第245話、去る者、加わる者
「残念ですが、私は討伐を辞退させていただく」
青く長い髪を持つ涼しげな顔立ちの魔術師アストルは、首を横に振った。
「私の魔法が効かなかった。とても役に立つとは思えない」
そう言い残し、青髪の魔術師は冒険者ギルドフロアを去った。
俺はレグラス、クローガと顔を見合わせた。
「古代竜を相手にするんだ。俺だってお前さんの武器と、作戦を聞かなきゃ、遠慮してるところだ」
レグラスは火竜の
「冒険者なんて怪我して当たり前だけど、傭兵と同じく、命あってのモノダネだからね」
「シャッハは完全にいなくなっちまったし」
大剣を折られた銀髪冒険者は、いつの間にかギルドから姿を消している。戦意喪失も甚だしいが、果たして今後気持ちの面も含めて冒険者としてやっていけるかどうか。
「それで、リューグ、シルケー。君らはどうだ?」
クローガが槍使い二人に水を向ける。狼じみた顔の槍使いリューグは感情が削ぎ落ちたような声を出した。
「……正直、オレも遠慮したいね。エンシェントドラゴン? オレが行ってどうにかなるようなものかね?」
「対竜装備を貸す」
俺は言った。
「古代竜討伐グループについてもいいし、もしそれが手に余るというなら、外でオークを相手にするグループでもいい。現状、腕のいい戦士は何人いても歓迎だ」
「そういうことなら……力を貸そう」
リューグは苦い笑みを浮かべた。隣で聞いていたエルフの槍使いシルケーは小さく手を挙げた。
「私も参加する」
「ありがとう」
俺は微笑すれば、エルフの槍使いはまんざらでもないように首肯した。レグラスが眉間にしわを寄せながら言った。
「それで、これで何人になったっけか?」
「おいおい、しっかりしてくれよ副隊長殿」
クローガが苦笑するが、レグラスは首を捻る。
「いや、もう俺、副隊長じゃねーし。で、何人だ?」
「ジン君にベルさん、あなたに俺でしょ。リューグにシルケー。ヴォードさんに、ラスィアさん、ユナ、ヴィスタにルティ、ガルフ。……ええーと12人」
「それっぽっちか。ヴォードの旦那にラスィアさんが入っても、前より全然少ないじゃないか」
「アンフィたち三人に声をかけてないからね」
アンフィ、ナギ、ブリーゼの女子冒険者グループ。ナギが傷を負い、残る二人も付き添っているから――
「あら、呼んだかしら?」
噂をすれば、そのアンフィ、ナギ、ブリーゼが三人揃ってやってきた。彼女たちは俺を見ると、まずこちらに歩み寄った。
「ありがとう、ジン・トキトモ。あんたのおかげで、ナギは助かった。それどころか、もう戦えるくらいに回復したわ!」
「助けられました、ジン・トキトモ」
黒髪和風剣士のナギが頭を下げる。
「このお礼はいずれ。何かあれば、いつでも声をかけてください」
「ナギをありがとね、不思議な魔法使い」
ウサギ耳フードの魔術師ブリーゼが、少女らしい可愛らしい声で言った。
「大丈夫そうでよかった」
美女、美少女に相次いでお言葉をかけられると、周囲の目もあって少々こそばゆい。そんな俺の横から、レグラスが口を開いた。
「じゃ、さっそく手を貸してくれないか? これから古代竜退治に行くんだが、人手が足りない」
「いや、あんたの頼みを聞くとは言ってないし! って、エンシェントドラゴン退治? また行くつもりなの?」
アンフィたちが驚くので、俺はおおまかな説明をしてやった。対竜装備の貸し出しと、ドラゴンだけでなく、討伐中にオーク連中が邪魔しないように防ぐ人数も欲しいなど。
「なるほどね。……ギルドマスターも行くって言うなら、まったく勝算がないわけじゃないわ。何せ、あの人はドラゴンスレイヤーだもんね!」
「私も、この傷のお礼をしたいと思っていました。ただ。対竜武器に刀なんて、ないですよね……?」
「あるよ。雷竜からこしらえた長刀が」
俺が言えば、ナギはぱぁっと顔に満面の笑みを浮かべた。
「それならば、ぜひ私もお供させてください!」
「アンフィとナギが行くなら、わたしも行く」
ブリーゼも志願した。
これで15人か。人数は欲しいが、ポータルでの移動を考えると、のべつ幕なしに声をかければいいというものでもない。古代竜に当たるグループと、外で戦うグループに人数を分けるとして、外のグループは、ゴーレムなどで不足を補うという手もあるな。
俺がそんなことを考えていると、「ジン・トキトモ!」とおっさん声がフロアに響いた。
見れば、ドワーフの鍛冶師マルテロ氏が、のしのしとやってくるところだった。鉄兜を被り、大きな戦鎚を担いで。
「竜退治に行くんだってな。ワシも仲間に入れろ!」
「久しぶりですね、マルテロ氏。……竜退治の話、知っていたんですか?」
「冒険者のあいだじゃ、話題になってるからのう。お前さんらが出かけておる間にワシもラスィアから聞いた」
なるほど、と俺が頷くと、クローガが自身の髪をかいた。
「マルテロさん、参加は嬉しいけど、あなたに何かあったら武具鍛冶業界じゃ大変なことになってしまうでしょ。今回はやめておいたほうがいいのでは――」
「ふん、ワシがおらんでも、鍛冶師なら掃いて捨てるほどおるわい!」
マルテロ氏は鼻を鳴らした。いや、あんたほどの腕のいいマスター・スミスはいないって――
「ワシはくたばるつもりはないし、仮に何かあっても、そこの小僧が何とかするじゃろ」
そこで俺に振るのはやめてほしい。というか何で俺に振った?
「ワシも古代竜の素材が欲しい。参加する価値はある!」
あー、と冒険者たちは納得した。
エンシェントドラゴンの身体からとれるだろう素材は、超レアで高価な代物となる。爪や牙、鱗でも何でも、報酬としては破格のものとなろう。ここにいる冒険者の中でも素材を利用した武具を手に入れるチャンスだし、マルテロ氏にしても、古代竜素材の武具を自分の手で作ってみたいのだろう。……気持ちはわかる。
とはいえ――俺は、暗鬱たる気分になる。
対エンシェントドラゴン、その討伐作戦について、まだ詰めるところがあった。
参加メンバーの役割分担。何ができて、何ができないのか――それによって作戦もだいぶ変わってくるだろう。
何より、俺のなかで、まだエンシェントドラゴンの攻撃に対する防御策が完全にシミュレートできているわけではない。
見ていない攻撃については仕方ないとしても、現状考えうる攻撃方法をすべてブロックする方法を考え出さない限り、勝利は遠いのだ。
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