第36話、フメリアの町攻略戦


 反乱軍陣地で、ルーガナ伯爵につけたシェイプシフターが、彼の居場所を知らせてくれている。


 シェイプシフター杖である漆黒の魔女スフェラは、自身の分身体の位置を把握する能力があるのだ。


「ルーガナ伯爵は、領主館にいます」

「オーケー。まずは邪魔な巨大ゴーレムを排除して、その後、領主館を包囲して身柄を確保しよう」


 俺が言うと、ブルト隊長が一歩進み出た。


「本当にあのゴーレムを倒せるのですか?」

「そのつもりです。ベルさんが言いましたが、ドラゴンを相手にするよりは楽です」


 即答である。


「では、領主館の包囲と身柄確保は、我ら近衛隊が。せめてそれくらいはやらせてください」

「わかりました。……町の守備隊も公爵軍と戦ったとはいえ、まだ残っているだろうから、ディーシー、スフェラと協力して阻止してくれ」

「倒してしまってもいいのだろう、主」


 ディーシーは挑むように言った。不敵な笑みは自信の表れである。


「構わないが、投降した奴は殺すなよ」

「承知している」


 うん、頼むよ。


「じゃあ、俺とベルさんで、ゴーレムを掃除する。それが終わったら、ウェントゥス号は降下して近衛とシェイプシフター部隊を展開させろ」


 それと、ウェントゥス号には上空からの支援射撃をやってもらおう。ゴーレム退治と、兵を降ろした後に再浮上して、上から砲撃させる。8センチ速射砲の威力をとくと見せてもらおう。


「アーリィー……王子殿下は、ここで戦況を見ていてくれ」

「え……?」

「君は討伐軍の総大将だからね。前線に出てきて万が一なんてことがあったら困る」

「そうですな」


 ブルト隊長も頷いた。


「護衛を残します。あなた様は国王陛下の後継者であらせられます。万が一があってはなりません」

「でも……」


 アーリィーは戸惑った。


「ボクは何も……していない」

「総大将ってのは、座っているのが仕事だ」


 ベルさんが言った。


「オレたちの働きをしかと見届けて、王様からオレたちへの報酬をたっぷりふんだくってくれ。それが総大将の仕事だ」


 ベルさんのマジ口調のジョークに俺は笑う。うまいこと言うなぁ、魔王様。ブルト隊長も控えめに微笑している。


「よし、仕事にかかろう!」


 かくて、フメリアの町攻略戦は開始された。



  ・  ・  ・



 俺とベルさんは、短距離転移で町に降りた。


 炎上している町。熱気と死臭が漂い、日常が失われた地獄のような光景が広がっている。


 ウェントゥス号はフメリアの町の上空へと侵入。地上の大型ゴーレムもそれに気づいたらしく、空を睨んでいる。


 ……いい囮になっているな。


「じゃあ、早い者勝ちな」


 ベルさんは暗黒騎士姿になっている。魔法による大ジャンプで燃えていない民家の屋根へと飛ぶと、ジャンプを繰り返して建物から建物へ移動していく。


「じゃ、俺も行きますかね」


 浮遊――魔法でジャンプ。町の中にいる巨大ゴーレムは二種類いるようだ。


 丸身を帯びた装甲、見るからに頑丈そう胴体と太い手足を持つ角付きと、案山子のような細身のボディに煙突型の頭――こっちはゴーレムというより人型メカっぽい印象が強い。まあ、角付きのほうも、鋼鉄の装甲を見るにゴーレムというよりメカなのだが。


「なーんか、胴体に操縦席があってパイロットが乗ってそうに見えるんだよなぁ」


 本当にゴーレムか? 大帝国は異世界から召喚しまくっていたから、異世界人の技術で作ったロボットじゃないかとも思う。


「とりあえず――」


 俺はストレージから魔法杖を取り出す。


「上級魔法で様子見、だっ!」


 サンダーストライク! ライトニングの上級魔法。強力な電撃弾を発射。並のゴーレムなら一撃貫通の威力だが――


 煙突頭の顔面――目に相当するゴーグル状の部位に直撃。貫通して、頭を失ったゴーレムは転倒し背後の民家を押しつぶした。


 この騒ぎだから民家に人は残っていないだろうが、ともあれ効いたな。俺は民家の屋根から倒れたゴーレムを見下ろす。


 ほら、動くか? ゴーレムならコアがあれば動くだろ……。


 ガシャァンと、近くにいた煙突頭が、俺のほうへ迫ってきた。仲間がやられて、速攻で潰そうってか?


 魔法杖を向けて、サンダーストライク!


 煙突頭が右腕を盾代わりにして、俺の魔法を防いだ。ま、その右腕はバラバラに砕けたんだけどね。


 飛び散る破片。どう見ても機械だこれ!


 片腕を失い、一瞬ゴーレムの動きが止まった。まさかやられるとは思っていなかったのか、動揺したのかもしれない。


 だがその動揺もわずか。すぐに左腕を振り上げたが――


「遅い!」


 敵の目の前で動揺したのが悪いのさ。もう一発サンダーストライクを胴体に撃ち込み、そのゴーレムをダウンさせる。


「二つめ!」

『こっちは三つめだ!』


 ベルさんの魔力念話が響いた。見れば、煙突頭が四肢をバラバラに吹き飛ばされて上空へと飛ばされていた。


 意外に脆いかもしれんな、あの煙突頭。だがあのいかにも重量級っぽい角付きはどうかな?


 巨大な戦斧を手に暗黒騎士に挑む角付き。だがベルは大剣デスブリンガーを手に、角付きに飛びかかり、一刀両断!


 はい、魔王様のパワーの前には、重装甲ゴーレムもバターのように切り裂かれる。はい、チート、チート。


 ガシャンガシャンと地面を踏みしめながら煙突頭が迫る。魔力を集約させて、プッシュ!


 見えない魔法の壁が高速で煙突頭に激突。トラックに弾かれるが如く、ゴーレムは吹っ飛んだ。


「確かに、こりゃドラゴンのほうが強いな」


 俺のほうにも角付きが向かってきた。どれ、こいつが機械であるなら、足の関節を壊したらやっぱ――


「動けなくなるのかなっ!」


 ガシン、と角付きの両膝が割れた。一瞬、膝より上が宙に浮き、足を失った角付きは次の瞬間、地面に落下した。

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