第233話、ダンジョン探索隊


 俺たちはルーガナ領で戦闘ヘリを作ったり、王都で学生生活を送っていたりしていたが、平穏は終わりを告げた。


 ダンジョン攻略に向かった王国軍が、王都に帰還したのだ。


 勇壮にして精強。その磨きぬかれた装備や、統一感に溢れた兵たちの姿はそこになかった。薄汚れ、装備をなくし、力なく生還した者たち。


 ダンジョン攻略は失敗に終わったのだ。


 それどころか、ダンジョンにたどり着くことさえできなかったという。オーク軍の待ち伏せと超巨大ワームの襲撃により、王国遠征軍は壊滅的損害を受けた。


 その報告は、魔法騎士学校のアーリィーのもとにも届いた。王都防衛戦の勝利に水を差す王国軍の敗北に、少なからずショックを受けたようだった。


 そして俺とベルさんは、冒険者ギルドに呼び出された。何でも非常呼集だそうで、そういう時は、断れないことを俺たちは知っている。


 大方、王国軍が敗れたというダンジョン絡みなんだろうな、と見当をつけていたら、まさにそのとおりだった。


 冒険者ギルド、一階フロアに、冒険者が集められた。


 ギルド長のヴォード氏、副ギルド長のラスィアさんの周りにいたのは、上級冒険者たち。そのランクプレートはBランクを示すゴールド、Aランクのミスリル製。Cランク以下の、シルバーやブロンズプレートはいなかった。


 つまり、マルカスやサキリスは呼ばれていないということだ。


 なお、この上級冒険者らの中にはヴィスタやユナも含まれている。


「今回の任務は、先日の王都襲撃を行ったオーク軍の拠点と思われるダンジョンだ」


 ヴォード氏は、厳しい表情で一同を見回した。


「王国軍が攻略に向かい、失敗した話は、すでに諸君らも耳にしているだろう。おそらく再度の攻略が図られることになるだろうが、今回のダンジョン、通称『地下都市』に関する情報を我々はほとんど持っていない」


 それというのも、最近発見されたばかりのダンジョンだからだ。


「諸君ら腕利きの冒険者たちの任務は、この地下都市の探索、情報を持ち帰ることだ。非常に困難な任務だが、諸君ら精鋭冒険者ならば、可能だと私は信じている!」


 ヴォード氏に続き、ラスィアさんが、ダンジョンの位置や移動の話をする。一通り終わったあと、銀髪の大剣使い――シャッハという名のAランク冒険者が口を開いた。


「ギルド長、我ら精鋭が集められたのは理解したが、何やら新顔が混じっているようだが?」


 シャッハの視線が俺へと向く。


 他にも俺に馴染みのない連中が、不躾な視線を寄越してくる。……元の年齢の外見で来るべきだったかな。


「先日の王都防衛戦で、不幸にも冒険者に欠員が出たらしいですが、もう少しマシなヤツはいなかったんですか?」


 シャッハ殿は防衛戦の時いなかったな。ここにいる冒険者の半分以上が、魔獣軍侵攻の際、王都にいなかった上位ランカーであるが。


「おい、銀髪の」


 エルフの弓使いヴィスタが、胸の前で腕を組んだまま告げた。


「心配しなくても、ジンは優秀な魔法使いだ。貴殿が心配するほどのものではないぞ。何せ、信用度で言えば、貴殿よりも彼のほうが上だからな」

「な、なに! お、俺より、こんな魔法使いが上だとぉ……!」


 シャッハが声を荒らげた。うわぁ、ヴィスタさん、煽りおる。


「Aランク程度で、彼を侮るなよ」

「き、貴様こそAランクだろうが! 程度とはなんだ、程度とは!」


 二人の間に険悪な空気が漂う。俺が馬鹿にされたとも思ったのだろうか、ヴィスタが『殺すぞ貴様』と言わんばかりの視線を投げかければ、シャッハもまたいきり立っている。


 そんなシャッハに、隣に居た黒髪の騎士――こちらもイケメンのレグラスが言った。 


「まあ、落ち着けシャッハ。ヴォードさんが召集かけたメンバーだ。見た目は若くとも、きっと探索に有用な能力を持っているんだろうよ」

「いや、実力だろう、きっと」


 そう言ったのは茶色の髪の若者――溌剌とした表情の好青年じみたその冒険者はクローガという。


「俺は王都防衛戦でジンの働きを見たが、とてもユニークな戦士だよ。見た目に騙されるな。彼は強い魔法使いだ」

「戦士なのか、魔法使いなのか、どっちなのよ?」


 金髪赤目の美少女剣士、アンフィと名乗ったAランク冒険者が口を挟んだ。するとユナが淡々とした調子で言った。


「飛び切り腕の立つ魔術師ですよ。わたしのお師匠です」

「は?」


 何人かが、ユナの発言に目と耳を疑った。お師匠? あのAランク魔術師のユナの?


 変な空気が流れる中、ヴォード氏が咳払いした。


「他に質問などなければ、さっそく行動に移してもらいたいが、よろしいか?」



  ・  ・  ・



 冒険者たちが、ギルドの準備した装備や薬などをそれぞれの荷物に入れて準備を進める中、俺とベルさんのもとには、ユナ、ヴィスタ、ラスィアさんがいた。


「なんで、俺が呼ばれたんだろうな?」

「それ、本気で言ってます? ジンさん」


 ダークエルフの副ギルド長は、呆れたような目を向けてきた。隣でユナも頷いた。


「探索となれば、お師匠ほど打ってつけの人物もいないと思います」

「……さっきから気になっていたんだが」


 エルフの弓使いは、ユナを見た。


「君は、さっきからジンのことを師匠と呼んでいるようだが……? 何者だ?」

「王都魔法騎士学校で、魔法科の教官を務めているユナ・ヴェンダートです。冒険者ランクはA。いまはこの方の弟子です」

「ほぅ、弟子か」


 何だか勝手に二人で話し合いを始める。俺はベルさんと顔を見合わせる。ラスィアさんが言った。


「ギルド長も、ジンさんには信頼を置いているのですよ。だからジンさんにも声を掛けたんです」


 呼ばれたくはなかった、と言ったら、また周囲から睨まれるんだろうな。ラスィアさんは苦笑する。


「次からは見栄えをよくしませんか? もっといい装備あるでしょうに」

「暗にファッションセンスがないって言われたみたいだ。……どう思うベルさん?」

「お前さんのセンスは、もとから信じてない」

「ひでえな、ベルさん」

「そうだぞ、ジン。あなたは、もっと上位の装備を身に付けるべきだ」


 ヴィスタが割り込むように言った。


「だから他の冒険者に舐められるんだ」


 それについては、この初心者の格好をしている時点で理解はしているよ。

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