第303話、アーリィー VS ジャルジー
「ルールは一対一。武器も魔法も自由だ。とはいえ、オレは公爵で、アーリィーは王子だからな。怪我をさせたら周りがうるさい。ゆえに希少な魔法具である、守りのペンダントを使う。制限時間は5分。……まあ、その前にケリがついているだろうがな」
ジャルジーは腕を組み、アーリィーを見下ろす。身長はもちろん、見た目で勝敗が決するなら、明らかにジャルジーのほうが強いと思うだろう。
「異存はあるか?」
「ない」
アーリィーは即答だった。ヒスイ色の瞳に浮かぶは好戦的な光。これまで見せたことがない王子様の強気な視線に、ジャルジーは、ほぅ、と小さく呟いた。
お互いに準備のために、一度離れる。ジャルジーは従者に装備をつけさせ、アーリィーもまた侍女に手を借りて防具を身に付ける。俺は彼女の前に立つ。
「いけそう?」
「うん。言われっぱなしは面白くないからね」
革のグローブをはめながらアーリィーは答えた。他にも訓練用のレザーアーマーをつけてはいるが、守りのペンダントという魔法具の効果で5分程度は、防具の有無が関係なかったりする。
魔法も武器も自由ということだが、アーリィーは剣を使うようだ。マギアライフルは、タイマンには無粋かな。
「ちなみに、ジャルジーとこれまで戦ったことは?」
「十数回はあるよ」
アーリィーは表情を引き締めた。
「勝った回数は?」
「ゼロ」
全敗ときたか。開始前に聞くんじゃなかったか。だがアーリィーの戦意は衰えない。
「でも、今日は負けない」
俺の知る限り、それ以前に比べて力をつけている。ここまでたっぷり練習もしたし、それもまた彼女が挑む力になっているんだろうな。
頑張れ――俺はアーリィーの肩を軽く叩くと、見送った。
まあ、こっちは見守るしかない。とはいえ、必要なら、バレないように介入するのも吝かではないが。
アーリィーとジャルジーが戦うとあって、騎士生たちの模擬戦や訓練は中断となっている。皆が、王子と公爵の決闘じみた模擬戦に注目している。
「逃げない度胸は褒めてやるよ」
ジャルジーは余裕たっぷりだ。
「いや、逃げられないか。すぐに盾突いたことを後悔させてやる」
「やってみるがいい。以前のようにはいかないぞ」
アーリィーは、ミスリルソードを抜いた。一方のジャルジーは両手持ちの剣を持っている。その刀身は薄い緑色。オリハルコンか、あるいは大地属性の魔法金属製の剣だ。意匠も凝っていて、高級さを兼ね備えている。
審判役を引き受けた教官が、両者の準備が整ったことを確認。にらみ合う二人。やがて、開始の合図が校庭に響いた。
・ ・ ・
すっと一歩前に出たジャルジー。だがアーリィーはエアブーツでの加速で一気に距離を詰めた。
「ぬっ!?」
まずは対峙するものと思っていたジャルジーは、大胆にも向かってくるアーリィーの行動に目を剥いた。だが、ジャルジーは素早くブロードソード――スマラクトを振るった。
しかし刃は空を切る。
アーリィーは斬撃をかいくぐると、ジャルジーの右側面へと回り込む。させるか、とばかりにジャルジーは返す刃でなぎ払う。アーリィーはさっと下がって、剣の範囲から逃れる。
周囲から、一連の攻防に、小さくどよめきが上がった。ジャルジーの口もとが笑みの形に歪んだ。
「思ったよりやるじゃないか。少しはできるようになったか」
「いつまでも弱いままではいられないからね」
「よく言った!」
ダン、と地を蹴り、ジャルジーが突進した。ブロードソードが唸り、避けたアーリィーだったが、彼女の髪の先、数センチをかすめた。
アーリィーも反撃に出る。その猛撃にジャルジーは剣で迎撃する。魔法金属同士が火花を散らし、校庭に剣戟が響き渡る。
守りのペンダントがあるとはいえ、本気で殺しにいっているように周囲には映る。それほどの激しい攻防だ。
速さではアーリィーが勝っているように見える。ジャルジーは一撃の威力で勝っているのは見ればわかるのだが、その肝心の一撃が当たらない。
ジャルジーの動きは決して遅いわけではない。並みの戦士よりも速い太刀筋。魔法騎士学校の生徒たちのそれを凌駕するが、アーリィーはそれ以上に速かった。
戦いは続く。一瞬一瞬のやりとりは短く感じても、確実に時間は流れていく。ギャラリーは息を呑み、戦いに見惚れる。
「驚いた……。本当に驚いたぞアーリィー!」
ジャルジーの笑みは益々深くなる。
「認めよう! お前は強くなった!」
一撃を防いだスマラクトが薄く発光した。
魔力の層が発現し、次の瞬間、魔力が拡散した。衝撃波がアーリィーを襲い、周囲の生徒たちは強く吹きぬけた風に身構えた。
「魔法剣の効果か……?」
『だろうな』
俺の呟きを、影に潜んでいるベルさんが同意した。ともあれ、ジャルジーに魔法を使わせた。ギャラリーには、アーリィーが追い込んだ結果のように映っただろう。
さあ、ここからどうやる、アーリィー……?
弾き飛ばされたアーリィーだが、転倒することなく、数メートル離れたところで踏みとどまる。だがアーリィーは動揺していない。荒らぶる息を整え、静かに剣を構える。衰えない戦意を漲らせ、精神的にもその成長が垣間見える。
「本当にどうしちまったんだ、アーリィー? あの弱虫はどこへ行った?」
ジャルジーが煽る。アーリィーはエアブーツでの加速で、一気に距離を詰めた。右手に剣。左手には魔力を収束。
「風よ。エアブラスト!」
短詠唱による風魔法。ジャルジーはとっさにスマラクトを盾のように構え、アーリィーの風魔法を防いだ。その間に、アーリィーは距離を詰めている。――決める!
魔力を集める。自分の魔力を収束する方法はやった。それを応用すれば、普通のそれとは比較にならない一撃を叩き込める!――アーリィーはジャルジーの懐に飛び込み、それを放った。
インパクト!
その一太刀は、ジャルジーの持つブロードソードに阻止される。いや、それこそアーリィーの狙い通りだった。
強打の一撃はスマラクトを叩き折りはしなかったが、ジャルジーの手からもぎ取り、吹き飛ばした。
勝った!
アーリィーは剣を相手の首もとへ滑り込ませようとして、すぐそばにジャルジーの左の拳が迫っていることに気づいた。
それは刹那。自分の剣より速くジャルジーの拳が顔に当たる――アーリィーが悟っただろうまさにその時――
・ ・ ・
俺は両者の間に割り込んだ。アーリィーも、ジャルジーも目を見開き、固まった。
「そこまでです、お二人とも。時間切れですよ」
俺が指摘すると、二人はとっさに自分のペンダントを見た。大抵の攻撃を無効化する守りのペンダントは、すでに光を失っていた。
魔力が切れたのである。つまり模擬戦の5分が経過したことを物語っていた。
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