第418話、ダンジョン探索中
奇妙なゴーレムに俺が呆れる横で、マルカスや盾持ちのシェイプシフター兵が前に出た。
だが、相手のパワーを想像すると、壁役をするのは少々無謀だと思う。
「サキリス、ユナ。ゴーレムの動きを止められるかな?」
「倒してしまっても?」
ユナが問う間に、サキリスは「お任せください!」と答え、呪文を詠唱。途端にゴーレムたちの足を魔力の枷が絡まり、何体かを転倒させた。
サキリスは回答をみせた。一方で――
「ユナ?」
「……やれます」
途端に、サキリスの倍以上の魔法の鎖を具現化させ、残るゴーレムたちを拘束。さらにその弱点であるコアを狙いやすいように、腕などを鎖で引き離した。……腕と肩、離れているのに魔力でしっかり固定されてるんだな。
ゴーレムの腕が鎖でもげないのを見て、俺は思った。
弱点があらためて丸見えとなったので、アーリィーやSS兵たちが電撃弾を撃って仕留めていく。
入り口フロアの敵は一掃できた。コアを失ったゴーレムは、たちまちパーツごとにバラけて床に転がる。
構成する金属以外、回収できそうな目ぼしいものはないな。しかし、何でできているんだろう。
「ベルさんは、今日は戦わないのかい?」
黒猫姿の相棒に問う。
「人形以外が出て来たら戦うさ」
俺たちは、入り口正面フロアを抜け、細長い通路を進む。
だだっ広い空間に出た。しかし特に何かあるわけでもないそこを抜けると、右手方向に下へと伸びていく階段を発見。その階段は相当長い。
SS兵を先導させ、待ち伏せや罠を警戒しながら階段を降りていく。
階段の先は、これまた大きなフロア。高さは10メートルほど、長方形の室内はさながら体育館のようなスペースが広がっている。
なんだろうな。俺は何やら胸騒ぎがした。このダンジョンの部屋割りを見ると、神殿や何らかの建物と言える人工的な作りなのだが、先ほどから広い部屋と通路の繰り返し。
果たしてこの広い部屋はなんだ? 何かの設備があるとかならまだ話はわかるが、何も置いていないし、ただ平坦な床があるのみだ。倉庫にしては何もないし、集会場、それか本当に運動場とでもいうのか。……ああ、ほんと、気持ち悪い。
「全員、警戒。ユナ、サキリス、防御魔法の用意」
「お師匠、トラップ部屋ですか?」
「あまりに何もないのが逆に怪しい」
俺はガーズィに命じてSS兵たちを数人、先に行くように指示を出す。マルカスが盾を構えながら俺を見た。
「さっきも広い部屋を通ったが、何もなかったよな?」
「だからと言って、今後も何もないとは言い切れない」
何もないならないでいいんだ。ベルさんが口を開いた。
「ダンジョン探索はな、臆病なくらいがちょうどいいんだよ」
そもそも俺のような意地悪な人間なら、最初は何もないで油断させた後にトラップゾーンを設置するね。
ああ、くそ。部屋の真ん中はあまり進みたくないが、壁沿いを行ったら壁から何か仕掛けが発動して罠にはまる、なんてのも嫌だな。
先導兵が部屋を半分ほど横断した時、ガタンと天井近くの壁が開いた。次の瞬間、つぶてが飛んで来た。いや、つぶてというより岩の塊が四方から飛んで来た。SS兵らがとっさに反応するが、被弾した二体ほどが吹っ飛んだ。
「なっ――!?」
アーリィーが驚くが、対して見守っていたスフェラは冷静だった。
「あの程度でシェイプシフターは死にません。ご心配なく」
物理耐性の高さはスライムなどと同様だ。何せ身体の形を自由に成形できるのだから、骨折などとは無縁である。岩の塊が直撃したら、普通は即死ものだ。
ユナとサキリスが、防御魔法を発動させる。マルカスと盾持ちのSS兵が周りに展開、スフェラもまた、漆黒の壁――おそらくシェイプシフター体を出現させた。
