社畜は二度死ぬ! ~最弱アンデッドと化した俺は獣人魔王に仕える参謀として、脳筋底辺国家を最強覇権国家へと導く!~

たらこくちびる毛

第一章 骸骨の参謀

第1話 幹部のお仕事

 長い廊下。ツカツカと足音を鳴らしながら大股で歩いて行く。

 歩くたびに骨がきしむ。この体ももう限界かもな。


 大きな扉の前に立ち、大きく深呼吸をする。

 肺は存在しないので気分だけ味わう。


 気分を落ち着けて扉を開いた。


「失礼します!」

「……なんだ」


 玉座に腰かけるライオンの姿をした大柄な男が、こちらを見て面倒くさそうに言う。黒いコートをまとった彼は、獣の姿をした獣人たちを統べる魔王である。


「翼人族の偵察部隊の結成についてですが、ご一考いただけましたでしょうか?」

「え? そんな話してたっけ?」


 キョトンとする魔王。まるで初めて聞いたかのような反応。


「ええ、確かにしたと思いますが……」

「そうだったか? 記憶にないが。

 そもそもどうして翼人族を?

 飛竜を連れて行くのはダメなのか?」

「飛竜の運用にコストがかかるからです。

 簡単に説明すると一匹に付き、オーク50人分の食料が必要です」

「え? そんなに?」


 この説明、少し前にしたはずなのだが……。

 魔王はすっかり忘れてしまっている。


「ええ、閣下。

 飛竜は基本的に新鮮な肉しか食べないので、必要となる餌の量が増えるのです」

「現地で人間の肉を食わせるのはダメなの?」

「ダメです。

 変な病気でもうつったら取り返しがつきません。

 一匹ダメになっただけでも大きな損失になります。

 飛竜を育てるのにどれだけの費用がかかるか、ご存知ですか?」

「えーっとっ……」


 ぼりぼりと頭を掻く魔王。説明するのも面倒になってくる。


「あれを一匹、成体まで育てるのに、およそ三年と六か月かかります。

 その上で人を乗せて飛行できるようにするのに丸一年。

 更には飛竜に乗って戦う兵士の訓練も……」

「ああ、翼人族を使った方が楽だな」


 ようやく納得してくれた。


「ですが、閣下。

 自由気ままな翼人族のことです。

 彼女たちを使役するには十分な準備が必要です」

「準備とは?」

「詩人、踊り子、音楽家。

 戦場で彼女たちを慰めるための娯楽が必要なのです」

「そんなものどうやって用意するの?」

「私が奴隷をかき集めて用意しました」

「さすが」


 鼻くそをほじりながら聞き流す魔王。


「ですが、また新たに問題が」

「ええっ……」

「奴隷を輸送する為の荷馬車が必要です。

 こちらに新たに確保すべき物資の一覧と、費用の方をまとめておきました。

 ご確認下さい」

「なんだか面倒くさいな。お前に全部まかせるわ」


 差し出した資料をチラ見した魔王は、これまた面倒くさそうに押し返してきた。


「では閣下、必要な書類にサインをお願いします。

 こちらが奴隷を従軍させることを命ずる書類。

 こちらが必要な物資を確保するための書類。

 そして翼人族の部隊を組織する為の書類」


 俺は書類の束を差し出す。


「ええっ、こんなに?」

「はい、こんなにです」

「なんでこんな書類が必要なの?」

「ご納得の上、命令されていると証明するためです」

「これが無いとどうなるの?」

「誰も私の言うことを聞きません」

「そうしたら?」

「無策のまま人間と戦うことになります」

「というと?」

「先代と同じ末路を辿る、ということです」

「はぁ……」


 魔王は落ち込んだ様子でうなだれる。


「それだけは嫌だな」

「ですから、綿密な計画を立てる必要があるのです。

 先代は無計画のまま戦いに臨み、勇者たちに打ち取られてしまいました。

 閣下も同じてつを踏まないために、懸命なご判断をお願い申し上げます」

「ああ……分かってるよ。んもぅ」


 うんざりした様子でふんぞり返る魔王。

 嫌でもサインしてもらわないと困る。


「その黒と緑のしま模様のマフラー。どうしたの?」

「ああ……これは……」


 魔王は書類にサインしながら、

 俺が身に着けているマフラーに目を向ける。


「これは貰ったんです」

「誰に?」

「部下に……」

「……よかったな」

「どうも」


 俺は一礼して王の間を後にした。






 はぁ……本当にやれやれだ。

 俺は一人、元来た廊下を引き返し、自室へと向かう。


 途中、何人か顔見知りに会うが、軽く会釈をしただけで挨拶を済ます。誰かと立ち話をする気にはなれなかった。


「ふぅ……」


 自室の扉の前でため息をつく。やはり肺は無いので雰囲気とノリだけを味わう。本当に息を吐いているわけではない。


 右見て、左見て、もう一度右を見て……ヨシ! 誰も見ていないことを確認してゆっくりと扉を開き、素早く部屋の中へと滑り込んでドアを閉める。


「あっ、お帰りー。遅かったね」


 ベッドの上で一人の少女が寝ころんでいる。

 芋を薄くスライスして油で揚げ、塩で味付けした菓子。それを美味しそうにほおばりながら、うつ伏せになってパタパタと足を動かしていた。


「ご機嫌そうだな、勇者」

「うん、これ面白い」


 そう言って読んでいた本を持ち上げる少女。


 俺は今、部屋で勇者を飼っている。

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