第250話、ドラゴンスレイヤー
青い魔法陣が展開される。折れた竜殺剣『ドラゴンブレイカー』を修復する。
俺が魔力を注ぎ込めば、魔法陣の色は赤く光る。オリハルコンのインゴットが溶けるように形を変え、折れたドラゴンブレイカーを繋ぎ合わせるように接合していく。形を整えるのは第一段階。難しいのはここからだ。俺はさらに魔力を注ぎ込む。
ハッと息を呑む音が聞こえたが、正直誰が発したものか俺にはわからなかった。いまは集中だ。剣と追加オリハルコンを結びつける。溶け合い一つになるように――
「危ない!」
ラスィアの声だったか。心配ご無用だ。魔法障壁は張ってる。エンシェントドラゴンは未だ泥沼にはまっていて、ブレスしかこちらを攻撃できない。ブレスなら凌げる。無視だ無視。
「なんてことだ……剣が」
「元に――!?」
うるさい、黙ってろ。俺は耳に届く周囲の声をわずらわしく感じる。オリハルコンを曲げたり伸ばすとか結び付けるとか、どれだけ大変かわからないだろう? 鉄やミスリルを加工するよりもっと難しいんだ!
そんな怒りの波動がのったせいか、硬かったオリハルコンが少しスムーズに伸びていくようになった。見た目には一つになったように見えるが、まだ融合が足りない。隙間を作るな、溶け合え。
一瞬、頭が重くなった。……畜生、集中を切らすな。魔力がやばい……!
目元がぼやけてくる。吐き気が……もう少し、あと、少し我慢だ、んなろおぉ!
赤かった魔法陣が緑に光った。合成、完了――だ。
「うぅっ……」
俺は地面に右手を付いて身体を支えると、左手は胸をさする。やばい、吐きそう。
「剣が、戻った……! 信じられない!」
ヴォードが感嘆の声をあげた。
ルティもまた驚いている。感激のところ悪いがね、いまはそれどころじゃないだろう?
俺は顔を上げると、何とか笑みを貼りつける。
「さあ、ギルド長。お待ちかねの剣ですよ。……今度は、はずさないでくださいな。次はないですから」
「……ああ。……すまん」
ヴォードはドラゴンブレイカーを手に取る。その目は、再燃した闘志に満ちている。
「貴様の尽力、無駄にはせん!」
残っている者は? とヴォードが咆えるように言えば、ベルさんとマルテロ、そして近くにルティがいて、ラスィア、ユナがいる。
「よし、次で決めるぞ! 皆、力を貸してくれ!」
「おう!」
ベルさんが先陣を切り、ヴォード、マルテロ、そしてルティが古代竜目指して駆ける。ユナとラスィアが防御魔法を前衛に唱え、先ほどからヴィスタが魔法弓でドラゴンの注意を引いていた。
俺はと言うと、まだふらふらだ。魔力の欠乏がひどい。ストレージを漁る。
あまりに気持ち悪くて、希少品だろうがなんだろうか構わなかった。保存しておいた文字通りの最高品質のマジックポーションの瓶を取り出し、栓を抜くと口に含んだ。舌が焼けるような苦さが口の中に広がるが、我慢して飲み込んだ。味のほうはどうにかならんのかね。
しばし、呆けたような調子だった。頑張るほかの冒険者たちには悪いが。
ちらと視線をやれば、ベルさんが古代竜の右手を引き離し、マルテロ、ルティが左腕を弾き、ヴォードがドラゴンブレイカーを心臓部に当たるダンジョンコアへ一撃――
天にも轟く絶叫が深部フロアに木霊した。
それは伝説の竜の断末魔の悲鳴。金属めいた灰色の外皮を持つ古代竜は、コアを失い、上半身を倒れこませた。
「勝った……?」
ラスィアの声。ヴォードが大剣をかざし、声を張り上げた。
「おおおおおおおおおおーーっ!!!」
マルテロが、ルティが歓声を上げる。ラスィアとユナが喜びのあまり抱き合っているのを尻目に、俺はホッと息をつく。
討伐完了、だな。魔法が効かない相手では、まあこんなものだよな。ヴォードが古代竜を仕留め、今回はアシスト役で済んだから、そこまで悪目立ちはしないだろう、うん。
さて、と、とりあえず外の様子を見てこようかね。
深部フロアに邪魔が入らないように外部掩護班やアーリィーたちが守っている。そっちの様子はまるでわからないが、激戦の真っ只中だったら助けてやらないとね。
「ジン……?」
ヴィスタが俺の様子に首をかしげる。君は元気そうだな、よしよし。
「ついてこい。外の様子を見に行こう」
「あ、そうだな」
外のことを忘れていたような顔をするエルフの魔法弓使い。エンシェントドラゴンとの死闘の直後だ。それどころではなかったのだろう。
さて、俺とヴィスタが、深部フロアに侵入を果たした穴の外を出てみると――戦闘の真っ最中だった。
わらわらと迫るオークやゴブリンの集団。アーリィーが機関銃を連射し、敵をなぎ倒す一方、クローガら外部組、撤退指示で外に出ていたレグラスやナギ、アンフィらが敵と切り結んでいた。
「おう、ジン! 何をやってるんだ!? 撤退なのに、他の連中は!?」
レグラスに怒鳴られた。なにグズグズしているんだ、と言わんばかりである。うん、まあ、そうだよね。
「ジン!? 無事かい!?」
アーリィーが振り返る。うん、と、俺は小さく手を振って応えた後、呼吸を整え、呪文を唱えた。
「氷の檻、地より出でて、獣どもを貫け。アイススパイク!」
味方が頑張る防衛ラインの外にびっしり、かつ無数の氷の氷柱を出現させる。後続の敵亜人どもがたちまち串刺しにされて、その身体を高さ三メートル以上にまで吊り上げられる。突如出現した氷の林、いや壁はオーク軍の後続と前衛を引き離した。これでしばらく時間が稼げるだろう。
「全員、聞いてくれ。エンシェントドラゴンは、ヴォードさんが倒した」
「え……!?」
何人かがビックリして固まる。氷の壁の内側にいた敵と戦っている者たちはいたが、オークの数も、たちまち減っていくのはさすが精鋭冒険者たちと言ったところか。
「本当なの、ジン?」
アーリィーの問いに頷きつつ、俺は言った。
「そうだ。よって、全員、穴を通って深部フロアに撤収してくれ。そこでポータルを開き、このダンジョンからおさらばしよう」
近くにいた近衛の魔術師が「よしっ」と拳を固めて喜んだ。負傷者を含め、俺の言葉に従い、移動を始める。気づけば、氷の壁の内側にもう敵の姿はなかった。……分断したら、あっさり片付けちゃったのね、君たち。
アンフィとナギが俺のもとにやってきた。
「ホントに? ホントに倒しちゃったの!?」
「ああ、ギルド長がな。そっち行って自分で聞いてきて」
それを聞き、深部フロアへと走る女冒険者たち。アーリィーやオリビア、近衛騎士たちも来る。シェイプシフター兵が
「終わったんだね、ジン」
「とりあえず、だな。あとは表のオーク軍を何とかしないといけないが、後日でよかろう」
王都討伐隊が出ることになっているからな。ウェントゥスの兵器と足並みを揃えてやっつけてやろうじゃないか。
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