第7話 衝撃の自己紹介

 朝になり、出発の準備を始める。準備と言っても持ち物は刀ぐらいなのだが。


「おはようございます」


「あぁ。おはよう」


 エリナと挨拶を交わしながら凝った体を背伸びしてほぐしているとエリナの前髪が濡れていることに気がつく。


「前髪が濡れているけど、どうしたんだ?」


 ルドが疑問に思い問いかけるとエリナは嬉々ききとして答える。


「それがですね。さっき小川を発見したんです! なので顔を洗ってきました」


「お前な。昨日の今日で単独行動はー」


 と言っている途中でバルバトスがこの場に居ないことに気がつく。


「バルバトスは?」


「一緒に行っていたのでもうすぐ帰ってくると思います」


 疑問にエリナが答えるのと同時にバルバトスが帰ってきた。


「おはよう。ルド」


 帰ってきたバルバトスがルドを見て挨拶する。


「おはよう」


 挨拶を返すと、二人にあった気まずさがなくなっていることに気がつく。


 一晩経ったことにより水に流したということだろうか。


 二人にならい自然体で接することにする。


「俺も顔を洗いたいんだけど」


 小川の場所を聞くとエリナはバルバトスの出てきた茂みを指さし答えた。


「真っすぐ突き進んだ先にあります」


「ありがとう」


 お礼を伝えて茂みへと足を踏み入れる。


 想像していたよりも小川までの距離は短く、すぐに見つけることができた。


 顔を洗い目を覚ます。家を出てからここまで大変だったなと思い返しているとバルバトスは何者なのかという疑問が不意に浮かぶ。昨日はエリナの一件で聞くことができなかったが、あとで聞いてみようと思いながら小川を後にする。


 ルドが戻ると二人は既に準備を終わらせていた。と言っても二人とも荷物と言える物はほとんどないのだが。三人ともほぼ手ぶらに近い装いというのを見ると本当に旅をしているのか怪しくなってくる。


「そういえば。バルバトスさんは何処に行く予定ですか?」


 ふと疑問に思ったのか、エリナが質問をする。


「僕もエリナたちと同じ王都の方に用があるんだ」


 バルバトスも一緒に同行するということが決まり、出発する。


 すると予想していたよりも早く森を抜け平原に出ることができた。


「森を抜けたし、今日中に到着できそうだね」


 バルバトスのその言葉に二人は安堵あんどする。


「そういえばバルバトスはこんなところで何をしていたんだ?」


 朝に浮かんだ疑問をぶつけてみる。


「私も気になります」


 すかざずエリナも興味を示してきた。


 少し悩む素振りを見せつつもバルバトスは答える。


「ある男を追っているんだ」


「ある男ですか?」


「最近、人が喰い散らかされる事件が多発してね」


「魔獣や魔物じゃなくてか?」


 ルドの問いにバルバトスは首を振って答える。


「目撃者がいてね」


「人を食べる男ですか。魔族だったりするんですかね」


「可能性は高いだろうね」


 エリナの懸念にバルバトスが答える。


 魔族。魔界に住む知的生命体。人間やエルフよりも魔法適性が高く、身体能力すらもはるかに凌駕りょうがしている存在。


 魔族だとしたら絶対に遭遇したくないが、魔族じゃないとしても大問題だ。


「でも魔族ってマナ濃度の低い人界では長期的な活動はできないはずじゃ」


 エリナの疑問も最もだ。魔族はマナとの親和性が高く、活動に大量のマナを必要とするからマナ濃度の低い人界では長期的な活動はできないはず。


「だから人を襲ってるんじゃないかな」


 なるほど。マナを直接蓄えている人間を襲って食べることでそこからのマナの補充が出きるのか。


 話を聞けば聞くほど魔族説が濃厚になってくる。


「一人で魔族を相手にするなんて大丈夫なのかよ」


「魔族だと厳しいかもしれないね」


 ルドの心配にバルバトスは苦笑して答える。

 苦笑ではすまないはずなのだが。


 魔族を追うこの青年は何者なのか。


「バルバトスはどうして魔族を追っているんですか?」


 エリナも同じ疑問を抱いたらしく単刀直入に尋ねる。


「それは人が死んでー」


 そこまで言うと、エリナの言っている意図に気が付く。


「あぁ。すまない。僕としたことがまだ言ってなかったね」


 バルバトスは改まり答える。


「ルンドルド王国騎士団副団長バルバトス。改めてよろしく」


 と衝撃の自己紹介をしたのだった。

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