第19話 魔王VS勇者

「行くぞっ! クソ魔王っ!」


 剣を振り上げ切りかかるマティス。

 その剣捌きは実に稚拙で、訓練を積んだものとは思えなかった。


「グルルルル……ぐわぉ!」


 対する魔王。両手から無数の斬撃を放つ。

 遠距離から放たれる空間をも切り裂く波動が、どんな敵であろうと真っ二つに裁断する! その技の名は……。


飛連爪ひれんそうッッッ!」


 技名を叫ぶ魔王。割とカッコいい。


 魔王が繰り出した斬撃により、置いてある道具が次々と切り裂かれる。アリサはバリアを張って身を守っていた。

 しかし、マティスは無防備のまま突っ込んでいく。斬撃が何度もヒットしているはずだが……奴の身体には傷一つつかない。


「うおおおおおっ! 死ねぇぇええええ!」


 マティスは剣を全力で振り落とす。だが……。


「なっ⁉ 固てぇ⁉」


 攻撃が通らず、マティスは驚愕。魔王は右腕で刃を受け止めてなお涼しい顔をしている。


「今度はこちらの番だ!」

「ぐおっ⁉」


 魔王が反撃。左手で勇者の顔面を殴打する。

 ガードでなかったマティスは吹き飛ばされ、壁際までゴロゴロと転がっていった。


「どうした勇者よ? その程度か?」

「クソっ……ったれがぁ……」


 なんとか態勢を立て直すマティス。魔王の拳を顔面に喰らったのにまだ戦えるのか。下手をしたら首が吹っ飛ぶ威力だぞ。


「貴様が余の斬撃を受けてなお倒れないのは、

 何か特殊な力を持っているからだな?」

「お見通しってわけか、クソがっ!

 てめぇの皮が剣を通さねぇのはなんでだよ⁉」

「ふふふ……余も貴様と同じというわけだ」


 二人がすごく高度な会話をしている。俺には何がなんだか……。


 彼らが敵の攻撃を受けても平然としているのは、特殊な力が備わっているからだろう。魔法とは違うらしい。


 互いに損傷は軽微でまだまだ戦える状態。五分五分に見える状況ではあるが、魔王の方が優勢な感じがする。

 戦闘での経験値はレオンハルトの方が上。マティスの剣技はあまりにレベルが低い。


「流石はクソ魔王……伊達に最強名乗ってねーな」

「最強を名乗ったつもりはないのだが……。

 まぁ、余の強さを前にしたら、

 そう思ってしまうのも無理はない」

「吠えてられるのも今の内だぜ」


 勇者の持つ剣の刀身が光り出した。これは……必殺技的な奴だろうか?


「ほほぅ、面白い……いったいなんの技だ?」

「てめぇをぶっ殺すのに丁度いい必殺技。

 その名も……爆裂閃光剣バーストライトニング!」


 良く分からない技名だった。


 光る剣で霞の構えをする勇者。カッコいいが、あれからどう動くのだろうか? なんて呑気に眺めていたら……。




 ぶわっっっ!




 勇者の姿が消えたかと思うと勢いよく衝撃波が吹き荒れる。そして間髪入れずに大爆発。

 辺りに閃光が放たれ何も見えなくなり、俺は飛んできた甲冑に押し倒され下敷きに。なんとか這い出ると、一変した状況が目に飛び込んできた。


 勇者がいた場所から魔王の手前まで、床に敷かれている石が一直線に抉られている。すごいエネルギーを発しながら突撃したらしい。


 マティスは魔王に剣を突き出したまま動けない。レオンハルトが白刃取りのように剣を受け止め、攻撃を防いだからだ。


「ほほぅ、面白い。これが……勇者の剣か」

「なんて耐久してやがる……クソ魔王。

 マジでバケモンか、てめぇは……」


 余裕の魔王。しかし爆発までは防げなかったようで、彼のたてがみはもじゃもじゃになっていた。


「並みのクソ魔族なら一瞬で消し炭にするんだが。

 てめぇは規格外らしいな……クソがっ!」

「これでも一応、魔王なのでね。

 簡単に倒れることはできぬのだよ」

「へぇ、これならどうだ!」

「え? ふぎゃああああああああ!」


 勇者の身体から紫電が放たれたかと思うと、魔王が悲鳴を上げる。

 どうやらマティスが放電しているらしい。


「爆裂閃光剣が防がれたのは予想外だが、

 俺は元々二段構えで挑むつもりだったのさ!

 どんなにテメェの皮が厚くても、

 電撃までは防げねぇだろうがっ!」


 なるほど。電撃か。

 これなら確実にダメージが入るし、防御されても関係ない。単純な戦闘力は明らかに魔王の方が上だが、悪知恵では勇者の方が勝っているようだ。


 というか、どうやって電撃を? 詠唱した様子はないが……これも特殊な力の一つなのか?


「あばばばばばばっ! ぴぎいいいいい!」


 感電して悲鳴を上げる魔王。放っておいたらマズイ気がする。ここは俺が……。


「まてっ! 勇者っ!」

「ああんっ? 誰だっ……うわっ! まぶしっ!」


 俺はライトの魔法を発動。光量を最大限にまで上げ、目くらましにした。


「ぐぇっ! 目が……目がぁ!」

「あばばばばっ! 今度はなんだっ⁉

 電撃の次は目つぶしか⁉ 何も見えないよ!」


 両眼を押さえるマティスとレオンハルト。


 勇者に襲い掛かったとしても、俺はダメージを与えられない。狙うのは……僧侶のアリサ。彼女を人質に取りさえすれば……!


「うおおおおおおおおおっ!」

「きゃぁ、なにぃ⁉」

「うぎゃあああああああああああ!」


 目くらましをくらったアリサだが、俺を突き飛ばすくらいはできる。彼女にちょいと押されたら倒れてしまった。

 だめだこりゃ。


 スケルトンである俺の筋力と耐久は最低値。女の子相手でもあっさりと負けてしまう。


「え? なに? スケルトン⁉」

「アリサぁ⁉ なんだそりゃ⁉」

「分んない、急に出てきて……」

「魔王を守るために出て来た下級アンデッドか?

 このクソ骨がっ! 邪魔すんじゃねぇ!」


 勇者マティスは肩をいからせ歩み寄って来る。


「うーん……まぶしい」


 レオンハルトは目を押さえて怯んだまま。助けてくれそうにない。


「おい、クソ骨」

「はい、なんでしょう」

「死にさらせクソがぁあああああ!」

「あびゃあああああああああ!」


 マティスの繰り出した拳に、俺は成す術もなく木端微塵に砕かれた。


 バラバラになった俺の身体。頭蓋骨だけは無事だったが、これでは修復は不可能。新しい身体を手に入れなければ一人で歩くことも出来ない。


「クソ骨がぁ……俺の仲間に手を出しやがって。

 粉みじんにして豚の餌にしてやる」


 怒りの形相を浮かべるマティス。マジで悪魔みたいな顔だ。


「……死ね」


 手に持っていた剣を勢いよく振り下ろす。しかしマティスの剣が俺を砕くことはなかった。




 きぃん!




 誰かが間に割って入り剣を防ぐ。


「誰だ……テメェ」

「…………」


 勇者の前に立ちはだかる黒い甲冑の騎士。何処からともなく現れた彼が俺を救ってくれたのだ。

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