第194話、エアブーツ作り
冒険者ギルドから、青獅子寮に帰還。
サキリスとマルカスは早速、購入した武器の試し振りを始めた。ベルさんが人型になり、それぞれに実戦での使い方をレクチャーしていた。この魔王様は武器なら大抵使いこなす器用なお方である。
さて、俺は青獅子寮の自室に戻り、部屋着に着替える。……あ、忘れてた。
アーリィーに約束していたエアブーツ。隣の工房へと足を向ける。そこには彼女のために作ったエアブーツがある。
革靴、ミスリル少々、風の魔石大小6つ、グリフォンの羽根16枚、緩衝材にスライムジェルを使う。スライムジェルは例によってDCロッドで生成したダンジョントラップの極一部を利用したもの。これらを武具合成の魔法で合わせて作った。
メイドのネルケさんに頼んでアーリィーの足のサイズはすでに測定済み。だからピッタリのはずだ。
完成済のエアブーツを持って、アーリィーを訪ねる。彼女も防具を外して王子様衣装だった。
「どうしたの、ジン?」
「約束のモノを持ってきた」
じゃん!
「君専用のエアブーツ」
「わっ! ありがとう!」
アーリィーにプレゼントしたら大変喜んでくれた。
「履いても?」
「もちろん」
ただの革靴だったものが、グリフォンの羽根をあしらい、魔石がついた魔法具に変身した。
外側くるぶし部分に大魔石一つとグリフォンの羽根を8枚ずつ。つま先部分と、靴裏に小魔石を1つずつ設えてある。靴裏にはスライムジェルの緩衝材によって、底の魔石が地面に接触しないようになっている。
アーリィーはその履き心地を確かめる。その機能を確かめるため、庭に移動する。クリスマスプレゼントをもらった子供のように嬉しそうなアーリィーである。俺もにっこり。
最初から大ジャンプや加速は危ないので、まず小さなところから始める。慣れると壁蹴りを使った三角跳びで、壁を越えたり屋根の上に飛び乗ったりできるようになる。
エアブーツの話を以前聞いていた執事長のビトレー氏は、アーリィーの身を心配したが、先に渡した加護の腕輪を必ずつけてやるから大丈夫さ。
あの防御効果は、たとえ高所から落下したり、妙な体勢で落ちたとしても怪我一つしない。
とはいえ、いきなり無茶やって恐怖心を植えつけられても困るので、監督はするけどね。加速で庭の端から端まで駆け抜けたり――
「速いっ! 速いよっジン!」
お手本として、大ジャンプで寮の壁を蹴って、反動を利用して宙返りしてみせたり、そのジャンプ能力で、二階ベランダの手すりに掴んだり、登ったり。
「高い!」
「階段いらずだよな」
俺とアーリィーは庭を見下ろす。いつの間にか見守っていたオリビア隊長に気づき手を振るが、当の近衛騎士隊長殿は、少々青ざめているご様子。ハラハラしているんだろうね。
それにしても、アーリィーは飲み込みが早いよな。
歩きや走るよりも速いそのスピードにアーリィーは、子供のようにはしゃいでいた。
青獅子寮の屋根から飛び降りたら……ギャラリーが増えていた。
「アーリィー様! そ、その靴は魔法具なのですか!?」
サキリスとマルカスが食いついた。そりゃ、庭で訓練していたんだもん。気づかないわけがないよな。
「お師匠」
「わっ! って、ユナか」
ギルドから戻って教官寮にでも戻ったと思っていたのに、いつの間にかきてた。
「殿下の靴とお揃いですね。それも魔法具ですね?」
「そうだよ」
「どこで手に入りますか? これもひょっとしてお師匠が作ったのですか?」
ユナは、俺が武具合成で魔法杖を作ったところを見ている。売られていない魔法具を見て、ピンときたのかもしれない。
「作った? 本当かジン?」
マルカス、そしてサキリスも俺に詰め寄ってきた。
「わたくしも、ぜひ欲しいですわ。何でもしてあげますので、くださいませ!」
おおう、押し倒す勢いで迫るな、美少女め。
「わかったわかった。作るから――その何でもするって言葉、忘れるなよ?」
「っ! も、もちろんですわ!」
「お師匠。私も、ぜひに。……頂けるのなら、色々やってあげます」
何をしてくれるんだい、ユナ公?
「わかった。お前の分も用意してやる」
だから生徒の前で、その大きな胸を突き出すように近づけるのはやめなさい。
「おれも――」
「心配するな。仲間はずれにはしないよ、マルカス」
ということで、この3人にもエアブーツを調達することになった。素材については、ディーシーに頼めば用意できるし、俺がアーリィー用に作ったものを記録させてあるから、次から作る分は、サイズだけ気をつければ、ポンポン量産できる。
もう俺が、武具合成しなくてもいいもんね。ディーシーの記録癖、万歳!
・ ・ ・
ディーシーに、エアブーツを生成してもらいに俺はウェントゥス地下秘密基地へと飛んだ。
「すっかり兵器庫の番人だな」
「ダンジョンコアは、物作りが好きなのだよ、主」
ディーシーは笑った。
格納庫にいた彼女の後ろには、現代風戦車が、緑と灰色の迷彩塗装が施されて置かれていた。
「できたか?」
「ああ。試作車を走らせて、問題点を解消した完成品だ」
TBT-1。トキトモ式戦車1型『リンクス』。山猫だ。
大帝国製8センチ速射砲を改造した、長砲身8センチ戦車砲1門、7.7ミリ魔法機関銃1丁で武装し、煙幕魔法を仕込んだスモークディスチャージャーを装備する。
車体はテラ・フィディリティアの履帯式タンクのそれを応用。魔力エンジンにより最大時速50キロで走行可能。
「テストに引き続き、シェイプシフター兵に訓練させている」
「とりあえず、第一号ができたわけだ」
実は、他に足回りに浮遊推進を採用した超高速地上戦車についても、研究中である。
「まあ、一応作ってはみたが、どれほど使えるか……」
今のところ、航空艦艇と戦闘機に比重が置かれているからな。陸戦兵器としては魔人機があるわけで共同運用も考えているが、優先度はそこまで高くない。
「そういえば主。こちらで設計した小型空母だがな、もうじき完成するぞ」
「本当か。早いな」
艦艇の建造なんて、普通なら年単位の仕事だ。ディーシーは微笑む。
「魔力生成での建造をなめないことだ」
材料の調達から実際の組み立てまで、すべて魔力でできるっていうんで、そのスピードは破格だ。
「なら、近いうちに編成できるな」
空母機動部隊ってやつが。
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