マルカスが声を張り上げた。
「正面、ゴーレムが来るぞ!」
岩塊を喰らったらほぼ死亡か瀕死。そこでゴーレムがトドメを刺すという戦術だろう。のしのしとやってくる複数のゴーレム。
先ほどから見ていると岩塊は射線がほぼ固定されているから、一度当たらなければ無視してもいい。
冷静に、先ほどまでと同じように、ゴーレムが接近する前に射撃する。アーリィーのディフェンダー、ユナやサキリスも電撃や氷魔法でゴーレムを狙い撃つ。
先頭のゴーレムがコアを貫かれて崩れる。だが後続はその金属の腕を盾にして、魔法からコアを守る。
「さすがに硬いですね、お師匠」
ユナが攻撃魔法の効きの悪いゴーレムを睨む。その間にも着実にゴーレムどもは歩みを変えず迫っている。サキリスが歯噛みした。
「前の個体が壁になって後ろのが見えませんわ! 飛行すれば見えるでしょうが、迂闊に飛ぶとつぶてが飛んできますし……」
「近接戦を挑むか!?」
マルカスが言った。ゴーレムと殴り合うのは遠慮したいが、そうも言ってられないか。
「ベルさん、どうだ?」
「ああ、魔力の線が見えるな。あれに引っかかると周りから岩つぶてが飛んでくるみたいだ」
「このフロアに来た時から出てたか?」
「いんや。魔力眼で見えるようになったのは、シェイプシフターが部屋の中央に到達したあたりからだな」
ふむ、なら魔力を見ることができれば、岩の罠は回避できるわけだ。よしよし――
「じゃあ、ちょっとあのゴーレムたちを始末してくるから、お前たちはここで待機な」
俺は飛び出した。後ろで女子たちの声が聞こえた気がしたが、まあいいか。
接近するゴーレムどもに近づく。歩きだったゴーレムは俺を見て走り出した。そのまま力任せにぶん殴ろうというのだろうが、お前たちの土俵の上で戦うつもりはないぞ。
指先に魔力を集中、それをゴーレム――下半身の支えなく浮いている上半身、その間にナイフで切るように指を動かす。
すると、ゴーレムの上半身が下半身から滑り落ち、床に激突した。その重い体は床にヒビを入れる。
身体の上下、手足が繋がっていないように見えて、実際は魔力がそれぞれの部位に接続されている。だから、この接続に使っている魔力を操作してやると、途端に身体を維持できず、その部位は脱落する。
宙に筆を振るうように指を動かし、ゴーレムをまず上下で分断。コアとの接続が切れた下半身は勝手に止まる。あとは上半身の腕を同じ要領で切り離してやれば、もはやどうすることもできない。
積み上げられていくゴーレムどもの残骸。敵の無力化を確認し、俺は仲間たちに振り返った。
「もういいぞ。魔力眼が使える者は、トラップに掛からないように先導すること」
ベルさんがトコトコと俺のもとにきて、他の者たちもその後についてきた。
「楽勝?」
「楽勝」
俺が答えれば、ユナがそばまで来て立ち止まった。
「お見事でした、お師匠。目から鱗でした。そのやり方があったのか、と」
「まったくですわ、ご主人様」
サキリスが頷きながら、ベルさんの後に続くとマルカスも苦笑していた。アーリィーは「ジンだからね」とどこか嬉しそうだった。
「あのゴーレムは魔力で身体を繋げていたタイプだからな」
俺は、ゴーレムの構造に関しては少しうるさい。ユナは無表情ながら目を輝かせた。
「ゴーレムを倒すのに攻撃魔法はいらない。ひとつ勉強になりました。おっぱい――」
「やり方は教えてやるから、その言い方は自重しろ」
「はい、お師匠」
ユナはどこか楽しそうに応じた。さらにダンジョンの奥へと俺たちは進んだ。
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