魔界の侵略者
玻璃跡 紗真
プロローグ
村は壊滅していた。
王国からの調査依頼で来ていたヒューゴは馬から降りて絶句する。
目の前に広がるのは地獄そのものであった。
倒壊した家屋の
今まで幾度もの戦争を経験し、地獄を見てきたが、これほどまでに一方的な
「
胸を痛めながらも歩みを進める。すると人の足跡の三倍はある歪な
痕跡を辿っていくと、奥にクレーターが出来ているのを見つけた。その中心で少年が倒れているが目立った外傷はない。この
「子供が倒れているんだ、助けないでどうする」
とすぐに切り捨てる。
急いで駆け寄り抱き起すと、少年は寝息を立てていた。その姿に
不思議なことに少年は眠っていながらも刀の納まった
子供が持つには不相応な代物に疑問を覚えるが、少年だけが無事なことにも大きな謎が残る。
頭の整理が追いつかないでいると少年が意識を取り戻した。
「大丈夫か?」
「おじさん、誰?」
「私はヒューゴだ。君の名前は?」
その問いかけに少年は少し悩んだ様に言葉を詰まらせる。
「んー、ぼくのなまえ……」
少年は思い出せないのか言葉を繰り返す。
「ぼくのなまえは……ルド?」
「ルド、それが君の名前か?」
「うん! ルド!」
呼ばれたことでしっくりきたのか、満面の笑みでそう答える。
意識ははっきりしている。この子なら恐らく、この村の出来事を知っているだろう。
「なぁ。ルド、この村で何があった?」
何を言われているのか分からないのかルドは
この惨状で唯一生きている少年、まだ幼いとは言え当事者であり被害者だ。貴重な情報が得られると思ったが……
「すまない。忘れてくれ」
自身の失言に気がつき言葉を取り消す。
当事者の話は貴重だ。だが、幼い少年にそれを聞くのはあまりにも残酷だ。
この子の家族がいるのであれば探してあげたいが、恐らく生きてはいないだろう。原因究明とルドの面倒、どうするべきか。と思考を巡らせているとルドが身体を起こし周りを見渡す。
「どうして、みんなねてるの?」
しまった。と思ったがルドの言葉に疑問が生まれる。
「ルドは知らないのか?」
「しらない」
生まれた
「両親は覚えてないか?」
もしかすると記憶がないのではないか?という疑問をはっきりさせるべく、踏み込んだ質問を投げかける。
「りょうしん?しらない」
「そうか……」
記憶喪失という疑問は確信に変わり、ヒューゴは状況を整理する。
村は壊滅、生き残った少年は記憶喪失。謎の痕跡があるだけで真相は謎。家屋の崩壊具合からして巨大な何かが暴れたのだろう。
情報が少なく原因の究明が出来ないと諦め、ルドを連れて帰ることを決める。ルドを魔法で眠らせてから、最後に生存者の確認をもう一度行ったが他には誰も生きてはいなかった。
そうしてヒューゴはルドという少年を抱え王都へ帰還した。
男は目の前に倒れている死体を無視して玉座へと足を進める。広がる血の
男は玉座から王だった者を見下ろし、血の絨毯に包まれた死体に凶悪な笑みを浮かべ投げかける。
「これが人界と共存していくと誓った王の末路か? 内乱で死ぬとは情けない。安心しろ、お前の意志は私が踏みにじる」
男は玉座を立ち、城のバルコニーへと歩みを進める。城下は平穏、日常そのもの。先代の王が玉座についてから百年、国は発展し続け、生活の水準が上がり、平和は約束されていた。今日までは。
男は城下で何も知らず、平穏を
「魔王は死に、ここに新たな魔王が誕生したことを宣告する。異を唱える者は覚悟を持って前へ出ろ。受け入れる者には自由を、賛同する者には力を」
男の宣告に城下はざわつき始める。魔王の交代を
「私の目的はただ一つ。人界を侵略する」
魔王が死に、災厄が生まれ、魔王が誕生した。
今まで止まっていたもの、止めていたものが動きだす。
――それから十二年
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