第9話

あれから自宅に帰り、布団に潜りながら眠るまでの間、スマホを触りながらある一つの答えにたどり着いた。

仕事を終え、初穂は不動産屋の前で立ち止まった。

今、住んでいる部屋には二人の記憶が充満しているせいで、無意識にあの人の姿を思い浮かべてしまう。

昨日からスマホの画面は、部屋の見取り図でいっぱいで、数時間検討するだけでも素人ながらに部屋の善し悪しが分かるようになった。

不動産屋のガラス窓の張り紙を、何度も目でなぞった。

この町とは別の町へ引っ越すべきか、思い切って地元へ帰って新しい人生を謳歌すべきか、悩んでいた。

居心地の良かったこの町も、いまとなっては少しばかり不快感がある。この町のせいではないものの、少し嫌いになる。

張り紙の中から、めぼしいものを1つ2つ写真を撮っていく。

この町と離れていくんだと思うと、寂しい反面、心は軽くなる気がした。

いつもより少し足早に家へと向かった。

夕食を終え、先ほど撮った写真を眺めながら次の居場所について考えている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る