第357話、大会用の装備を作ろう


 武術大会にエントリーした。さて、装備はどうしようか。


 俺はポータルで未踏破地区の奥、カプリコーン軍港にいた。先の二度に渡る攻勢阻止に活躍したウェントゥス軍航空艦艇も、ドックに戻り整備を受けている。


 大帝国もほとんど不意打ちでやられたようなものだったから、こちらの艦艇や航空機はほぼ無傷で生還を果たしている。


 それはそれとして、俺は軍港区画の工作室にいた。


「新装備、ねぇ」


 DCロッドこと、ディーシーが鼻で笑う。そんなおかしいか?


「武術大会は、トーナメント形式で一対一で行われる。勝ち上がり、決勝戦にて勝利すれば優勝と、まあ特に捻りはない普通の大会だ」


 試合時、対戦する戦士――この際選手と言うが――には、それぞれ守りのペンダントが渡される。冒険者ギルドでの昇進試験や、以前、アーリィーがジャルジーと模擬戦をやった時に使ったアレだ。


「防御魔法がエンチャントされたペンダントを身に付ける。本気で武器を使った殴り合いや魔法をぶっ放しても、選手の身は守られるって寸法だ」

「なら、装備はいらないのではないか? いっそ裸で出たらどうだ?」

「そっちの趣味はないよ」


 守りのペンダントが採用される前は、死人が当然のように出たそうな。再起不能の怪我も少なくなかったという。当たり前だな。


 だが有力な選手を潰すだけの大会となった結果、選手が集まらなくなり、選手をある程度保護できるようルール緩和すれば、今度は非常に地味になって観客からブーイングが出るという悪循環。


 守りのペンダント効果により、見た目も派手な本格的な勝負が見れるようになったことで、武術大会は一大イベントへと返り咲いた。


「ただ、ペンダントには時間制限がある。防御の効果時間は3分ほど。しかも攻撃を受けることで魔力を消費し、それより早く効果が切れるという代物らしい」


 魔力フルの状態ではペンダントは青に発光。魔力減少と共に、緑、黄、赤へと変わっていき、赤が点滅を繰り返し始めた場合、魔力切れ寸前ということで、試合はその時点で終了となる。赤点滅になった時点で、その選手の負けだ。……何だか、某光の巨人のタイマーみたいだな、と思う。


「だが皮肉なことに、このペンダントの仕様は試合時間の短縮を生み、観客はむしろ歓迎したそうな」


 長々と睨み合いが続く試合は、見ているほうも疲れるのだ。


 さて、選手の安全を守るペンダントにより、本気で殴っても大丈夫な試合が展開が可能になった。攻撃に関しては武器や格闘はもちろん、魔法も認められている。だからやりようによっては、魔術師が相手の武器の届かない場所に下がって、魔法を連発して倒してしまうなんてことも可能だ。


 その結果かどうかは定かではないが、参加選手の多くは大なり小なり魔法が使えるらしい。魔法が使えない戦士は魔法対策をしない限り、一、二回戦の間にほとんどやられてしまうと言う。


 魔法が使えないなら、せめて盾は持っていけ、という言葉がある。


「じゃあ、そろそろ装備について考えようか」

「もうアイデアはあるのだろう?」


 ディーシーが問う。まあね。


「今回は魔術師スタイルはしない。国外からも実力者が参加する大会らしいからね」

「主は有名人だったからな」


 皮肉をどうも。英雄時代の俺を知っている奴が来ないとも限らない。


 姿は変えているが、戦い方から連想されて疑われるのも面白くない。当然、英雄時代の装備も使わない。


「ま、魔法騎士生として参戦だからな。騎士らしい格好をしていけばいいとは思う」


 優勝すればいいとは言うものの、タイマン勝負となれば、俺も決して楽観できる身分とは言えない。


 優勝候補と言われるようなツワモノは、俺よりもはるかにこの手の決闘に慣れているだろうし。俺自身、英雄なんて持ち上げられていても、自分が世界最強なんて思ったことは一度もない。


