダンジョンの外、ウィリディスの屋敷へと戻れる。1分もあれば余裕で……ダメだ!
気づいてしまった。ウィリディスの屋敷は駄目だ。逃げるなら他の場所ではないと――
「どうしたんだ、ジン!?」
俺の様子に気づいたベルさんが声を荒げた。俺はストレージから、魔断の槍――天才魔術師マントゥルの廃城で手に入れた魔法の槍を取り出す。
ポータルも一応展開。行き先は王都の冒険者ギルド。
「皆は念のため、ギルドへ退避してくれ! マルカス、お前何もしていないって言ったな? じゃあ、俺に付き合え!」
「お、おう!」
――ノコリ、30秒。
「ジン! 逃げないの!?」
アーリィーが駆けてくる。他の者たちも、俺のそばにあるポータルへと近づく。俺は魔断の槍をマルカスに押し付けながら言った。
「このダンジョンには大量の魔石が保管されてるって言ったな? このダンジョンが自爆するってことは、その爆発によって保管された魔石が誘爆現象を起こして、この森一帯、つまりウィリディスは全部吹っ飛ぶ!」
この大自然も、せっかく作った屋敷も全部だ。
「!?」
「おいおい、ジン、そいつは飛躍しすぎじゃねえか!?」
ベルさんが咆えた。
「いくら魔石だからって全部が全部、誘爆するわけじゃねーだろ!?」
「魔石をしこたま集めて、ガーディアンが壊れたらさっさと自爆するように設計した奴が、魔石を残すようなマネをすると思うか?」
侵入者に渡すくらいなら全部吹き飛ばす。俺ならそうするね!
「マルカス、その槍をその柱に刺せ。いや防御魔法さえ切断してくれればいいから、刺さなくてもいい――」
「どうするんだ?」
「おそらくこの柱がダンジョンコアで、自爆のための起爆装置だ」
解体? そんな暇はないだろう! だから――
俺はストレージにまたも手を突っ込み、とある杖を取り出した。黒いオーブのはめ込まれた長さ1メートルほどの杖。平凡な見た目に反して、恐るべき超兵器。
――10秒マエ……。
「うっさい! どこかへフッ飛べ!」
俺は杖の先を巨大柱に当てる。魔法陣展開、高さは20メートルくらいか? 構うもんか吹っ飛ばせ。
次の瞬間、耳障りな機械音声とともに柱が消えた。跡形もなく。
「えっと……終わったのですか?」
ユナが拍子抜けしたように目を丸くする。俺は杖――どこへ飛ばされるかまったくわからず、生還することもない魔法を発動する偉大なる失敗作こと、転移の杖を保持したまま、ゆっくりと振り返った。
「たぶん、な。……マルカス、もう槍は下ろしていいぞ」
槍を構えたままのクラスメイトの騎士生に告げる。槍を柱に刺していたら、こいつも一緒に転移していたかもな。危ない危ない。
「なんか、よくわからないうちに終わったな」
マルカスが溜めてきた息を吐きながら言った。俺はその場に座り込んだ。
「とてつもなく凝縮した1分だったよ」
まったく。いつの間にか浮かんでいた額の汗を拭い、俺も一息ついた。
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