第37話、領主町制圧
巨大ゴーレム、我らの敵にあらず。
生身の俺とベルさんにやられているようでは、大帝国の新兵器も大したことないな。
人間の持つ武装や、そこそこの魔法を弾く鋼鉄の装甲は、おそらく対人戦で圧倒的な力を発揮しただろうが……相手が悪かったな!
おや、最初に倒した煙突頭の腹部が開いた。ひょっこり頭を出したのは革の飛行帽っぽいものを被った兵士。
パイロットがいた! こいつはゴーレムじゃない。有人型メカが確定!
ふと、空から砲声が聞こえた。ウェントゥス号だ。飛空船の側面に搭載された8センチ速射砲が下を向いて、地上のゴーレム、もとい人型兵器を砲撃している。
狙われている人型――煙突頭は、周りに砲弾を撃ち込まれて右往左往している。上空の敵を攻撃できる手段がないんだな。
見ているうちに一弾が、煙突頭の肩に直撃して装甲を砕いて爆発した。
「8センチ砲なら抜けるな、あのタイプは」
後は装甲の厚い角付きに効くかどうかだな。
「それにしても……」
俺は周囲を見渡す。町の中には、例の公爵軍と思われる兵士と、反乱軍兵の死体がそこそこ見えるが、生き残っている奴の姿を見ないのはどういうわけか。
人型兵器が動いていて、こいつらが公爵軍を蹴散らしたのは見たが、反乱軍兵はどうしたのか? 人型兵器に任せて屋敷にでも撤退したのか?
『ジン、終わったぜ!』
ベルさんからの魔力念話。動いている人型兵器の姿はなかった。
『主よ、聞こえるか?』
『聞こえているよ、ディーシー』
ウェントゥス号のディーシーからの念話が届いた。
『敵ゴーレムは全滅したようだ。屋敷へ降下させてもいいのか?』
『ああ、やってくれ。俺もそちらへ向かう。ベルさん?』
『おう、領主屋敷で合流な!』
さて、人型兵器の操縦士は逃げたが、他の反乱軍兵へどこかなぁ? 俺は屋根を蹴り、領主屋敷のある方へ向かって跳躍する。
損傷が目立つ町の建物。人型兵器と公爵軍が戦った跡が生々しく残る。いまなお燃え続けている建物もある。石畳の道路に穴があったり、無数の瓦礫が散らばったりしている。……そして死体もな。
ウェントゥス号が降りてくる。領主館の前の大きな庭に着陸。金持ちの邸宅は庭も広いな。
俺が到着した時、領主を守る騎士や兵士が出てくると思ったのだが、その姿は皆無だった。
……妙だな。
ウェントゥス号の後部ハッチが開き、シェイプシフター兵と近衛騎士たちが飛び出して周囲へ展開する。
シェイプシフター兵は魔石銃を館の入り口や窓へと向けて、急な出現や狙撃を警戒。近衛騎士たちも盾を構えて備えたが、どこまでも静かだった。
「静か過ぎるな」
暗黒騎士がふわりと、俺のそばに着地した。
「本当に領主はいるのか?」
すでに逃げ出したのでは、とベルさん。ここまで反応がないと、かえって不気味だぜ。
「スフェラ、内部の様子はわかるか?」
潜入しているシェイプシフターとリンクできるシェイプシフター杖ことスフェラに確認する。
『領主は奥の部屋に健在。あと敵兵が正面入り口にて待ち伏せをしています。扉を破ったらクロスボウで攻撃してくる模様』
「……聞いたか、ベルさん」
「待ち伏せしているなら、話は早い」
暗黒騎士は悠然と館の入り口へと歩く。ブルト隊長ほか近衛騎士らは扉の前で侵入しようしていた。
「待て。扉を開けたら蜂の巣だぞ」
ベルさんが注意し、近衛騎士らをどかせる。ベルさんを先頭にシェイプシフター兵が待機する。
暗黒騎士が手を前に突き出す。爆発魔法が発動し扉を吹き飛ばした。
・ ・ ・
敵が来る。領主館の入り口にはルーガナ伯爵を警護する騎士と兵士らが集まって侵入に備えていた。
クロスボウを構えた兵士が並び、入ってきたところを狙撃。ひるんだところで騎士たちが突撃する――そういう段取りだった。
外にいた魔人機が、何者かわからないが攻撃を受けた。ケーニゲン公爵軍による攻撃を跳ね返した直後の出来事であり、騎士たちも実は状況がよくわかっていなかった。
ただ領主を狙ってくる者がいるならば、撃退しなくてはならない。それが彼らの役割なのだから。
「来るぞ……」
庭に飛空船が降りたのは知っている。そこから敵兵が乗り込んでくる。
緊張。圧迫感に口の中が渇く。
クロスボウを構える兵士たち。弓と違ってクロスボウは構えにスペースをあまり取らず、また射撃しやすい形状をしている。唯一、装填に時間がかかる傾向にあるが、その威力は騎士のプレートメイルをも貫通する。
扉の前に一瞬影がよぎった。敵兵がいる。開けたら射撃して――
爆発が起きた。ドォオンと轟音と共に扉が吹き飛び、さらに煙が流れ込んだ。
扉の破片と衝撃、そして煙に兵たちが思わず顔を守ったその時、電撃が走る音が連続し、漆黒の敵兵が飛び込んできた。
一瞬の怯みから構え直そうとした兵たちに電撃弾が直撃する。
「うわっ!」
「アアァァー!」
打ち倒される反乱軍兵。素早く立ち直った兵のひとりがクロスボウを発射。放たれた矢は侵入してきた漆黒の敵兵の頭に当たったが……それだけだった。
まるで何事もなかったかのようにその敵兵は手にしたクロスボウのような武器を向けて、電撃弾の反撃を放った。
領主館を守る兵士も、騎士も次々に倒されていく。
正面入り口は制圧された。漆黒の兵たちは館内に侵入し、さらに暗黒騎士が入ってきた。見る者を威圧する恐怖の騎士。だがその姿を見た反乱軍兵は、少なくともここには残っていなかった。
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