鬼童丸

あの日から親父とお袋がいつも泣いていたのは知っている。

仕方がなかった事でも仕方がなかったと割り切れないのが生きている人間の性とでもいうのか。

 姉にあたる京香の母親もお盆には必ず菓子とジュースを供えた。

お下がりを食べていたのはいつも京香だった。

あの子は俺の話を姉貴から初めて聞いた時はわんわん泣いた。

 優しい子なんだ。全く知らない俺の事を知って泣いてくれるくらい。他人の痛みに敏感で感化されてしまう繊細な子。

もし俺が産まれて、生きていたらをずっと考えてくれた。

寂しがり屋のあの子はこの世の味方が一人でも欲しいんだろう。

だとしても、京香はいつも思っていてくれた事に変わりはない。

 あれこれの妄想があの子の妄想で作り上げれたヒノコムで俺という形をくれた。

そして俺は今、親父とお袋のアホなやり取りを笑いながら眺めていた。

 京香、お前がこっちに来るにはまだ早いんだ。

産まれ来なかった死者の俺が人生を語るのはあれだが。

宿命の死を待たずに世を去るのは残した者達にも十字架を背負わせるんだ。

叫喚の念、怨嗟の念がお前を縛るんだ。

だから自分で死のうなんて思うな。

 京香、お前とまた話すのはずっと先でいい。

どうか、今を生きようと思ってくれ。

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