第11話

昨日買った新譜を聞きながら、布団に入ったが後半の曲は聴けていない。

再生ボタンを押し、室内にジャズが響く。

カーテンを開いて、朝の空気を迎えいれた。

コーヒーを淹れ、ソファに体を預けた。

テレビでは、旅行番組が放送され、その土地の、お勧めの場所や特産品や名物料理が煌びやかに映っている。

テレビを見ながら、ここ行ったなぁとか、行ってみたいなぁとか、思い出と願望が入り混じる。

番組で紹介されている料理との格差を痛感しながら、バタートーストを頬張った。

しばらくテレビを見た後、視聴者プレゼント企画の高級なお肉、もしくは民芸品の応募に電話をしようと思ったが辞めた。

カーテンが風を受け大きく揺れているのが、ふと目に入った。

その不規則に揺れるカーテンをぼーっと見ながら、コーヒーを啜る。

考えないようにしても、自然と考えてしまう。

正に先週の出来事だ。

夢のような日々を過ごし、今まで味わったことのない感情と向き合った数日間だった。

二人の思い出は今後更新されることはなく、サービス終了したアプリのような存在へと姿を変えた。

昔のゲームを何度もプレイし、変わらぬ結果に思いを馳せる。

そんな感じだ。

整理できない感情が胸の内から溢れだし、涙が頬を濡らした。

二人が住んでいた部屋に今は一人。

初穂は、一人泣いた。


揺れ動くカーテンに誘われたのか、1匹の赤とんぼが窓べりにとまった。

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