第243話、古代竜対策会議
俺とベルさんは冒険者ギルドに戻った。
さっそく会議室に呼ばれる。王都で緊急事態が発生した際、本部となる指揮を取るための部屋にギルド長のヴォード氏。その補佐であるラスィアさんのほか、俺、ベルさん(黒騎士)に、Aランク冒険者のレグラス、クローガ、ユナがいた。これらがテーブルを囲んで、難しい顔をしているわけだ。
「エンシェントドラゴン」
ヴォード氏が腕を組んでその名を呟く。
探索隊のサブリーダーだったレグラスは頷いた。
「あんなのがいるなんて、まったくの予想外だった」
怜悧な顔立ちには、かすかな苛立ちが混ざる。事前の情報がほとんどない状態だったとはいえ、今回の遠征について思うところがあるようだった。
クローガは真面目な調子で言った。
「こちらの武器はまったく効かず、魔法もすべて無効化している様子でした。正直、古代竜を相手にできる戦力ではなかった」
「何から何まで、というか……俺はこいつに驚かされっぱなしなんだが」
レグラスが、俺とベルさんを見やる。
「ジン・トキトモ。お前、あの不思議な車といい、転移魔法といい、何者だ?」
ヴォード氏が黙していると、コホン、とラスィアさんが口を開いた。
「彼とベルさんは、我がギルドの秘密兵器です。今回の遠征に参加していただいたのもそのためです」
秘密兵器、ね。俺は苦笑する。フォローはしてくれるわけだ。ヒュー、とクローガが口笛を吹いた。
「なるほど。確かに、彼がいなければ我々は未だ地下都市ダンジョンで、下手したら全滅していた。古代竜の情報も持ち帰ることができたし、あと地図も――」
クローガが苦笑いを浮かべた。
「いやほんと、ジン君。凄いな。俺たちもマッピングはしてたんだけど、こんな綺麗な地図まで作ってくれちゃって」
机の上に広げられているのは、地下都市ダンジョンの全景。さすがにエンシェントドラゴンがいた城内や、廃墟の町の内部はないが、空洞内の配置や様子はわかる地図である。……言うまでもなく、ディーシーさん作成の地図だ。
「現状を整理しよう」
ヴォード氏が、小さく息をついた。
「地下都市ダンジョンには、古代竜がいて、さらにオークやゴブリンの軍勢がいる――」
「そしてこちらの状態としては――」
ラスィアさんが後を引き取った。
「探索隊は10名死亡、一名が深手を負い、なお生還した冒険者の中にも精神的に疲弊している者が若干名います。再度の討伐任務に耐えられる者は、前回の半分もいれば御の字、といったところでしょうか」
何か自然と討伐の方向へ流れている。冒険者ギルドはダンジョン調査の依頼で動いていたはずだが……まあ、その方が都合がいいか。どの道、倒すつもりだったし。
「こちらの攻撃が効かないことには話にならん」
レグラスが唸るように言った。
「攻撃魔法が無効化される以上は、魔法使いはエンシェントドラゴン相手に使えん。かといって打撃に関しても、奴の巨体と頑強な鱗を前に表面に傷しかつけられない。……対ドラゴン用の武器が必要だ」
黒髪の騎士風冒険者がヴォード氏を見れば、巨漢のギルドマスターは頷いた。
「では、おれが行くしかないだろうな」
44歳のへビィナイト。竜殺しの称号を持つSランク冒険者であるヴォード氏は自信を漲らせて言った。ただそれだけなのに、周囲に与える頼もしさは半端ない。
レグラスは皮肉げに口もとを歪める。
「大丈夫ですかい、ヴォードの旦那。最近、ギルドにこもっていて運動不足じゃないんですか?」
「まあ、多少はな。が、剣を振ることについては鍛錬は欠かしておらんよ」
やる気は満々なんだよな、この人。機会があるなら前線に出たい人だし。いつもはサブマスのラスィアさんに止められているんだけど、今回はそうも言っていられないだろう。大義名分、我にありってか。
クローガが笑った。
「ジン君の転移魔法陣があるから、ドラゴンとは万全の状態で戦えますよ。……そうだろ、ジン君?」
「ええ、ポータルを置いてありますから、すぐにボス――古代竜と戦えます」
うむ、とヴォード氏は頷いた。ポータルの件は、ギルド側は知っているからね。
こちらは準備を万全に整えれば、わざわざ現地まで馬車に揺られることも、邪魔なオークどもと戦わずに済むというわけだ。
ラスィアさんが一同を見回した。
「その点が、こちらにとっての強みですね。初めから全力で古代竜に集中できる」
「だが、こちらの武器が、ヴォードさんの大剣だけではな」
レグラスが自身の黒髪をなでつけながら嘆息した。
「ラスィアさん、このギルドに、対ドラゴン用の装備とかってあります?」
「ドラゴンといっても、下級の……例えばフロストドラゴンの素材から作られた武具は数点ありますが、正直、下級ドラゴンの武器では、対竜装備としては不足かと」
「霜竜じゃ、トカゲの延長だしなぁ」
レグラスはクローガと顔を見合わせた。
「おい、ジン」
ベルさんが俺に視線を寄越した。
「黒竜の大剣を貸してくれ」
あぁ、ベルさん、やる気なのね。
英雄時代に俺とベルさんで討伐した上位ドラゴンこと、ブラックドラゴンの爪を削りだして作り出した大剣――通称、黒竜の大剣である。
俺はストレージから取り出したそれを、ベルさんの前、机の上に置いてやる。当然ながら、周囲の目はその黒い刀身を持つ大剣に集まる。
「これは……?」
ラスィアさんが戸惑う中、ベルさんが大剣の柄を握り込む。
「以前、倒したドラゴンの爪から作った武器だ。ドラゴンの鱗を裂くのは、同じドラゴンの爪や牙だからな」
ドラゴンスレイヤー!
レグラスとクローガもビックリしてしまう。俺はさらにストレージを漁る。
「対ドラゴン用の武器が欲しいのなら、貸してもいい」
青獅子寮でのやりとりが脳裏にあって、少々ご機嫌斜めの俺は、机の上にドラゴン素材の武具を並べるのだった。
冒険者ギルドのブリーフィングルーム。その机に並べられていく武具。周囲の目は釘付けになる。
火竜の剣。フレイムドラゴンの牙から作り出した片手剣。
雷竜の太刀。こちらはサンダードラゴン素材から作り出した長刀である。
地竜の戦鎚。竜の尻尾に牙を組み合わせた打撃武器、ハンマー。
地竜の盾。地竜の鱗を加工したラウンドシールド。ドラゴンの爪ですら弾く頑強さがウリだ。
火竜の斧槍。いわゆるハルバードだ。これも火竜の牙、爪を使っている火属性の槍。
火竜の牙こと短剣。魔獣解体用に俺がわりと使っているナイフ。
サーペントスピア。水竜の牙を使った槍。
などなど――
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