第403話、さらば、友よ


 ヒュドラを討伐し、学校に戻ってきた俺たちに面会があった。まあ、正確には俺に、だったのだが。


 傭兵のマッドハンターと、先日まで彼について魔法甲冑のメンテを担当していた武具職人であるエルフのガエア、ドワーフのノークだった。

 現在、二人の職人は王城で働いている。


 何しに来たと聞けば、エルフとドワーフの職人は、『ヒュドラを討伐したと聞いて』と答えた。


 どうも俺たち討伐隊に同行して、魔法甲冑や武具のテストをしたかったようだった。もうすでに俺たちの方で始末をつけてしまったのだが。


 青獅子寮地下の地下秘密通路の待機場に装甲車デゼルトと、ヒュドラ戦を経験したバトルゴーレムの青藍、深紅の二体。ガエアとノークは、損傷した二機を見やり驚いていた。


「世界最高峰の戦闘ゴーレムですら、傷を負うなんて……」

「恐ろしい魔獣じゃ……」


 だが二人はすぐに、ゴーレムの修理を手伝わせて欲しいと言い、俺が答える前にさっさと作業を始めた。付き添いで来たマッドが俺の隣で言った。


「要するに、あんたのメカをいじりたかったんだろうな」

「なるほど」

「あの二体、俺の甲冑に似ているな」

「君の鎧を見て、未来チックに決めてもいいと思ってね」

「……一杯飲むか?」

「いいね」


 実は、俺に歳の近い友人というのが、あまりいなかったりする。アーリィーたちは10以上も年下だし、ユナも7つ下。ヴォード氏は逆に十幾つも上で、ラスィアさんはわからず、ベルさんは年齢不詳だ。


 世界は違えど、別の世界から来た者同士、俺はマッドと親交を深めていた。たまに銃などの飛び道具の相談を受けるのは、職業柄と思うことにする。


 異世界仲間と言えば、リアナを除く、フィンさん、リーレ、ヨウ君、橿原かしはらは、それぞれ旅に出た。


 というより、俺がマントゥル討伐に招集してしばらく付き合ってもらったので、それぞれの場所へ帰ったというべきか。


 フィンさんはあてもない放浪を続けると言う。ネクロマンサーは群れないのだ。


 リーレと橿原は元の世界に帰る方法を探し、ヨウ君も同様だが、彼は彼女たちとは別口で探すのだと言う。


『また、何か必要があったら呼んでください』


 美少女顔の少年ニンジャは、そう告げて、他の仲間たち同様、王都を去った。


 ちなみにリアナはといえば、ウェントゥス軍の一員として、シェイプシフター相手に戦闘技術を伝授し、お互いに高めあっている。


 機械の扱える異世界軍隊経験者は大歓迎だ。


 ということで、マッドにも声をかけておく。


「まあ、考えておく」


 戦争と聞いて、喜んで飛び込んでくるタイプではなかったようだ。まあ、どこか退廃的な空気をまとう男だから、戦争にはうんざりしているかもしれないな。


 が、彼は機械鎧のメンテや、武器の補給では頼りたいと言われた。


「……オーケー、異世界人のよしみで安くしておくよ」

「何かいい仕事があれば、声を掛けてくれ。異世界人のよしみで安く雇われてやる」


 乾杯、異世界人の友よ。



  ・  ・  ・



 アーリィーが王子でなくなり、お姫様になって、しかもその婚約相手が俺で、となっての日々が過ぎていく。


 正直、アクティス魔法騎士学校に在籍する理由はないのだが、アーリィーにとっては王族として一応卒業したほうがよいという話になっている。


 中途で転入し、アーリィーの護衛を務めていた俺は、別に卒業しなくてもいいと思ったのだが、当のアーリィーに俺と一緒にいたいからと引き留められた。


 さらに学校側からも、俺にはぜひ卒業して欲しいと懇願された。武術大会を優勝した生徒、ならびにSランク冒険者である俺の名を、学校の卒業者としてどうしても入れたいということだ。学校側からお願いされるというのも初めてな気がした。


 表の顔、表の顔。これもカモフラージュ。


 学校での俺は、もはや一生徒とは言えない生活を送っていた。騎士学校の選択科目、高等魔法授業は、正式に俺が担当教官となっていた。


 在学中に教官職に就くというのは、果たして問題にならないのか……いや、ならないんだろうな。ここは日本ではないし、教育委員会みたいなのもPTAもないしな。


 表の顔……?


 英雄というのは、ちやほやされるものであり、俺もその例に漏れず、こんな異例なことをしても文句が出ないのだろう。


 教官をやらされて一番文句を言いたいのは、実は俺自身だというのが皮肉といえば皮肉だ。


 元の高等魔法授業の担当だったユナは、補助教官という扱いで俺のサポートにまわっている。相変わらず魔法が絡むと体面も何も気にしないユナであるから、事実上の降格扱いもまったく気にしていない。


 ちなみに、彼女の教官契約は今年いっぱいだそうで、来年からは無職――いや冒険者に戻るのだが、俺の弟子としてより時間を使えるということで、むしろユナは喜んでいた。おう、ウェントゥス軍でこき使ってやるから覚悟しておけよ。


 ともあれ、俺は高等魔法授業の教官をやることになったが、実技の戦闘訓練でもちょいちょい教官の真似事をさせられた。


 学校経営陣からすると、俺には卒業後も教官として残って欲しいようで、ちょくちょくアプローチしてくる。……他にやることがなかったら考えておく、と適当に濁しておいた。日本人的に言えば、その気はないという意味である。


 学校生活といえば、アーリィーの制服が変わった。魔法騎士学校制服、女子制服である。白とエンジ色の上着に、エンジ色の丈の短めのスカートである。……スカートである。大事なことなので二度。


 アーリィー王子が、お姫様になったら、ズボンからスカートに変わったのである。もとより中性的、と言えば聞こえはいいが可愛らしい王子様がどこからどう見ても女の子にしか見えないのだから……正直、たまりません。


 アーリィー、引き留めてくれてありがとう。君の女子制服姿で、忘れかけていた萌えの心を呼び覚ましてくれて。


 それがきっかけというわけではないのだが、時々お遊びでアーリィーがコスプレするようになった。もとが美人なので、女性モノに限らず、男装も色々似合いすぎてもうね……。例のメイド衣装だったり、現代風の水着とか――


 余談だが、王都の衣装屋に水着の製作を依頼したところ、それらの現代風水着が商品として一般に販売されるようになった。一般とは言いながら、大半はお金持ちが道楽で買っていくことが多いようだが。


 異世界人が欲したために、それまでなかったものが出回るようになった一例と言える。

 この現象に対して、ベルさんが『変態ばかりじゃねーか!』などと突っ込んでいたが、そういう黒猫魔王も、ガン見してやがったから同じ穴のムジナなんだけどね。


 そして変態といえば、うちのメイドさん――サキリスもまた、それらの水着やエロちっくな衣装でのコスプレをするようになった。もとからそっちの素養がある娘だったが、何だか、俺の周りでそれらが伝染しているようでもあった。

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