第21話、お役御免
俺たちを乗せた飛空船は、王都のすぐ近くの草原に着陸した。
浮遊石の浮遊効果って凄いんだな。ただゆっくり降りただけで、きちんと一発で着陸を成功させた。まあ、場所がほぼ平坦だったのもあるけど。
城壁に囲まれた巨大な都市。それが王都スピラルだという。上から見た時もかなり大きな町だった。王城があって多数の建物がひしめく様は、おそらくこの国一番の人口を誇っているんじゃないかな。
その王都から飛空船は見えていただろう。しばらくして、王都から偵察とおぼしき騎兵が来た。
外に出たブルト近衛隊長とアーリィーが、やってきた騎兵に戦地から戻ってきたことを告げると、ひとまず騎兵は王都へと戻った。
俺たちは、クリント他近衛騎士たちに、この船の動かし方をレクチャーして時間を潰した。
やがて城から迎えの一団がやってきて、アーリィーとブルト隊長ほか近衛騎士数名が王都へと向かった。
俺たちはクリントら近衛騎士の残りと船内で待機。何でも、王都内で船が降りられる場所を手配しているところで、場所が決まったらそこに移動させるのだそうだ。
「傭兵か」
ふん、とやってきた王国騎士は鼻で笑いやがった。まあ、正規兵にとっちゃ傭兵は胡散臭いんだろうけどな。
連合国の後からやってきた貴族どもを思い出して、ちょっと不愉快。……そういや、連合軍の間抜け貴族どもはどうなったかな? 大帝国に蹂躙されたかな?
・ ・ ・
アーリィー・ヴェリラルドにとって、父エマン・ヴェリラルドの対面は非常に重苦しかった。
「つい先ほど、討伐軍が反乱軍に敗北したと聞いた」
玉座から話しかける王の声は、鋼のように硬質だった。
よく戻った、との言葉もなく、反乱軍との戦いにおいての報告をさせられる。話が終わるまで、言葉を差し挟まなかった王だが、やがて重々しく言った。
「よくも、自分だけ逃げ帰ったな。未来の王たる者が命惜しさに我先に逃げるとは何事か!」
「……!」
――我先? 違う! ボクはっ――!
「陛下! 王子殿下は――」
「誰が発言を許可したか? ブルト」
顔を上げた近衛隊長を、エマン王は遮った。
――我先なんて、ない……!
アーリィーは顔が真っ赤になった。
お飾りの総大将だった。だが逃げ出したのは他の将たちが早かったし、王子の身を守り後退を促したのは近衛だけだった。
結果的に、逃げた将兵たちより先に王都についたのは、奪った飛空船に乗って帰ってきたからに過ぎない。
撤退順で言えば、アーリィーはほぼ最後尾だった。反乱軍に捕らわれてしまったのも、他の将たちが彼女を見捨てたからに他ならない。
――どうしてボクばかり……!
ことごとく悪い方向に転ぶ。あの場で討ち死にすればよかったのか――エマン王のよそよそしさを見れば、アーリィーはそう思わずにはいられない。
やはり父上は、ボクのことを嫌っているのだ――
「なんだ、その顔は?」
エマン王の声に、アーリィーは顔を上げる。冷徹、断固たる眼光にさらされ、アーリィーは萎縮してしまう。
絶対的な権力者。国王という貫禄。すべてに圧倒されてしまう。
「一丁前に悔しいか? ならばお前に、最後のチャンスをやろう」
エマン王は言った。
「反乱軍ひとつ討伐できぬお前を、民が国王としてついてはこないだろう。今一度、戦場に戻り、今度こそ反乱軍を討伐してまいれ!」
「!?」
「勝って名誉を取り戻すがよい。でなければ戦って華々しく散れ! さすれば死しても王族としての名誉は守られよう」
ゆけ――王は手を振って、退出しろと促した。
アーリィーは内から出かかった叫びを何とか押し止め、これ以上の叱責が飛ぶ前に王の間から出た。
色々言いたいことはある。まったく聞く耳を持たなれなかったことも不満だ。
確かに討伐軍は敗北した。アーリィーは指揮官としての務めを果たせなかった。無力でお飾りで、でも何かできたかもしれないのを何もできなかった。
非はある。だが、こちらの言い分さえ聞いてもらえないことの悲しさは、アーリィーの心を沈ませた。
――父上は、ボクに死ねと仰せだ……。
どうしてこうなったのか。――ボクが、わたしが王子をやっているのは、望んでなったわけではなく、父上に命じられただけなのに……!
・ ・ ・
飛空船は、王都スピラル上空に侵入した。王城近くの閲兵場にゆっくりと降下。その平らで広々とした土地に着陸した。
大きくて飛行する物体が目立たないはずもなく、王都の住民らが野次馬に集まっていた。王国の兵たちが見守る中、俺たちは、王国から派遣された騎士に船を引き継いだ。
「まあ、操縦については近衛騎士さんに教えたから、詳しくはそっちに聞いてくれ」
「うむ、わかった」
何やら偉そうな態度の王国騎士だった。暗黒騎士姿のベルさんが視線を向けた。
「で、オレらへの報酬はいつもらえるんだ?」
王国騎士は眉をひそめる。
「報酬……? あぁ、それなら後日、お前たちに出されるだろう。なにぶん今はこっちもゴタついているからな。詳細な報告を受けている最中だ」
「そいつはどうも」
俺は苦笑した。
「払うものを払ってくれれば、それでいいんだ」
傭兵らしく振る舞っておく。それはそれとして、後日ともなれば、ここに留まる理由もないな。
「じゃあ、俺たちはさっさと退散するとしよう。報酬はどこに受け取りに行けばいい?」
「王城に来い。近衛に取り次ぐように紹介状を渡しておく」
「どうも」
紹介状とやらを受け取ると、俺たちは飛空船から退散することにした。王国の騎士たちは、傭兵に冷ややかだなぁ。
「ジン様、ベル様、ディーシー様!」
近衛騎士のクリントら船に残っていた者たちが整列した。
「あなた方のおかげでまた王都に戻ることができました! ありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございましたッ!!!」」」」」
近衛騎士たちが一斉に頭を下げた。この光景には見守っていた王国騎士たちもビックリしていた。
たった数人でもさすが近衛騎士。集まると中々の音量だった。
「まあ、よかったな」
何となく照れくさくなって俺は手を振るう。
「お元気で。縁があったら、また会いましょう」
できれば、あの王子を演じているお姫様にも挨拶しておきたかったけど。無理だったなぁ。もう二度と会うことはないんだろうな。……残念だ。
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