第8話 世界は壮大

「えーー!」


 ルドたちは驚きを隠せないでいた。


 バルバトスのにじみ出る品格に何処かの偉い人なのかもしれないと思っていたが王国騎士団副団長とは予想外だ。どうりで強い訳だ。


 王国騎士団であれば魔族も追うだろう。ルドは一人、納得しつつ新たな違和感に気がつく。


 エリナも同じ違和感に気がついたらしくバルバトスに問いかける。 


「騎士団副団長なのに討伐は一人なんですね」


 そう。魔族が相手であれば小隊で来ていてもおかしくはない。


 そんなエリナの疑問に苦笑してバルバトスは答える。


「最近は特に人手不足が深刻でね。隣国のウェパルに災厄が現れ、数を増す魔族絡みの事件の対処。挙句あげく、この国にも死神が出没して大変だよ」


 バルバトスは手が付けられないよと若干、あきれながらそうぼやく。


 情報量の多いなげきに付いていけずルドは一つずつ情報を整理する。

 隣国のウェパルが災厄により滅びたことが原因でこの国にも緊張が張り詰めているのだろう。その中で出現数を増す魔族の対処? 魔界と人界を繋ぐ渓谷けいこくは守護者によって護られているはずじゃなかったのか?


 なぜか隣でエリナが暗い顔をしていたが、気にせずバルバトスへと疑問をぶつける。


「守護者が護ってたんじゃないのか?」


 ルドの疑問にバルバトスは察して答える。


「知らないのかい? 魔族の大規模侵攻があったことを」


「知らないんですか!? 大事件だったのに」


 二人は信じられないといった風に俺を見てくる。


 大規模侵攻があったなんて初耳だ。外の話をあまりしてくれなかったヒューゴを少し恨みながらも話をうながす。


「王国最強の三人の一人。守護者リアムは知っているね?」


 バルバトスの確認に頷いて答える。


「そのリアムさんが渓谷を守護していたんだけど二年前、突如とつじょとして魔族数百体での大規模侵攻が始まって、それをリアムさん一人で応戦、そして撃退した。だけど一部の魔族を討ち漏らし、人界への侵入を許してしまったんだ」


 とここまで話を聞いていたが守護者リアムの規格外さに驚きが隠せない。


「侵入した魔族は各国が総出で討伐、不本意ながら死神の力もあり侵入した魔族による被害は激減した」


 聞きなれない単語の登場に再びルドは困惑を見せる。


 死神。そのいかにもっていう感じの名称は何なのだろうか。


「その度々出てくる死神っていう名前は何なんだ?」


 エリナが、え? それも知らないんですか? とこぼしていたが補足してくれる。


「いつから現れたのかは不明ですが、黒の外套がいとうにフードを被った謎の存在です。大きな事件が起こると何処からともなく現れます」


「それの何処が死神なんだ?」


「話は最後まで聞いてください」


 とルドを注意して話を続ける。


「その死神が現れると犯人が必ず死ぬんです」


 おとぎばなしのような突拍子とっぴょうしのない話を聞かされ理解が追い付かない。


「それは殺されたってことなのか?」


「いえ。衰弱死すいじゃくしです。死神が現れると事件の犯人は必ず衰弱して死ぬんです」


「持病とか寿命で死んだんじゃなくて?」


 にわかには信じられずバルバトスへ確認の視線を送る。


 ルドの視線を受け取ったバルバトスは首を縦に振り答える。


「にわかには信じられないだろうけど本当だよ。死神が現れると犯人は必ず意識を失い倒れている。そしてそのまま目を覚まさず死に至る」


 バルバトスはまるで見てきたかのように語って聞かせる。


「でも犯人だけだろ? 何が問題なんだ?」


「大問題だよ。事件の動機は分からず、正しい裁きは下せない。殺すことだけが罰じゃないからね。それに相手が罪人とはいえ平気で人を殺す人間がいれば秩序ちつじょが乱れる」


「でも魔族退治もしてくれるので、一概いちがいに悪とは言えないんですよね」


 死神を擁護ようごしているわけではないと思うがエリナがそんな感想を口にする。


 知らない世界の情報に刺激を受け、ルドは世界は広く壮大そうだいなのだと実感する。


 そんなこんなで話していると村が見えてきた。

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