「装備はそれなりに上質なものを揃えておきたい。市販の装備はNG」


 が、対竜装備のようなレア物で固めて、周囲の注目を集めてマークされるのもよろしくない。着実に、優勝をもぎ取る……俺はマジだ。


「理想を言えば、目立たず、ノーマークのまま勝ち上がること。参加者の中には、試合を見て対策を考える真面目くんもいるはずだろうからね」


 特に上位まで勝ち上がるような奴は、ちゃんと相手を見ているものだ。地味に、目立たず、手の内をあまり見せないように……。


「今ある素材の中で、装備一式作れて、頑丈な素材となると……」

「コバルト、ミスリル――あぁ、そういえば、こんなのがあるぞ」


 ディーシーは机にそれを置いた。緑白色の魔法金属だ。……オリハルコンに似ているが、はて、何だったか。


「ホワイトオリハルコン。オリハルコンをベースにした強化魔法金属だ」

「オリハルコンだって、充分高級で希少品だぞ」


 どこかの遺跡で回収して、そのままストレージの肥やしになっていた。これを作った昔の人間は、こんな強化素材を生み出していたんだなぁ。


 軽く、もとのオリハルコンよりもさらに強度が上。素材としては申し分ない。


 さっそくディーシーの協力のもと、素材を用意し、多量の魔力を注ぎ込んでいじり、こねり、掛け合わせることで新しく作りかえた。


 鎧兜のデザインは、市販のものと大差がないようにする。そう、ありふれた感じで、周囲の目を欺くのだ。


 とはいえ、緑白色の装備は若干珍しさもあって目立つかもしれない。オリハルコンを連想する者もいるのではないか。……後で上から鉄色に塗装しておこう。


 ホワイトオリハルコンをベースに兜や鎧、小手など装備一式を作る。内側にはレザーを挟みこんでフィットするように調整。あと動きやすさを重視し、あまりガチガチに固めない。一対一の決闘で重装備過ぎるのも問題だ。他の参加者もそれぞれ調整してくるだろう。


 鉄の鎧兜よりは軽い印象だが、全部装着したらそれなりの重さになる。ということで、装備品それぞれに重量軽減の魔法文字を刻んでおく。


 鎧、兜、それに盾を用意。小手には盾の補助としてシールド機能を強化すべく、魔石を埋め込み、魔力を放出できるように改造する。この魔力放射を利用すれば、小手をつけた手で敵を殴る時の威力アップも可能だ。


 兜にも細工をしておく。顔を覆う可動式のバイザー部分だが、魔力を通すと内側から外の景色を可視化する魔法を仕掛けておく。というのも兜で顔面をガードすると視界がかなり狭いのだ。慣れている人ならともかく、視界でハンデを背負うのも馬鹿らしい。


 で、防御の要となる盾の製作である。守りのペンダントの消耗を抑えるためにも盾は持っていくほうがよい。こちらもホワイトオリハルコンで盾を作り、以前マルカスに渡したサンダーシールド同様、電撃を張るための魔石を装着する。バッシュと同時に相手にショックを与えられたら、と思うが、守りのペンダントがあるから、さほど効果は望めないかもしれない。


 さて、メインウェポンである剣を用意する。ホワイトオリハルコン製のロングソード。魔石を備え、さらに刀身に魔法文字を刻む。剣に風をまとわせ物理攻撃を逸らし、魔法は反射するように文字で細工した。盾ではなく剣にカウンター魔法を刻んだのは、相手の虚を突くためだ。剣で跳ね返せば、相手が剣の達人と錯覚してくれるのではなかろうか?


 武器の持ち込みについては制限がないので、サブウェポンも作っておく。インパクトハンマーと同程度の打撃を叩き込める片手用のメイス。……これ、工夫したら斧とかピックにできないだろうか。昔、アニメのロボット兵器がそんな多目的武装を持っていた。


 そんなこんなで俺とディーシーは武具を製作する。……さすがディーシーさん、物作りは得意だ。

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