第77話、フライングマンタ
へえ、ボスケ大森林と一言でいっても、場所によって雰囲気が結構変わるんだな。
フライングマンタを探して帰還ルートから離れた俺たち。先ほどまでより木の高さが倍近く変わっていて、上のほうは薄暗くはあるが、地面の草が微妙に光りを発しているのか明るかった。
こういう妙な環境って、ダンジョンにいるみたいだ。
さて、肝心のフライングマンタだが……。
「思ったより大きいか……?」
全幅4、5メートルくらい。海の中をゆったり泳ぐように、空中に浮かんでいる。背の高い木の枝の下をゆっくりと進んでいた。
体のいたるところがごつごつしているが、あれが魔石っぽいな。いったいいくつ魔石を体に埋め込んでいるんだこれ?
「お、こっちへ来るぞ」
ベルさんがデスブリンガーを構えた。フライングマンタはゆっくりと向きを変えて近づいてくる。
ディーシーが淡々と言った。
「気をつけろ。体が発光している時は、襲いかかってくるぞ」
魔石がキラキラしてるー。なるほど、魔法的効果を発動中ないし、発動間近ってことね。
ベルさんが駆けた。
「なら、先手必勝だ!」
近づいてからジャンプして斬りかかるって寸法なのだろう。暗黒騎士が向かっていく――と、その進路上にある茂みが動いた。
「ベルさん! 前!」
「わかってる!」
茂みから巨大な肉食植物――マンイーターが複数伸びてきた。いや、その茂みがマンイーターの擬態だったのだ。
「ちっ、意外にでかい……!」
ベルさんがマンイーターの連続攻撃を凌いでいる間に、フライングマンタが通過して、俺たちのほうに迫る。バリバリと発光、その瞬間、こちらに電撃が飛んできて土をえぐった。
「アーリィー様!」
オリビア副隊長がアーリィーの前に出た。近衛騎士の中で、魔法が使える者がアイスブラスト――氷つぶてを発射した。アーリィーも魔法銃を撃った。
大きな的だ。はずしようがない。しかし――
「弾かれた!?」
なんとフライングマンタは防御魔法を展開したらしく、魔法攻撃を無効化した。飛行するマンタはお返しとばかりに電撃を放ってくる。しかし、ろくに狙いもつけられないのか、かすりもしない。
同時に、どこを狙っているのか読みにくいとも言えるが。
「どれ、物理攻撃には耐えられるかな?」
俺はストレージから槍を一本取り出す。筋力アップを自身にかけて、
ギュン、と飛んだ槍はフライングマンタの正面から突っ込み、そして弾かれた。あの防御は魔法だけでなく、物理にも効果があるらしい。
「まあ、所詮は防御魔法なんだろうけど――」
「ジン、どうしよう!? これ以上、近づかれると……」
アーリィーと近衛騎士たちが焦る。フライングマンタは
そのふてぶてしい面を吹き飛ばしてやろう。俺はストレージから、とある槍を選択。青みがかかったその短槍は魔法金属製。その刃に時限式の即席魔法文字を刻み、準備完了。
「今度のはただの槍じゃないぞ……!」
再び投擲。今回も防御魔法で止められたに見えた瞬間、俺の投げた槍はそのままフライングマンタに突き刺さった。
「抜けた!?」
「あの槍は魔断槍。魔法を切り裂く槍だ。そして――」
突き刺さった槍に仕込まれた時限式魔法が発動した。エクスプロージョン! 爆裂魔法が炸裂しフライングマンタの体を真っ二つに引き裂き、墜落させた。
「ざっと、こんなもんかね」
「凄い! やったよジン!」
嬉しさのあまりにアーリィーが抱きついてきた。もっとも喜びを分かち合うハイタッチ的なノリだったので、すぐに離れたが。
近衛騎士たちが安堵した。何やら剣に気を溜めていたヴォード氏もブンと大剣を振った。
「無駄になってしまったな」
直後、ドォンと音を立てて、ヴォード氏の技を受けた大木が折れた。すげぇ威力。俺が手を出さなくても、このドラゴンスレイヤーさんならやったかもな。
「どうやったんだ、ジン?」
「魔法無効の槍に、爆裂魔法を仕込んで投げたんですよ」
俺は魔断槍を回収。それと、ベルさんは……。あ、マンイーターどもをやっつけたようだ。
さてさて、フライングマンタの死骸もストレージに回収っと……。
アーリィーが俺のそばに立った。
「ジンのストレージには何でも入ると同時に、凄い武器とかも入っているんだね」
「まあな」
某ネコ型ロボットのポケットのように、これまでの冒険やらで集めたアイテムが入っているのだ。
・ ・ ・
少々寄り道はしたが、俺たちは無事にハッシュ砦へ帰還した。
もう日が暮れ初めていて、今からだとフメリアの町までに到着する前に夜となってしまう。宿などで一泊を考える頃合いではあるが――
「浮遊リフトで帰りましょう」
徒歩では無理でも、高速の浮遊リフトならギリ間に合うだろう。何より、乗ってるだけでいいので疲れないし。
行き同様、4台に分かれて乗り込みハッシュ砦から出発。シェイプシフターの化けた馬はどんどん加速するが、リフトは浮遊しているので揺れはほとんどない。
アーリィーが俺の肩に寄りかかってきた。
「疲れた?」
うん、と頷く王子様を演じるお姫様。
「横になってもいいよ」
スペースに対して人数も余裕があるから、寝っ転がっても迷惑にならない。
うん、と小さく返事をしたアーリィーだったが、睡魔が押し寄せているのかそのまま俺の肩から動こうとしなかった。可愛いやつめ。俺はそのままにしておいた。
かくて、高速浮遊リフトは日没前にフメリアの町に辿り着けた。
例によって停止の際に急速ターンをかましたのだが、お疲れ状態の近衛騎士が遠心力で振り回されて転げ落ちるハプニングがあった。
まあ怪我もなく、笑い話で済んだんだけどね。
近衛騎士たちが整列し点呼している間、ヴォード氏が俺のもとに来た。
「今日は久しぶりに楽しい現場だった。お前とはまた一緒に冒険したいもんだ」
「充実の下見だったようですね」
王都の冒険者たちを呼び込む手前、いい宣伝材料も得られただろう。
「正式に解放する前に、いくつか冒険者パーティーをお試しとして実地調査をやらせる。そっちも本番前の予行になるだろう。……じゃ、オレはギルドに帰る」
またな、とヴォード氏は冒険者ギルドへ帰っていった。
じゃあ、俺たちも帰って休むか。長い一日だった。
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