第50話、森の中の遺跡


 ボスケ大森林の奥、未踏地域。


 俺たちは、昨日設置したコピーコアのもとまで戻ってきた。そこで小さな祠のようなカモフラージュと共に地下への階段が伸びている。


「侵入の形跡は?」


 俺の問いに、ディーシーは答えた。


「ない」

「こんなところに、いったい誰がやってくると言うんだよ」


 暗黒騎士姿のベルさんがいった。深い森の中である。


「そりゃそうか」


 ギガントヴァイパーとか、凶悪過ぎる化け物がいる場所とくれば、そりゃ簡単に踏み込めないよな。


 1フロアしかない、即席ダンジョン。設置されているコピーコアは、この辺りの魔力を吸収、蓄えていた。


 ディーシーが確認する。


「ふむふむ、魔力は濃厚。この辺りは魔力の貯まりが早いな」

「そいつは結構。秘密基地には打ってつけだな。ダンジョン・クリエイトと行こう」


 俺はディーシーに合図して、彼女の設置したテリトリー範囲内の地形操作、ダンジョン構造物の設置を始める。


「何はなくとも、魔力収集用の部屋を設置」


 今後の活動のために、魔力を貯めておく施設を最優先だ。


 ホログラフィック状のウィンドゥを表示。魔力を使って地下に通路を引いて、地面をくり抜き部屋を置く。昔やったダンジョン製作ゲームみたい。


「うーん……?」


 ウィンドゥ上に、妙な構造物が現れる。これは……。


「ディーシー、これ建物か?」

「もう少しテリトリーを広げてみる」


 ダンジョンコアの少女は目を閉じ、自らの勢力圏を拡大する。ウィンドゥの構造物の数が増えた。


「……どうも遺跡のようだな。古い時代の」

「未踏地域に古代文明の遺跡かよ?」


 なにそれ、気になる。ベルさんが顔を上げた。


「つーことは、まだ誰にも荒らされていないってことか?」

「未踏地域が、本当に未踏ならな」


 荒らされていない遺跡なら、お宝とかあるかもしれない。


「見に行こうぜ!」

「……とりあえず、収集部屋を置いてからな」


 他にも秘密基地っぽく地下工場とか作ろうと思ったのだが、まあ、後回しでよかろう。遺跡が気になるし、もしかしたら秘密基地の一部に利用できるかもしれない。


 ダンジョン作りも、一から全部作るより、遺跡や地形を流用したほうが、消費魔力の削減になるからね。



  ・  ・  ・



 ということでやってきたぜ、森の中の遺跡。


 四角く加工された石材の通路や、崩れた壁が森の木々の間で見え隠れしている。


「へぇ……これ、ひょっとして昔は町だったかもしれないな」


 俺は周囲を見渡しながら前進する。ディーシーがマップを作成してくれたので、おおよその地形がわかる。


「まあ、かなり自然に浸食されちまって、まともな建物は残ってなさそうだがな」


 ベルさんが両手にそれぞれ片手剣を持っている。場所が比較的狭いので、大剣より小回りの利く武器に持ちかえているのだ。


「……そして今では魔物の巣窟だ」


 ディーシーはマップの赤い光点を表示させる。敵性存在――


「ゴブリンか」


 ぎゃっ、と悲鳴があがった。茂みから奇襲をしようとしたゴブリンが、ベルさんに刺されたのだ。


 俺は建物の残骸の二階部からクロスボウを構えていたゴブリンを、魔力の手で掴むと引きずり出した。宙を飛んできたゴブリンはそのまま近くの岩に激突して果てる。


「まあ、こいつらが住処にするのもわかるよな」


 廃墟遺跡を巡り、そこに居着くゴブリンやブラッドハウンドを倒していく。


「気をつけろ。オーガがいるぞ」


 ディーシーの警告が飛ぶ。近くの岩壁が崩れ、巨大な槌を持った大鬼が現れた。うーん、背が高い!


「ウオオオォン!」


 獣のような咆哮をあげてオーガが突っ込んでくる。しかし、ベルさんがすれ違いざまに剣の連撃を叩き込めば、その手首と丸太のような首が飛んだ。


「オーガって、ランクはどれくらいだっけ?」

「通常のオーガならBランクってところだろ」


 俺はディーシーを見た。


「この辺りにもコピーコアを置いて、魔力をコントロールしよう。モンスターが群れないように」


 魔力が豊富な場所によってくる傾向になるからな、連中は。


 ベルさんは、ひょいと近くの建物の屋根に飛び乗った。穴が開いていて、落ちないように気をつける。


「うーん、町、寺院かな? ここも拠点の範囲にするのか、ジン?」

「利用できるものは利用するぞ」


 飛空船用のドックとかも作りたいね。


 廃墟遺跡の地下も探索する。普通に小部屋のような場所は、シェイプシフターを使ってそれぞれ調査させる。


 地下道、とくに深そうな場所を俺たちは見て回る。ジャイアントスパイダー、はっけーん!


 真っ暗な場所で巨大蜘蛛とか気味が悪いぜまったくよう。


「あー、クモがぴょんぴょんするんじゃー」


 地下通路を真っ直ぐにジャンプで距離詰めるのも、しゃかしゃか動いてくるのも怖いぞこの野郎。


 そんなこんなで、ようやく地下を制したら一日が終わりそうだった。ここまでめぼしいお宝とか特になし。


「今日はここまでにするか」


 続きはまた明日。


 シェイプシフターに見張りと調査を頼みつつ、俺たちはフメリアの町に戻った。


 すると、伝令のブルト隊長を乗せたウェントゥス号が帰ってきていた。


 近衛騎士に呼ばれたので、領主屋敷に向かう。アーリィーとブルトが俺たちを迎えた。


「アーリィー殿下が、ルーガナ領の新領主に任命されました」

「……」

「へー、アーリィーがここの後釜か」


 てっきり誰か貴族がやってきて、俺たちは撤収するのかと思っていた。


「おめでとう」

「……ありがとう」


 しかし、アーリィーの顔は冴えない。どうしたん?


「この領地、何もないんだけど」


 深くため息をつくと、王子様は頭を抱えるのだった。

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