第190話、それぞれの対処


 ゴブリンスカウトを倒し、少し進んだ後、本隊であるゴブリンの集団と交戦した。


 突っ込んでくるゴブリンたちは、前衛のサキリス、マルカスが苦もなく返り討ちにした。魔法騎士生としては腕利きであるふたりにとって、一対一ならゴブリンなど簡単に葬れたのだ。


 アーリィーはマギアバレットで、前衛の側面に回りこもうとするゴブリンを狙い撃つ。彼女には向かって右の敵、ユナには左の敵を撃つように割り振ることでスムーズに数を減らしていった。


 俺とベルさんは様子見しているだけで戦闘は終わった。……こんな低層で、苦戦するようでは先が思いやられるがね。


「一度に複数を相手にすると、少し手間取るな……」


 マルカスがそんなことを呟いた。怪我はしていない。上手く立ち回ったことに少し満足げではあった。ベルさんが俺のズボンの裾を引っ張った。


「おい、ジン、一言アドバイスしてやれよ」


 アドバイス? マルカスが目を丸くした。


「何か、おれはやらかしたのか?」

「いや、君が何かやらかしたわけではないが。……ひとつ確認するがマルカス。付加魔法は使えるか?」

「身体能力や武器に属性をつけるあれか? 使える……というレベルじゃないな。少なくとも実戦では」

「サキリス、君は電撃を剣に付加できたな?」

「ええ、それがどうかしましたか?」

「何故、それをしなかったんだ?」


 俺が問うと、サキリスが首をかしげた。


「ゴブリン程度、電撃を付加しなくても余裕ですわ」

「ふむ。だが使っていれば、もっと早く決着がついたんじゃないかな?」

「それは……そうですけれど」


 サキリスは口を尖らせた。


「魔力の温存ですわ!」

「なるほど、魔力の温存か」


 俺が言えば、ベルさんも「魔力の温存」と繰り返した。


「これは前もって言わなかった俺のミスだな。お前たちは魔法を温存しなくていい。使える魔法を使える機会があったら、ドンドン使うように。それで消耗したと感じたら、早めに申告してくれ」

「帰りのことは考えなくていいのか?」

「今回はお前たちの力を見たい」


 俺は腰に手を当てる。


「実戦でどの程度魔法を使えるのか、自身で限界を実感してほしい。ぶっちゃけ、俺もユナもいるから帰りの心配はしなくていい。きちんと連れ帰るからさ」

「ある意味贅沢だぞ、お前ら」


 ベルさんが言った。


「普通は帰りの分も考えてやれ、なんて言われるところだけどよ。オレたちが帰りは楽させてやるんだから。死なない程度に派手にやれよ? こっちは責任をもっておうちまで帰してやるからな……ジンが」

「俺かよ! いや、まあ、そのつもりなんだけど。なあ、ユナ――」


 俺が視線を向ければ、銀髪の巨乳魔法使いは、そっと顔を逸らしやがった。おい、俺一人に責任ぶん投げるつもりか。


 ……だが残念だったな、教官殿。社会的見地から見た場合、教官が同行している以上、責任の比率はあなたのほうが高いのだよ。


 探索再開。その後も、少数のコウモリだったり、スライムだったり、スケルトンだったりが現れた。


 魔法使い組にとってスライムは雑魚だが、はたしてルーキーたちはどうなのか。


「スライムはたしか、炎に弱いんだったな。紅蓮の炎、我が指先より離れ、敵を焼き尽くせ! ファイアボールっ!」


 マルカスが珍しく攻撃魔法を使った。彼が魔法を使うのを初めて見た。


 呪文は大層だが、魔法使いから見ると、悲しいくらいの火の玉が飛び出してスライムに命中。だが火が弱点のスライムは派手に燃え上がる。


「おおっ!? すごく効果的だな!」

「そうですわね。貴方のファイアボールでこれならば!」


 サキリスが何気に毒を吐いたが、魔法が効果的であることがはっきりわかっただろう。できれば剣で少し斬って、物理耐性の高さも経験してほしかったが。


 まあ、スライムだってこの一匹だけじゃないだろうし、そのうち出くわすだろう。


 少し進めば、今度は徘徊するスケルトンの集団と戦闘。骸骨の集団は、基本的にノロマだ。マルカスやサキリスの剣でも、骨を斬るのは容易い。


「ちっ、頭や腕を飛ばしても、まだ動くのか!?」

「ライトニングでも、当たり所が悪ければ効かない……」


 サキリスが両断したスケルトン、その下半身がまだ歩いているのを見て歯噛みした。


「麻痺魔法も効かないし、動きは単調ですけれど、面倒ですわ!」


 アーリィーが魔法、エアブラストを放った。風の一撃はスケルトンを丸ごと吹き飛ばし壁に激突させて骨を粉砕した。あいつら、骨しかないから体が軽いんだよな。


 ユナが蹂躙者の杖を掲げ、スケルトンを数体焼き払う。


「ここのスケルトンは、魔力で動いている。倒しても、時間が経てば、また新しいスケルトンが現れる。でも砕けた骨などを再生させるのはすぐにはできない。で、あるならば――」


 ユナの後を引き継ぐように、俺はエアブーツでの加速で滑るように前線に躍り出る。古代樹の杖で、スケルトンの足を砕いた。倒れる骸骨。


「足をどうにかすれば、一応動きを止められる。それでも手が残っていれば、這いずってでも前に出ようとするが――」


 移動に腕を使えば攻撃できず、こっちは叩きたい放題である。腕の骨を砕き、頭を砕いてやれば、スケルトンは動かなくなった。


 それを見た前衛組は、骸骨どもの足を砕き、倒してからそれぞれの部位を破壊していくやり方に変えた。


 途端に、スケルトンたちは一掃された。頭だけになって動いていた頭蓋骨は俺が蹴飛ばす。スケルトンは倒しても旨みがないんだよな……。


 アーリィーが神妙な調子で口を開いた。


「スケルトンって、投射武器だと相性がかなり悪いよね」

「急所ってのがないからな。かなり悪い」


 俺は頷いた。


「普通の矢だと、刺さるだけ。足を狙うのも、細いからよほどの腕でないと当てられないだろうし」


 心臓とか脳があれば、そこを射抜けばお終いなんだけどね。

 ベルさんがアーリィーを見上げる。


「まあ、骨といってもそこまで硬くねえからな。ちょっとした鈍器で砕けば楽勝よ」

「見た目のおぞましさに耐える必要もあるけどね」


 慣れてしまえばいいのだが、動く骸骨なんて、普通に考えればホラーだから。それにびびらない勇気ってものが必要になる。……ほんと、慣れてしまえば全然怖くないんだけど。 と、そこで、ピンとベルさんが背筋を伸ばした。


「おやおや……これは、初心者には難度が高い奴らのお出ましだぜ」


 魔獣の気配を感知したのだろう。俺が他のメンバーに警戒の合図を送る。


「気をつけろよ。どうやら血に飢えた肉食獣どもが、こっちを取り囲みつつあるぞ……」


 このあたりで、ベルさんがそんなことを言う魔獣となると……やっぱアレかな。


 ラプトル。高速移動の小型肉食獣――

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