君の生きたホシは

藤市 優希

第1話


 おねーさんは人生最後の日、何食べたい?


 落ち着いた雑踏の中から、何の躊躇いもなく耳に入って来た若干舌っ足らずな声。それが聞こえた方にゆっくりと目を向ける。

 ちょっと離れた木陰の下に、小学生ぐらいの女の子が見えた。

 ぴょこぴょこと小さな体を揺らしながら、目の前の顔から目を離さないように、と必死に顔を見上げている。

 半年に一度、話題のネタにするようなしないような。そんなありふれたことを喜々として訊ねる子どもは単純で無邪気だ。

 さっきまで他の同い年ぐらいの子達と人工芝の上を駆け回って、そんな話題が出ているようには見えなかった。ということは、ただ頭に浮かんだ言葉を口に出しただけなんだろう。

 質問された側の……大学生っぽい女の人は、「うーん」と大袈裟に考えた素振りをする。少しの間の後、「大好きな人が作ってくれたものがいいかな」と女の子の目線に合わせて微笑んだ。


 人生最後の日に食べたいもの、かー。

 視線をその会話から外して、自分の足元に目を落とす。

 一度は他愛のない会話の中で答えたことがあるはずなのに、自分の回答は思い出せない。多分どうでもよくて適当に受け流したんだよな、と思い返す。

 人生最後の日、実際その日が来るのはあの子ども達の中で私が一番早いはずなのに。

 それでも興味が持てないのは、自分が生きてることに価値を見いだせないからだ。……多分。

 だから死ぬ前に何やりたい?って言われても「特にないかな」って答えるし"一生のお願い"なんてものは使ったことがない。

 自分が生きてる意味がわからない私は、あの子ども達よりほんの少し長い人生で、何を生きたんだろう。


 *


 余命一ヶ月。

 そう医師に告げられたのが三週間ぐらい前。

 つまり予定では、私は一週間後に死ぬ。

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