第242話、冒険者ギルドへの帰還


 エンシェントドラゴンのいた穴から出た俺たちだが、帰り道はオークの軍勢。その状況での脱出となれば――


「無理だ!」


 シャッハが叫んだ。


「表にはオークがいるんだろう? なのにこんな奥にいて……! そうだ、お前の車に乗れば!」


 銀髪イケメンは立ち上がると、停めてある魔法車に駆け寄った。だがドアの開け方がわからないようだった。


「……こういう非常事態に備えて、手は打ってある」


 俺が言えばクローガが「どんな?」と聞いてきた。他の冒険者たちに比べて、悲壮感が少なく、取り乱した様子もない。……リーダーにするなら、彼のような人間がいいだろうな。


「ここに転移魔法陣がある」


 ポータルを具現化させる。突然現れる青いリング。クローガが声をあげた。


「これは! ルーガナ領へ行く転移魔法!?」


 知っている奴がいたか。まあ、ボスケ大森林地帯へ行くのに、王都の冒険者なら利用した者も少なからずいただろう。


「冒険者ギルドに繋がっている。つまりここから、あっという間に帰還だ」

「ええっー!?」


 周囲が度肝を抜かれたらしく声を上げた。……うん、説明してる暇はない。


「ほら、急げ。それともここに残るか?」


 俺は冒険者たちに促した。ベルさんがさっさと通過するのをみて、ユナ、ヴィスタが続き、他の冒険者たちも次々にポータルを通過する。


 シャッハが迷っていたようだが転移リングを通ったところで、俺は魔法車を大ストレージを開いて収納。ポータルをくぐって、地下都市ダンジョンを後にした。



  ・  ・  ・



 地下都市ダンジョンへ遠征している冒険者たちが突然、王都ギルドの談話室から現れれば、それはもう驚かれるもので、冒険者ギルド内は騒然となった。


「ジンさん!」

「どうも、ラスィアさん」


 遠征出発前に、ラスィアさんに頼んで談話室のひとつにポータルを設置しておいたわけだが……まさかこうなるとはね。


 本当は何か必要なものがあった時や、重要な相談事があった時のために置いたんだけど、退却のために利用するとは思ってなかった。


「皆さんお戻りのようですが、何があったんですか?」


 ギルドフロアで、シャッハが何やら喚いている。ギルマスのヴォード氏が出てきて、レグラス、クローガと共に報告をしている。


「ダンジョンの奥に、エンシェントドラゴンがいたのさ」


 ベルさんが吐き捨てるように言った。ダークエルフのサブマスは、ビックリする。


「エンシェントドラゴン!? そんな、本当なのですか?」

「本当よ、ラスィア」


 ユナが淡々と告げた。ギルドフロアが騒がしくなる。どうやら、シャッハも古代竜の名前を出したらしい。

 状況が混乱が収まるまで少し時間がかかりそうだ。


「詳しい話は、彼らかユナに聞いてください。俺は、アーリィー王子に報告してくるんで。任せたぞ、ユナ」

「承知いたしました、お師匠」


 後のことを任せて、俺は青獅子寮にポータルを使って戻った。


「ジン! お帰り!」

「やあ、アーリィー。ただいま」

「大丈夫だった? ダンジョンの調査は?」

「調査は進んだけど、あまりいい話はないな」


 疲れたので、ソファーにどかりと腰を下ろす。ベルさんも黒猫姿になって、ソファーに寝そべった。


「ダンジョンには古代竜がいた。エンシェントドラゴン」


 俺とベルさんは、アーリィーに帰還報告とダンジョンの様子を伝える。アーリィーは真剣な顔で聞いていた。


 そして小さく息をついた。


「そっか。ドラゴンにオークの軍勢か……」

「アーリィー?」

「いま、王都で第二次討伐隊が編成されているんだけど……たぶん、ボクがその指揮官になるかもしれない」

「アーリィーが?」

「うん。王城から知らせが来たんだ。父上からご指名みたい」


 ため息をつく男装のお姫様。


 地下都市ダンジョンの攻略――前回、王都から出陣した王国軍が、ダンジョンにたどり着く前に蹴散らされたアレの再戦ということだろう。


 俺たち冒険者は調査という格好だけど、そりゃ本格的な討伐隊も編成されるわな。


 そしてエマン王は、アーリィーに軍を率いての再攻略を命じるつもりらしい。


 おそらく冒険者ギルドから、偵察報告が届くことになるだろうが、今の時点では、王国側はダンジョンにエンシェントドラゴンがいることを知らない。だがその手前にいるグリーディ・ワームがいることになっている。……まあ、これは俺たちが倒したけど。


 アーリィーを挑ませて、あわよくば死んでもらおうと、国王陛下は企んでいるんだろうか。


 先王をエマン王に出して、大人しくさせたと思ったが、目の前に機会があったとみて決断したのかもしれない。


「討伐隊の規模は? わかるかい?」

「うーん、それがあまり期待できなさそう」


 アーリィーは渋い顔をした。


「前回の遠征での敗残兵を中心に再編成されるらしいんだ」

「ほっ、負け犬どもが主力かよ」


 ベルさんは辛辣だった。アーリィーは首を振る。


「でも、ここ最近の事件続きで、王都軍が消耗しているのも事実なんだ。王都の守りもあるし、投入兵力は前回よりさらに少なくなるだろうね」

「……勝たせる気、ないだろ」


 黒猫さんがゴロゴロとソファーを転げ回った。なにそれ可愛い。


 仮にアーリィーが討伐に成功したとすれば、それはそれで王国にとってプラスだし、負けて戦死するようなことにでもなれば、堂々と王位継承権が第二位のジャルジーに移るだけである。


 少なくとも、王子のふりをした女の子が王位を継ぐというスキャンダルは避けられる。誰からも王子の死を望んでいるようには見えない、完璧な作戦ってか。


 そうはさせないもんね!


 あの野郎! 俺だって感情のある人間だ。目の前にエマン王がいたら、殴り殺していたかもしれん――とは言い過ぎではあるが、腹が立ったのは事実だね。


「まあ、討伐隊には、ウェントゥス兵器を使って戦力増強しておこう」


 王都防衛戦同様、こっそり援護という形になるかな? まあ、それはそれとして、エンシェントドラゴンを討伐しなければいけない理由ができた。

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